著者
小林 耕太 古山 貴文 飛龍 志津子
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2017-04-01

本研究の目的は近赤外レーザー人工内耳を開発することである。同人工内耳は従来型の電極を刺激プローブとして使用するものと異なり、低侵襲で聴覚を回復することを目指している。神経細胞膜中のイオンチャネルの多くは熱に対する感受性を持つ。近赤外レーザー光を神経細胞に照射することで、チャネルを加熱し(最大5℃)、活動電位を誘発することができる。生体外より聴覚末梢(蝸牛神経)をレーザーで刺激することにより、低浸襲・非接触で神経活動を誘発し、聴力を再建することが可能になると私達は考えている。当該年度は(1)スナネズミを被験体として、レーザー刺激部位の同定およびレーザー刺激による音圧、周波数の再建の可能性を検討した。具体的には、レーザーにより刺激する部位を変化させることで異なる周波数の聴こえを再建可能であるか検証するため、レーザー刺激用光ファイバーが蝸牛のどの部位を刺激しているかについてX線マイクロCTを用いて定量化を行った。またレーザーの刺激パラメータ、繰りかえし周期および出力を変化させることで、音の周波数および音圧を変化させたのと同様な神経応答(脳幹および皮質応答)がえられることがわかった。(2)ニホンザルを被験体として、音響生理実験を開始し、聴性脳幹反応および皮質由来の神経活動(Auditory evoked potential)の記録をおこなった。単純な音(クリック音)および音声(coo call)に対する脳幹および皮質応答の記録に成功した。さらに(3)ヒトを被験体として、これまでに作成したレーザーにより再建される音の「聴こえ」をシミュレートした音声が、老人性難聴に有用であるかを実験的に検証した。老人性難聴において顕著に不足する高周波のフォルマント情報をレーザーにより補強することで高周波に知覚手がかりをもつ子音の聞き取りが有意に上昇する結果が得られた。
著者
飛龍 志津子 力丸 裕 渡辺 好章
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.89, no.12, pp.1079-1084, 2006-12-01
被引用文献数
4

近年,生物が有する様々な生体アルゴリズムをテクノロジーヘ応用するバイオミメティックス(生態模擬技術)が提案されている.本研究は,次世代の音響センシング技術などへのブレークスルーを指向し,コウモリが超音波を利用して行う効率的な周囲環境情報収集システムを工学的に明らかにしていくことを目的としている.本稿では,生物ソナーと呼ばれる彼らのエコーロケーション能力を,実際の行動観測から得た結果を基に紹介する.
著者
小林 耕太 飛龍 志津子 宮坂 知宏 古山 貴文 玉井 湧太
出版者
同志社大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2021-04-01

本研究の目的は近赤外光刺激を利用した次世代人工内耳を開発することである。従来型の人工内耳は電気的に聴神経を刺激するため、聴覚末梢器官である蝸牛に電極アレイを挿入する外科手術を必要とする。本計画では非接触で神経活動を引き起こさせる手法である、赤外光により熱的に細胞を刺激する手法を人工内耳に応用し、神経活動を非接触で誘発し、聴力を再建(または補助)する手法の開発を目指す。具体的には、動物実験により光刺激が再建可能な知覚内容を検討するとともに、装置を長期装用した場合の生体への影響(安全性)を評価する。また、主にヒトを対象として装着方法および言語知覚を再建するための刺激アルゴリズムを検討する。
著者
小薮 大輔 小林 耕太 福井 大 飛龍 志津子 目黒 史也
出版者
筑波大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2022-10-07

哺乳類の頭蓋骨は種に関わらず同じ数のパーツ(骨要素)によって構成されていることから,進化上極めて保守的な構造であるとされている.しかし応募者は他の哺乳類には見られない新奇な骨が一部の動物の耳にあることを発見した.この骨は従来の比較解剖学の体系上どこにも当てはまらない全く未知の骨である.予察的研究からこの骨は他の哺乳類では舌器の一部に当たる部位が転じて化骨したものであるという仮説を立てている.本仮説の検証を目指し,本研究ではどの部位が分化してこの骨が形成されるのか,どういった遺伝子とゲノム基盤が関わっているのかを解明する.
著者
長谷 一磨 飛龍 志津子
出版者
THE JAPANESE SOCIETY FOR ANIMAL PSYCHOLOGY
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.55-67, 2019 (Released:2019-12-18)
参考文献数
79
被引用文献数
1

