- 著者
-
藤井 忠志
- 出版者
- 日本鳥学会
- 雑誌
- 日本鳥学会誌 (ISSN:0913400X)
- 巻号頁・発行日
- vol.70, no.1, pp.1-18, 2021-04-23 (Released:2021-05-14)
- 参考文献数
- 80
本州に生息するクマゲラDryocopus martiusは,高度経済成長期におけるブナ林伐採により,生息地を奪われ,北東北のブナの自然林が残存した地を拠点とし,種を維持してきたが,研究者も少ないことから未解明な生態が多い.本論文では,本州におけるクマゲラの生態と研究小史に焦点をあて,これまで何が既に解明されており,何が未だ解明されていないかを整理し,次に解決すべき課題が何かを明白にすることを目的とした.クマゲラはムネアカオオアリを主とするアリ類を捕食し,営巣地の最終決定は雌が行う.繁殖期の役割分担の違いは明確で,つがいのどちらかが死んでも残った片親で巣立ちまで世話をする.巣立ちは6月中旬に行われ,平均の巣立ち雛数は2.2羽で西ドイツにおける値に近い.またクマゲラの巣穴は他の鳥獣にも利用され,要石的種としての役割を果たしているものと推定される.一方,本州での営巣木選好性の決定要因の把握が大きな課題でもある.例えば,営巣地環境,生立木である理由,胸高直径の許容範囲,下枝から巣穴までの距離,樹幹の傾斜,巣穴(産室)の大きさなど.さらにねぐら木や行動圏の把握,現状の分布および新たな分布などまだまだ明らかになっていない課題がある.本州のクマゲラについては,江戸時代すでにクマゲラが生息していたことを示す観文禽譜という古記録が存在していた.また,クマゲラの発見には川口孫治郎ほか多くの研究者や人物が関与し,現在では北東北三県のブナ林に定着していることが明らかになった.しかし,北海道など主要な生息地との個体交流も限られている可能性が高く,本州のクマゲラは,早急に保護を要する可能性が高いと考えられる.