著者
西本 優樹
出版者
北海道大学大学院文学院
雑誌
研究論集 (ISSN:24352799)
巻号頁・発行日
vol.19, pp.17-33, 2019-12-20

ジョン・サールは,『社会的世界の制作』において,一枚の紙片が一万円札であることのような制度的事実は「宣言」と呼ばれる言語行為の一類型により創出され,それは我々を当該の事実の内容に従った仕方で行為させる義務論的力を持つと主張している。本稿では,サールの議論に提起されてきた,行為者が制度に従う際の行為の動機づけを十分に説明できていないという批判に対して,サールの議論を言語行為の規範性に基づきそうした動機づけを説明する,言語論的な合理主義として特徴づけることを通じて応答する。その上で,そのように言語論的な合理主義として理解されるサールの議論が,彼の本来の目的である制度的世界と自然科学的な世界を整合的に説明するという試みと緊張関係にあることを,同じく言語論的な合理主義として理解される推論主義の視点から指摘する。
著者
西本 優樹
出版者
北海道大学大学院文学研究院応用倫理・応用哲学研究教育センター
雑誌
応用倫理 (ISSN:18830110)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.22-44, 2021-03-25

本稿では、ビジネス倫理で「企業の道徳的行為者性」(corporate moral agency)をめぐって中心的な論点となる企業の意図の問題を、推論主義(Brandom 1994)と呼ばれる言語行為論の一類型を援用して検討する。 企業に行為の意図を認めることができるかという問題は、従来から心の哲学の心理主義と機能主義の対立を反映する形で議論されてきた。すなわち、意図に関して心理主義を支持するレンネガードとヴェラスキーズ(2017)が、心を持たない企業が意図を持つことはありえないと主張するのに対し、機能主義を支持する論者は、企業に意図の機能的特徴を見出すことができると主張する。 本稿では、この対立を概観した後、意図に関して言語論的な機能主義を支持する推論主義を援用することで、レンネガード、ヴェラスキーズの議論に反論を提起し、この議論で推論主義が適切であることを示す。この作業の後、本稿では、条件付きではあるが推論主義から企業の意図および企業の道徳的行為者性が正当化できることを示し、そうした議論から帰結する問題点を指摘する。