Bats emit ultrasonic vocalizations through their mouths or nostrils, listen to echoes returning from surrounding objects, and reconstruct three-dimensional images to navigate in the dark. To perform the reconstruction, bats compare their original emission with returning echoes that have been changed by the surroundings. In natural environments, echolocating bats receive various sensory inputs, including insect echoes, clutter echoes, and pulses and echoes from other bats, which must create a complex acoustic situation. Here, we discuss how bats extract own faint echoes in the presence of noise, by focusing on three similar but different situations; auditory masking, clutter interference, and jamming. Sensitivity to faint echoes is maintained after intense pulse emission, by contraction of middle ear muscles during emission. Echoes from off-axis objects could be "defocused" by comparing spectral features in the pulses and echoes. In the presence of conspecifics, bats increase the intensity and duration of pulses to improve the signal-to-noise ratio of their own echoes. They also regulate spectrotemporal features of pulses to separate their own echoes from sounds of conspecifics. Some of the adaptations made by bats may have future engineering applications for radar or sonar systems.
著者
小薮 大輔 飛龍 志津子 小林 耕太 東山 大毅 福井 大
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))
巻号頁・発行日
2018-10-09

本年度はこれまでベトナムで収集したコウモリ類の胎子標本を発生ステージ表を参照してステージの同定を行った。また収集した標本はPFA固定、カルノア固定、エタノール固定をそれぞれ行った。それらをマイクロCTによる三次元的非破壊撮影を行ったのち、パラフィン包埋標本・凍結標本を順次作成し、アセチレッテドチューブリンを用いた神経系の免疫組織化学染色、ヘマトキシリン・エオシンを用いた筋系・硬骨・軟骨の組織染色を行った。また、Ptch1, Ihh, Runx2, Sox9, Aggrecan 各遺伝子のRNAプローブの作成を進め、その合成に成功した。予察的にこれらのRNAプローブによるin situ ハイブリダイゼーション実験を開始したが、高品質の染色結果を得ることに成功した。新年度以降は本格的にこれらを用いてコウモリ類における舌骨発生に関連する遺伝子の発現パターンの把握を目指す。また、野外においてコウモリ類の超音波発生および聴取の行動を三次元動画記録、音声ソノグラム記録を行い、コウモリ類のエコーロケーション行動の把握につとめた。さらに、野外で捕獲したコウモリ類の成体に対し、脳幹上丘に刺激用双極電極を挿入して刺激に対する超音波発声および耳舌骨を含む外耳の動きを計測した。刺激部位に逆行性神経トレーサ・フロオロゴールドを注入し、刺激量および刺激部位を変量として、外耳の動き、発声タイミング、発声の音響特性が脳幹上丘内でどのように表象されているかの把握を進めた。また本年度はタイ・プーケットで行われたコウモリ類国際研究会議に参加し、本課題に大きく関連した研究発表を行うとともに、各国研究者と討議を行った。
著者
藤岡 慧明 飛龍 志津子
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.91-99, 2019-08-06 (Released:2019-08-26)
参考文献数
52

コウモリは,自身が放射した超音波の反響音を聴取・分析することによって周囲環境を把握する。これをエコーロケーション(反響定位)と言う。コウモリは,高度なエコーロケーションを実現する聴覚神経機構を研究するためのモデル動物として,盛んに人工環境下における実験が行われてきた。一方で,コウモリは野外において微小な飛翔昆虫を次々と捕食するという高度なパフォーマンスを実現しているにも関わらず,自然環境下における超音波利用については,計測が難しいことから検討があまり進められてこなかった。2000年代に入った頃からは,計測技術の向上により,獲物探索および定位のための指向性制御などのソナー運用に関する報告が多く成されるようになってきた。 さらには,複数の獲物を次々と連続的に捕らえる際のコウモリの合理的な戦略についても近年明らかとなった。本稿では,まずコウモリのエコーロケーションについて概観した上で,野外研究を中心にコウモリの採餌飛行時におけるエコーロケーションの運用方法について概説する。そして,採餌飛行を,獲物探索時・捕食飛行時・複数標的捕食時の三つに分けて,彼らの採餌のためのエコーロケーション戦略について考察する。
著者
古川 茂人 飛龍 志津子
出版者
一般社団法人 日本音響学会
雑誌
日本音響学会誌 (ISSN:03694232)
巻号頁・発行日
vol.74, no.7, pp.372-373, 2018-07-01 (Released:2019-01-01)
参考文献数
2
著者
飛龍 志津子
出版者
同志社大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

本研究は,コウモリもつ高度に発達した超音波センシングの実態解明を目的とし,室内及び野外においてコウモリの音響行動を計測した.まず室内での障害物回避や標的捕獲中のエコーロケーション行動から,①超音波のビーム幅を状況に応じてアクティブに変化,②ビーム幅の狭いコウモリは視野を補償するためより頻繁に放射方向のシフトを行う,③重要な障害物の方向にパルスを放射する,などがわかった.野生コウモリの採餌飛行では,①コウモリが直近の獲物だけでなく,その次の獲物も視野に捉えていること,また②flight attentionも先を予測する方向に向けられていること,などを見出した.