著者
藤岡 慧明 飛龍 志津子
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.91-99, 2019-08-06 (Released:2019-08-26)
参考文献数
52

コウモリは,自身が放射した超音波の反響音を聴取・分析することによって周囲環境を把握する。これをエコーロケーション(反響定位)と言う。コウモリは,高度なエコーロケーションを実現する聴覚神経機構を研究するためのモデル動物として,盛んに人工環境下における実験が行われてきた。一方で,コウモリは野外において微小な飛翔昆虫を次々と捕食するという高度なパフォーマンスを実現しているにも関わらず,自然環境下における超音波利用については,計測が難しいことから検討があまり進められてこなかった。2000年代に入った頃からは,計測技術の向上により,獲物探索および定位のための指向性制御などのソナー運用に関する報告が多く成されるようになってきた。 さらには,複数の獲物を次々と連続的に捕らえる際のコウモリの合理的な戦略についても近年明らかとなった。本稿では,まずコウモリのエコーロケーションについて概観した上で,野外研究を中心にコウモリの採餌飛行時におけるエコーロケーションの運用方法について概説する。そして,採餌飛行を,獲物探索時・捕食飛行時・複数標的捕食時の三つに分けて,彼らの採餌のためのエコーロケーション戦略について考察する。