著者
藏中 しのぶ
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学 (ISSN:03869903)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.31-39, 2011-05-10 (Released:2017-05-19)

唐代口語語彙は、律令・仏教・文学という学問の講説の場で、最新の唐代の学問を継承し、中国語話者をふくむ講師によって口頭で講じられ、講義録として私記類に記録され、さらにそれらが類聚編纂されて古辞書・古注釈類をはじめとする後世の文献に定着した。講説の場として、律令学の大安寺における「僧尼令」講説、仏教学の唐僧思託による漢語を用いた戒律経典の講説、文学の『遊仙窟』講説という三分野の学問の場をとりあげ、その担い手が律令官人・在俗仏教徒・文人という性格を兼ね備え、彼らが学問としての講説の場で唐代口語という異言語を共有していた状況をあきらかにした。講説の場では、養老年間以前に成立した会話辞書・口語辞書『楊氏漢語抄』『弁色立成』等が工具書として共通して使用されていた可能性を指摘し、律令学・仏教学・文学の諸分野が交錯する多言語・多言語状況を論じた。
著者
藏中 しのぶ
出版者
日本文学協会
雑誌
日本文学
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.31-39, 2011

<p>唐代口語語彙は、律令・仏教・文学という学問の講説の場で、最新の唐代の学問を継承し、中国語話者をふくむ講師によって口頭で講じられ、講義録として私記類に記録され、さらにそれらが類聚編纂されて古辞書・古注釈類をはじめとする後世の文献に定着した。</p><p>講説の場として、律令学の大安寺における「僧尼令」講説、仏教学の唐僧思託による漢語を用いた戒律経典の講説、文学の『遊仙窟』講説という三分野の学問の場をとりあげ、その担い手が律令官人・在俗仏教徒・文人という性格を兼ね備え、彼らが学問としての講説の場で唐代口語という異言語を共有していた状況をあきらかにした。</p><p>講説の場では、養老年間以前に成立した会話辞書・口語辞書『楊氏漢語抄』『弁色立成』等が工具書として共通して使用されていた可能性を指摘し、律令学・仏教学・文学の諸分野が交錯する多言語・多言語状況を論じた。</p>
著者
藏中 しのぶ
出版者
大東文化大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2003

『和漢朗詠集』絵入版本2種、貞享元年「絵入」と元禄2年「図解」における詩題と挿絵の画題を比較検討し、以下の結論をえた。(1)「絵入」は『和漢朗詠集』の部立の詩句本文に具体的に詩語として詠みこまれた表現素材を散りばめて、一幅の絵を構成していた。すなわち、「絵入」は、ひとつ以上の部立の漢詩句と和歌の詩語にもとづいて、直接的に絵画化のための素材を選択していた。(2)「絵入」は数少ない挿絵を有効に活用するために、一幅の絵のなかに複数の漢詩句・和歌の意味をこめていた。「絵入」の絵が同時に複数の部立の十数首にもおよぶ詩句本文の挿絵として機能できたのは、この絵が部立のなかの複数の表現素材を統合していたためである。「絵入」の絵は一幅の絵として完成されており、なおかつ、そのなかに複数の部立の代表的な詩語を配している。(3)「絵入」の五年後に刊行された「図解」の絵は、「絵入」に学びつつも、「絵入」の絵を解体する。統合された「絵入」の絵から、一、二の素材をぬきだして、ひとつの小さな絵を構成するのが、「図解」の挿絵の手法である。(4)「絵入」の絵は、漢詩句・和歌のひとつひとつに対するのではなく、部立全体をひとまとまりとみて、総合的な一幅の絵を構成しようとしている。つまり、「絵入」の絵は、『和漢朗詠集』の漢詩句一句・和歌一首の断片的な理解によって構成されているのではない。むしろ、部立の連続性をよく踏まえて、ひとつの絵を構成するのが「絵入」の方法であった。最初の絵入り版本「絵入」の絵には、複数の詩句本文の詩語、さらにはこれらを含みこむ複数の部立の意味が統合性と連続性をたもちつつ、一幅の絵の中に凝縮されていたのである。