著者
井口 広靖 平手 博之 長沼 愛友 関谷 憲晃 小笠原 治 上村 友二 星加 麻衣子 藤掛 数馬 太田 晴子 祖父江 和哉
雑誌
第46回日本集中治療医学会学術集会
巻号頁・発行日
2019-02-04

【背景】ストレス心筋症の多くは典型的なたこつぼ型の左室壁運動を呈するが、約2割は非典型的な左室壁運動を呈し、逆たこつぼ型となるのは全体の2%程度である。一方、ギラン・バレー症候群とストレス心筋症の合併はまれである。今回、逆たこつぼ型心筋症を合併したギラン・バレー症候群の症例を経験した。【臨床経過】75歳の男性。発熱、下痢を主訴に他院受診、カンピロバクター腸炎と診断された。抗菌薬治療で速やかに改善したが、発熱から1週間後に両上肢の脱力が出現、翌日には両下肢の脱力により歩行困難となった。さらに翌日には、呼吸状態が悪化、気管挿管人工呼吸器管理となったため当院に転院搬送され、ICU管理となった。前医での気管挿管後より血圧低下あり、当院搬送時には昇圧薬の持続投与が行われていた。ICU入室時の12誘導心電図でV1からV4誘導でST上昇を認め、経胸壁心臓超音波検査で左室基部の壁運動低下と心尖部の過収縮があり、逆たこつぼ型心筋症と診断した。同日施行した神経伝導検査で末梢神経伝導速度の延長があり、ギラン・バレー症候群と診断、転院1日目から二重膜濾過血漿交換を5日間施行した。左室壁運動については、駆出率(modified Simpson法)は1日目から3日目を通して55%前後で著変なかったが、左室基部の壁運動は経時的に改善し、左室流出路の速度時間積分値は1日目に12cmと低下していたものが、2日目は17cm、3日目は19cmと改善を認めた。3日目には昇圧薬の持続投与は中止した。7日目より免疫グロブリン静注療法を5日間施行したが、短期的な筋力回復は認めず、長期の人工呼吸器管理が必要と判断し、8日目に気管切開を行った。9日目よりステロイドパルス療法を3日間施行した後、12日目に人工呼吸器管理のまま一般病棟へ退室した。昇圧薬中止後の循環動態は終始安定していた。【結論】ギラン・バレー症候群患者で循環動態が悪化した場合、まれではあるがストレス心筋症の合併を疑う必要がある。
著者
加藤 利奈 杉浦 健之 酒井 美枝 草間 宣好 藤掛 数馬 祖父江 和哉
出版者
一般社団法人 日本ペインクリニック学会
雑誌
日本ペインクリニック学会誌 (ISSN:13404903)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.5-8, 2022-01-25 (Released:2022-01-25)
参考文献数
7

過敏性腸症候群(irritable bowel syndrome:IBS)の病態生理には,脳腸相関が重要な役割を果たす.発症と増悪にはストレスが深く関わり,治療として心身医学的アプローチも有効とされる1).今回IBSに対し,心理療法と漢方療法の併用が有効であった症例を経験した.症例は49歳の女性.腹痛により日常生活に支障をきたし,さらに全身のしびれが出現したため,当院いたみセンターへ紹介された.初診時,臨床心理士の評価で,不適切な養育や配偶者暴力体験などの背景に加え,実父による心理社会的ストレスが明らかになり,これらが消化器症状増悪に関与していると判断した.心理療法開始後,全身のしびれがなくなり,行動が活性化した.しかし,消化器症状は継続したため,抗不安作用のある桂枝加竜骨牡蛎湯と芍薬甘草湯を併用したところ,症状の改善が得られ,生活の質および日常生活動作が向上した.IBS症状増悪に関連する心理社会的背景や心理特性を踏まえて心理療法を行い,その後に漢方療法を導入したことが,著明な症状の改善やQOLの改善につながったと考えられた.