著者
力丸 裕
出版者
一般社団法人 日本生物物理学会
雑誌
生物物理 (ISSN:05824052)
巻号頁・発行日
vol.49, no.4, pp.174-180, 2009 (Released:2009-07-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1

Small bats (microchiroptera) get various types of information about their targeted objects by comparing returning echoes to emitted ultrasonic pulses, which is called “Biosonar”. This paper introduces the outline of biosonar, and then explains consistency and plasticity of vocalization, changes in vocalization due to relationships between targets and the bat. This paper also describes how they vocalize for the real-time time-sharing signal processing based upon data obtained with an onboard telemetry microphone system and data recorded with reversible focal inactivation of neural activities. Amazing real-time time-sharing signal processing performed by a brain as small as the tip of our little finger will be explained.
著者
力丸 裕
出版者
The Japan Society of Logopedics and Phoniatrics
雑誌
音声言語医学 (ISSN:00302813)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.455-461, 1996-10-20 (Released:2010-06-22)
参考文献数
15
被引用文献数
1

本論文では音楽知覚に不可欠な音感覚を脳が創りだしているという基礎事実について述べた.目的としている音のどの物理的周波数成分 (スペクトル) にも関係のない音を, われわれがよく知覚することは, 聴覚心理学の分野では19世紀からよく知られた事実である.実は, これによってわれわれは音楽を楽しむことができるのである.たとえば, いくつかの連続した高次倍音を加えると, 「ミッシングファンダメンタル」と呼ばれる実在しない低周波の基本周波数に対応したピッチが聴こえる.この現象を容易に理解するために, これまでにみつかった心理学的事実を簡単に紹介し, さらに, 聴覚中枢におけるミッシングファンダメンタルのピッチ抽出機構と関連のある神経生理学的知見をいくつか提供した.ミッシングファンダメンタルとして知られる時間情報で創られるピッチ (時間ピッチ) が, 周波数成分に基づきスペクトルで創られるピッチ (場所ピッチ) を処理している考えられる一次聴覚野ニューロンと同じニューロンによって取り扱われているかどうかが調べられた.その結果, 一次聴覚野において時間ピッチは場所ピッチと同一のニューロンによって取り扱われているらしいことが判明している.紹介しているデータは心理学的知見とよく一致している.
著者
力丸 裕
出版者
日本動物心理学会
雑誌
動物心理学研究 (ISSN:09168419)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.27-40, 2003 (Released:2008-01-30)
参考文献数
24
被引用文献数
1

The neural base of the bat's biosonar system is discussed here. The bat emits complex biosonar sounds (pulses) and listens to echoes for orientation and hunting flying insects. Different types of biosonar information are carried by different parameters characterizing pulse-echo pairs. For example, distance information is conveyed by echo delay, while velocity information is carried by Doppler shift. In the auditory cortex of the bat, not only frequency but also other information baring parameters such as echo delay and Doppler shift are systematically mapped as subareas. These computational maps greatly depend on subcortical signal processing. The subcortical auditory nuclei create delay lines and multipliers (or AND gates) for processing distance (echo delay) information, and also create level-tolerant frequency tuning and multipliers (or AND gates) for processing velocity (Doppler shift) information. These multipliers are called FM-FM and CF/CF combination sensitive neurons, respectively. The neurophysiological investigations of the bat's biosonar system provide an excellent database for neural computational models and sonar systems. Application of an agonist of inhibitory neurotransmitter to DSCF or FM-FM area behaviorally revealed the functions of these auditory subareas. Findings made by an on-board telemetry microphone from flying bats confirmed Doppler-shift compensation.
著者
飛龍 志津子 力丸 裕 渡辺 好章
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.89, no.12, pp.1079-1084, 2006-12-01
被引用文献数
4

近年,生物が有する様々な生体アルゴリズムをテクノロジーヘ応用するバイオミメティックス(生態模擬技術)が提案されている.本研究は,次世代の音響センシング技術などへのブレークスルーを指向し,コウモリが超音波を利用して行う効率的な周囲環境情報収集システムを工学的に明らかにしていくことを目的としている.本稿では,生物ソナーと呼ばれる彼らのエコーロケーション能力を,実際の行動観測から得た結果を基に紹介する.
著者
山岡 沙織 力丸 裕
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. SP, 音声 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.111, no.471, pp.55-59, 2012-03-01
参考文献数
5

