著者
藤本 鎮也 佐藤 慎一郎 浅岡 祐之 西原 賢 星 文彦
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会
巻号頁・発行日
vol.31, 2012

【目的】<BR>本研究の目的は下部体幹に装着した非拘束慣性センサのデータに基づいて坐位からの歩行動作の相分けを行い,理学療法士の動画観察による相分けと比較し,その妥当性を検証することである。<BR>【方法】<BR>対象は健常若年男性5名(年齢19.5&plusmn;0.5歳)であった。また,評価者として臨床経験年数の異なる理学療法士3名の協力を得た。課題として、肘掛のない椅子の背もたれに軽くもたれた坐位からの歩行動作(Sit-to-walk)を最大速度にて行うよう指示した。慣性センサは,3軸加速度計と3軸角速度計、そして通信用のBluetoothを備えた小型無線ハイブリッドセンサ(WAA-010,ワイヤレステクノロジー社) を使用し,第3腰椎高位の下部体幹に装着し,サンプリング周波数50Hzにて慣性データをパソコン(以下PC)に取り込んだ。同時にPCにUSB接続したWebカメラ(UCAM-DLY300TA,エレコム社)にて側方より動作を録画した。慣性センサデータと動画の同期と取り込みにはSyncRecord Ver.1.0(ATR-Promotions社)を使用した。取り込んだ下部体幹の慣性センサデータの前後方向加速度とPitch方向の角速度変化から運動開始,離殿そして歩き始めの瞬間を特定し出現までの所要時間を算出した。理学療法士の観察による分析は,録画データをPC上で再生し,速度を自由に変えながら3人の理学療法士が運動開始,離殿そして歩き始めを判断し,画面上のタイムコードを読み取り所要時間を計測した。データ解析は,まず理学療法士による分析結果の再テスト法による検者内信頼性および検者間信頼性を検証し,続いて下部体幹センサに基づく結果と理学療法士の分析結果の相関分析を行った。データ処理と解析にはExcel 2010及びSPSS for Win ver.18を使用した。本研究は協力者に研究内容の説明を行い,書面にて同意を得た後、転倒防止や個人情報保護等に配慮しながら行った。<BR>【結果】<BR>理学療法士の分析結果の信頼性は検者内検者間共に高い信頼性を示した(ICC:&rho;=0.99-1.00,p<0.01)。下部体幹装着慣性センサにより特定された全ての結果と理学療法士の分析に基づく結果の間で高い相関が認められた(運動開始r=0.99,離殿r=0.99,歩行開始r=0.99,いずれもp<0.01)。<BR>【考察およびまとめ】<BR>理学療法士の分析結果は,動画の再生速度を変化させながらタイムコードを利用した時間計測を行ったことで信頼性が高まったと思われる。理学療法士の分析結果と下部体幹装着慣性センサの結果が高い相関を示したことは,下部体幹装着慣性センサによる相分けの臨床適用の可能性を示唆するものであると考える。