著者
西山 宗六 中村 俊郎
出版者
熊本大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

基礎疾患を有さない貧血女性37名(年齢22.3±4.3歳)を対象に種々の貧血マーカーと亜鉛動態との関連を検討した結果、女性の亜鉛欠乏性貧血の診断基準は、(1)ヘモグロビン12.0g/dl以下、赤血球数380×10^4/mm^3以下、総鉄結合能(TIBC)380μg/dl未満の正球性正色素性貧血、(2)血清亜鉛の低下は必ずしも認めない、(3)正球性正色素性貧血を呈する他の疾患を除外する、(4)亜鉛欠乏と同時に鉄欠乏を伴うことが多い、とすることが妥当であると考えられた。つぎに上記診断基準を満たす中年女性の貧血患者への亜鉛投与による結果から、亜鉛欠乏性貧血の頻度と治療法を検討した。農村地区住民15,459名(男性7487名、女性7972名)に貧血検査を行ったところ、男性でヘモグロビン13g/dl以下、女性でヘモグロビン12g/dl以下の貧血患者は男性の7.0%、女性の14.1%であった。上記診断基準を満たす亜鉛欠乏性貧血が疑われる患者は貧血者男性の54.2%(全体の3.8%)、女性の41.1%(全体の5.8%)であった。これらの貧血患者を鉄投与群(n=15)、亜鉛投与群(n=21)、鉄と亜鉛投与群(n=16)に分けて8週間治療したところ、鉄と亜鉛投与群のみ有意の貧血の改善を認めた。亜鉛投与群では血清鉄100μg/dl以上、フェリチン40ng/dl以上を有したものは亜鉛単独での貧血の改善が見られた。したがって亜鉛欠乏性貧血の治療は(1)フェリチン40ng/dl以上の患者では亜鉛製剤34mg/日、(2)フェリチン40ng/dl未満では亜鉛製剤34mg/日、鉄製剤100mg/日の投与が妥当であると考えられた。