先行研究によってSpatial-Musical Association of Response Codes (SMARC)効果が報告されている。これは、ピッチ比較課題において高音と右、低音と左の結びつきの場合は、その逆で高音と左、低音と右の結びつきの場合よりもより反応時間が短く、またより正確であるという現象である。しかし、この現象が先天的現象なのか後天的現象なのか、またそのしくみについても明らかになっていない。そこで、まず行動実験によりSMARC効果を実証し、SMARC効果が音楽経験に依存するのかを調べた。被験者は学生25人(音楽経験者16人、音楽非経験者9人)である。被験者は2種類のトーンバースト(参照音:523Hz,プローブ音:330, 370, 415, 466, 587, 659, 739, 831Hz)のピッチ比較をし、プローブ音の方が高い場合は右もしくは上を低い場合は左もしくは下のボタンを押す課題と、またその逆で高い場合に左もしくは下を低い場合に対して右もしくは上のボタンを押す課題が与えられた。プローブ音を聞いてからボタンを押すまでの反応時間を測定した結果、SMARC効果の強さには個人差が見られたが現象は確認された。しかし、音楽経験とSMARC効果の間には強い相関は得られず、SMARC効果が音楽経験に依存するとは言えないことが分かった。さらに、高さの異なる2種類のトーンバースト聴取時の脳活動をfMRIで撮像した結果、被験者14人に共通して活動が見られた前帯状皮質と行動実験において計測したSMARC効果の強さに負の相関が見られた。
著者
桂 幸司 寺田 一樹 力丸 裕 横川 隆一 渡辺 好章 Lin Liang-kong
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会技術研究報告. US, 超音波 (ISSN:09135685)
巻号頁・発行日
vol.102, no.655, pp.25-30, 2003-02-14
被引用文献数
2

2台の高速度ビデオカメラを用いて飛行中のコウモリの軌跡を3次元で解析し,テレメーターマイクを用いて観測した超音波パルスの変化とコウモリと標的までの距離との関係について検討した.その結果,エコーロケーションシステムについて,特にCF,FM,パルス間隔,CF_2周波数,ドップラーシフト補償について,多くの情報を得ることができた.
著者
柳田 益造 武田 昌一 郡 史郎 桑原 尚夫 吉田 優子 力丸 裕
出版者
同志社大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2000

日本語の韻律について,現象面から見た多様性と歌唱における韻律制御の自由度,韻律の個人性,社会的要因の影響,感情との関係,韻律情報の脳内処理に関する神経科学的検討,一般言語学からの考察を行った.(1)特殊な状況での韻律についてのデータから音響的特徴の変動幅を調査した.特殊な発声例として,幼児の矯声における高F_0,高校野球の選手宣誓における平坦F_0,母語との近さや状況による平均F_0の違いなどを調べた.また,制約付きの韻律としての歌唱におけるF_0の特にビブラートについて邦楽と洋楽(ベルカント唱法)を比較した.(2)基本周波数、ホルマント周波数等の音響的特徴と個人性との関係を物理的および知覚的に分析した.同時に,発声速度の異なる音声や,訛りなどに現われる特徴の変化についても研究した.個別音に関する研究としては,連続音声中に現れる鼻音化された/g/について,音響的ならびに知覚的な面から検討した.(3)社会的要因に由来する韻律の多様性.およびアクセント型以外の韻律の地域的多様性について,社会言語学的観点を加えつつ音響音声学的な手法を用いて調査した.具体的には,共通の台詞を種々の方言話者が発声した音声データについての知覚的な印象について検討した.(4)発話に含まれる感情と韻律の関係を多変量解析等の手法を用いて規則として抽出し,その規則に基づいた韻律で音声合成を行い,その有効性を評価した.また,百人一首の韻律やホーミーについても研究した.(5)物理量としての音のどのパラメタが韻律知覚に関与し,脳内のどのような処理によって,韻律知覚が生成されているかを,劣化音声を用いて聴覚神経科学の立場から追究し,韻律知覚生成機構の解明を試みた.(6)一般言語学の立場から,ピッチアクセント言語である日本語の韻律をストレスアクセント言語における韻律と比較することによって,音声におけるアクセント付与の普遍性について考察した.