- 著者
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西山 マルセーロ
- 出版者
- 公益財団法人 竹中大工道具館
- 雑誌
- 竹中大工道具館研究紀要 (ISSN:09153685)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, pp.70-95, 2007 (Released:2021-03-22)
- 参考文献数
- 30
左官鏝の変化に関する歴史変遷の過程及び今日実際に使用される鏝の形状分析を通して考察した結果、新しい知見として下記を得ることができた
1 本格的な左官技術が登場する飛鳥時代には、中首型に近い形式の木鏝が存在していた。
2 鏝面と首の接続方法として、江戸末期にはカシメの技法が採用されていた。
3 中首型の鏝の登場は江戸末期であると考えられ、遅くとも明治初期迄には京都で製造されていた。
4 左官鏝の形状を分類すれば、主に京都、大阪、東京で分けられ、これに地方独自の仕上げに適応した形状を加える分類方法が適切である。
5 中首型鏝の長さと巾の比率は、大阪と東京の巾が狭く、京都が巾広である。またこの比率は、大きくなるほど二次関数に変化をし、幅が狭くなる傾向が見られる。
6 鏝形状の変化については、基本的に時代に関係なく一定の規則性を保っているが、巾だけが例外的に広くなる傾向がある。
7 鏝巾の先巾と元巾の関係は、従来いわれていた分数標記とは関係がなく、刃通り下部の角度が一定に定められており、88°で作られている。
8 鏝の重量配分において、重心の位置と首の取付位置の関係は、京都の鏝のみが規則性を持ち、首中心より0.5 ㎜ 後方に設定されている。
9 剣先角度は、90°を主体に9 、85°~100°の範囲で作られている。
10 鏝面の全長と刃通り長さを比較した働き率は80%である。
11 柄を据えるセット角度について、鍛冶屋や問屋が独自に工夫する例が認められるが、左官職人がその効果を認知する事実は道具立てからは認められない。
12鏝面の厚さは、用途に応じて厚さの分布が変えられている。
13裏スキ形状には、下記の工夫が共通している。① 刃通り端部を3 ~ 4 ㎜程度平坦に残し、② 0.1 ~ 0.2 ㎜ 程度の裏スキを施す。③ 端部は、「ピン角」と呼ばれる鋭利な角を作る。