著者
西村 圭二 北村 淳 白星 伸一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0333-C0333, 2007

【はじめに】不良坐位姿勢による作業は腰痛のみならず肩周囲や頸部の障害の原因となりうることを臨床上経験する.我々は先行研究において自作の腰椎骨盤固定ベルト(以下ベルト)の効果について検討してきた.その結果,ベルト装着直後,脱ベルト後において重心前方偏位と骨盤前方傾斜角度増加を確認した.そこで今回,ベルト装着による姿勢変化が頸椎運動性に与える影響ついて検討したので報告する.<BR>【対象と方法】対象は不良坐位姿勢を呈した成人9名(平均30.8±7.2歳).測定肢位は股,膝90°屈曲位で足底を接地する端坐位とし,第7頸椎(C7),第1胸椎,両耳垂,両肩峰にマーカーを付けた.また瞬間中心計測のために前後,左右,頭頂のマーカーを付けたカチューシャを自作し,通常端坐位での頸椎屈曲,伸展,側屈,回旋をデジタルビデオカメラ(SONY社製)にて撮影した.次にベルトを腰椎生理的前彎位,骨盤軽度前傾位で装着し5分後、脱後の運動を撮影した.撮影画像から通常端坐位,装着時,脱後の各可動域を計測し比較した.可動域測定は日本整形外科学会が定める改訂関節可動域表示ならびに測定法に準じた.瞬間中心は各運動において2点のマーカーの始点と終点を結ぶ線の垂直二等分線が直交する点をDartFish Software(ダートフィッシュジャパン)にてパソコン上で求め,重心線(上半身重心が位置する第9胸椎を通る垂線)と瞬間中心との距離を比較した.統計処理は反復測定分散分析を,多重比較検定にはDunnett法を用い危険率5%未満とした.<BR>【結果】伸展は通常46.3±6.7°,装着時58.4±10.0°,脱後57.3±10.1°(p<0.05),回旋は通常55.1±4.9°,装着時63.7±9.0°,脱後66.6±6.7°(p<0.05)と可動域が増加した.屈曲は通常40.7±11.6°,装着時43.5±9.3°,脱後46.1±6.7°,側屈は通常29.3±6.5°,装着時35.3±6.7°,脱後35.6±5.0°と増加したが有意差はなかった.瞬間中心は屈曲では通常5.0±2.8cm,装着時1.2±1.5cm,脱後1.7±2.3cm(p<0.05),伸展は通常4.3±2.1cm,装着時0.8±1.4cm,脱後1.4±1.2cm(p<0.01)と有意値を示し重心線に近づく傾向にあった.側屈は通常0.6±0.4cm,装着時0.5±0.7cm,脱後0.8±0.6cmと有意差はなかった.回旋は条件上計測できなかった.<BR>【考察】ベルト装着により頸椎運動が増大した.通常端坐位は頸椎が軽度屈曲位を呈し瞬間中心も前方に位置していた.骨盤後傾,腰椎後彎姿勢では頸椎が屈曲し頭部の前方並進を伴うため,伸展モーメントが高く頸部のストレスは増大する.先行研究よりベルトの効果として骨盤前傾,腰椎前彎方向への制御が容易に行えることが挙げられる.ベルトによるアライメント矯正で頸椎屈曲と頭部前方並進が減少し伸展モーメント低下が示唆され,瞬間中心が重心線付近に位置したことから頸椎運動が増大したと考える.適切な姿勢での作業は頸部ストレス軽減に繋がることが示唆された.<BR><BR>
著者
西村 圭二 北村 淳 山﨑 敦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0925, 2012

【はじめに】 我々は先行研究において,不良姿勢者に対し頭頂から尾側方向へ軸圧を加え,圧に抗する軸圧抵抗エクササイズ(以下EX)を行うことで姿勢アライメントの正中化が得られ,軸圧なしに上方へ伸び上がるだけのエクササイズでは頭頸部のアライメント修正が不十分であることを報告した。そこで今回は,頭部前方位姿勢に対しセルフエクササイズとして頭頸部と体幹のリンクを考慮したリラクセーション(以下RX)とEXを施行したところ,姿勢変化を認めたので報告する。【方法】 健常成人8名(平均31.0±5.4歳)を対象に,RXとEX前後の両脚,片脚立位の姿勢撮影を行った。撮影肢位は,耳垂,肩峰,オトガイ結節,第5中足骨底にマーカーを付けた矢状面における立位とした。