著者
岩佐 由美 藤井 千枝子
出版者
日本健康医学会
雑誌
日本健康医学会雑誌 (ISSN:13430025)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.150-158, 2022-07-25 (Released:2022-10-17)
参考文献数
20

高齢患者の安全な服薬に示唆を得るため,パーキンソン病患者会会員436人に質問紙調査を行った。248人の分析対象者(有効回答率56.9%)の平均年齢は72.2歳だった。173人(69.8%)が服薬の「自己調整なし」,75人(30.2%)が「自己調整あり」と回答した。両群を比較した結果,「自己調整あり」の平均年齢と平均発症年齢は低く,平均罹患期間は長かった。薬の平均種類数と残薬の平均日数は「自己調整あり」において多く,ともに有意差があった(p<0.05)。二項ロジスティック回帰分析の結果,症状では不眠(OR=3.56:95%CI=1.740−7.271),オフ症状(OR=2.44:95%CI=1.224−4.864)が服薬の自己調整に対して有意差があるリスク要因で,受療行動では医師に症状を伝えることに困る(OR=2.85:95%CI=1.136−7.131),医師に薬の考えを話さない(OR=0.34:95%CI=0.131−0.896),薬を減らしたいと考える(OR=2.33:95%CI=1.045−5.174)が有意差がある服薬の自己調整のリスク要因だった(p<0.05)。医師の専門性,治療満足度は服薬の自己調整に対して有意差があるリスク要因ではなかった。これらから,服薬を自己調整することによる有害事象から高齢患者を守るためには,不眠やオフ症状がある患者に対して症状緩和のために生活環境調整をあわせて行うことや,薬を減らしたいと考える患者や自らの考えを強く持ち治療に積極的に参加する患者に対して本人の考えや思いをより丁寧に把握していく支援が必要だと考えられた。
著者
藤井 千枝子
出版者
慶應義塾大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

遺伝医療においては、遺伝子診断が可能となっても、治療法が確立されていない疾患がある。遺伝子診断によって患者は、疾病に罹患する予測が立ち、それによる就職や、保険加入時による不利益が起こることが危惧されている。新しい医療技術の発展に伴い、医療現場でも、新たに様々な問題が生じるであろう。入院患者と多くの時間を共有する看護師が、遺伝に関する理解を高め、患者をどのように擁護するかは、今後の遺伝医療の発展の中で重要な鍵となる。患者の療養に関する援助を行うためには、遺伝に関する知識が不可欠なものとなる。現在、癌など、臨床現場の病名告知は、告知前に患者家族と相談して本人へ伝えることが多い。しかしながら遺伝子疾患に関連する告知は、本人だけでなく、その家族の病名診断となりうる。また、家族は、法的な家族であっても、生物学的な家族とは限らない。家族関係の告知ともなりうる。このような医療の進歩の中で、看護は、ケアの倫理を基盤とした患者支援が益々重要となる。本研究は、看護教育において、遺伝医学をどのように導入するかを明らかにすることを目的とした。特に、遺伝医療の発展と疾患に伴う社会的問題、看護の役割について文献レビューおよび国内外の調査により、検討した。その結果、今後の看護基礎教育においては、遺伝に対する理解と、偶発的危機状況にある人々を支援するための看護を構築していくことが必要であることが明らかになった。これらの背景から、看護の遺伝学の基盤となる教育としては、(1)分子生物学の基礎、(2)遺伝と疾患;ゲノムプロジェクトからポストゲノムの時代へ、(3)人々の多様性の意義(生物として、社会として)、(4)集団遺伝学、(5)環境と遺伝、(6)危機理論・危機介入、(7)患者・家族の支援、(8)遺伝と倫理、(9)遺伝看護学の可能性と課題に関する内容が必要と示唆された。