著者
大渡 伸 藤原 真理子 岩元 純 范 育仁 土屋 勝彦 小坂 光男 HW Soeliadi
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.235-241, 1983-12-28

熱帯地住民は暑さに強い事がよく知られている.彼等は,躯幹に比べ四肢が長く,体重当たりの体表面積が大きく,体構成では,皮下脂肪が少なく,能動汗腺総数の増加が見られる等,放熱に有利な特徴を備えている.これらの差異を知る事は,暑熱環境への順化のメカニズムを考える上で重要であると思われる.そこで我々は,熱放散反応のなかから,特に発汗現象に注目し,熱帯地住民を被験者として,一定条件(気温30℃相対湿度60%)下で局所温度負荷をかけ発汗を誘発した.それに伴う深部体温と皮膚温の変化は,それぞれ舌下に入れたサーミスター温度計と,前胸部をサーモグラフィでモニターした.その結果,両膝下部を43~44℃の温湯に30分つけるという局所負荷で,被験者の負荷開始時点から発汗までの潜時は10分であった.比較の為に同一条件で行った日本人による実験では,被験者は,負荷以前に発汗してしまい,潜時は測定出来なかった.この事から,被験者となった熱帯地住民は,日本人被験者に比べ,発汗までの潜時が非常に長い事がわかった.この理由としては,暑熱環境に順化した人の方が非順化人よりも,発汗に関する深部体温の閾値が高いかあるいは刺激前の深部温度が低い為に,同じ強さの温度負荷に対しても,発汗までの潜時が長いという可能性が考えられる.今後データの集積をはかり,更に詳細について検討していく所存である.The sweating response evoked by a local heat load was studied in an inhabitant of tropics in a climatic chamber. The change of skin temperature according to sweating was monitored by thermography. Time lag of the onset of sweating in the subject was about 10 minutes after initiation of a heat load. In such a condition, a Japanese volunteer sweated instantly without any heat load. The central and peripheral mechanism of heat acclimatization was discussed from the aspects of temperature regulation.