まずRXを実施した。肢位は,ロール状にしたバスタオルを2本使用し,1本は第1胸椎棘突起から尾骨部まで縦方向に沿わせ,もう1本は横方向にし外後頭隆起を乗せた背臥位とした。この肢位で顎を引き,さらに頸部後面をやや伸張するように外後頭隆起下のバスタオルを頭側方向へ少し引き上げた。この状態で3分間の脱力を促した。RX後にEXを実施した。EX肢位は股膝を90°屈曲した端座位とした。EXは頭頂と会陰部を通り上半身を左右2等分する位置に幅9mmのゴムの輪を装着し,頭頂から尾側方向へ圧を加え張力に対し頭側へ伸び上がる運動とした。この時,後頭部に接するゴムの圧に抗するように顎を引くことも意識させた。圧を認識しやすいように直径50mm,幅70mmのパッドをゴムと頭頂の間に設置した。ゴムの長さは座高の1/2程度とした。EXはセルフにて15回実施し15回目のみ伸び上がった状態のままで5回深呼吸をするように促した。セット間に1分間休憩し,2セット実施した。撮影画像より,通常,RX後,EX後の両脚,片脚立位を比較し,第5中足骨底を通る垂直線を基準に各マーカーの距離をパソコン上で求めた。さらに頭部前方位の変化を算出するために,頸椎屈曲角度と頭蓋角度(耳垂とオトガイ結節を結ぶ線と垂直線とのなす角)を各々計測し,値の減少をもってアライメントは正中に近付いたと判断した。統計処理は反復測定分散分析を行い,多重比較検定にはDunnett法を用い危険率5%未満とした。【説明と同意】 厚生労働省が定める「医療,介護関係事業における個人情報の適切な取り扱いのためのガイドライン」に基づき,対象者に本研究の趣旨を書面にて十分に説明し同意を得た。【結果】 両脚立位は,通常と比較しRX後,EX後のすべてのマーカーで垂直線との距離が減少した。耳垂は通常2.9±2.0cm,RX後1.7±1.0cm,EX後1.7±1.1cm,オトガイ結節は通常10.5±3.4cm,RX後8.7±2.9cm,EX後9.4±2.4cmと有意な値を示した(p<0.05)。頸椎屈曲角は通常18.1±4.1°,RX後15.0±5.2°,EX後14.9±5.3°と有意に減少した(p<0.05)。頭蓋角は減少したが有意差はなかった。片脚立位でも耳垂は通常3.4±1.9cm,RX後2.1±2.1cm,EX後2.0±1.9cm,オトガイ結節は通常11.9±1.8cm,RX後9.9±3.0cm,EX後10.4±1.8cmと有意な減少を示した(p<0.05)。頸椎屈曲角は通常19.5±2.6°,RX後16.1±3.6°,EX後16.2±4.8°(p<0.05)と有意に減少したが,頭蓋角に有意差はなかった。【考察】 RXとEX施行により,頭部前方位が減少し立位アライメントが正中に近付く傾向を示した。頭部前方位は上位頸椎伸展と下位頸椎屈曲,胸椎後彎の増強により生じる。そのため,頭頸部と体幹をリンクさせたアプローチが必要である。バスタオルを用いて頭頸部は頭部前方位と逆方向へ,脊柱は彎曲を減少させる方向へ各々誘導し持続的に脱力させることで,各関節および筋の柔軟性が得られその肢位への適応が可能になったと考える。EXでは,ゴムを用いることで張力による鉛直下方向への圧刺激が加わるので,頭側へ伸び上がるための正しい運動方向と後頭部に接するゴムの圧を意識することで頭部前方位と逆方向の後上方への運動方向の認識が容易となる。頭側へ伸び上がることで腹横筋の活動を生じることが報告されており,運動方向から頸部前面筋の活動も示唆される。したがって,理想とされる重心線から逸脱した各分節が垂直線に近付くように作用するため,垂直線との距離および角度の減少が得られ,頭部前方位および立位アライメント改善に繋がったと考える。【理学療法学研究としての意義】 不良姿勢での作業や加齢変化などで,脊柱後彎や頭部前方位を呈することを臨床上見受ける。姿勢へのアプローチは症状緩和だけでなく予防としても重要である。良姿勢を獲得するためには,自己の感覚で正しい姿勢や運動を容易に理解できる必要がある。本研究は身近なバスタオルとゴムを用いるため正しい方法の指導により対象者が容易に運動を再現できるものである。よって,本研究の有効性を示すことで,再現性が高く効果的なEXを多くの対象者に提供できると考える。