著者
大塚 泰介 山崎 真嗣 西村 洋子
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.167-177, 2012-07-30
被引用文献数
2

水田の多面的機能は、そこに生息する生物間の相互作用に負うところが大きい。水田にキーストーン捕食者である魚を放流して魚を放流しない水田と比較すれば、対照区つきの隔離水界実験(メソコスム実験)になり、水田の生物間相互作用を解明する上で有効である。水田にカダヤシを放流しても、カに対する抑制効果が見られないことがある。カダヤシはカの幼虫・蛹のほかに、その捕食者や競争者も食べるので、捕食による効果の総和が必ずしもカを減らす方向に働かないためである。メコン川デルタの水田に3種の魚を放し、魚を放さない水田と生物群集を比較した実験では、ミジンコ目が減少し、原生動物とワムシが増加し、水中のクロロフィルa濃度が増加するという結果が得られている。水田にニゴロブナの孵化仔魚を放流した私たちの実験でも、これと類似の結果が得られた。ニゴロブナの後期仔魚および前期稚魚はミジンコ目を選択的に捕食し、ほぼ全滅させた。すると放流区では対照区よりも繊毛虫、ミドリムシなどが多くなった。また放流区では、ミジンコ目の餌サイズに対応する植物プランクトン、細菌、従属栄養性ナノ鞭毛虫などの数も増加した。メコン川デルタと私たちの結果は、ともに典型的なトップダウン栄養カスケードとして説明できる。また、魚の採食活動が、底泥からの栄養塩のくみ上げや底生性藻類の水中への懸濁を引き起こしたことも示唆される。これとは逆に、コイの採食活動によって生じた濁りが、水田の植物プランクトンの生産を抑制したと考えられる事例もある。こうした実験の前提となるのは、魚が強い捕食圧を受けていないことである。魚に対する捕食圧が大きい条件下での水田生物群集の動態は、今後研究すべき課題である。
著者
西村 洋子
出版者
創価大学社会学会
雑誌
Sociologica (ISSN:03859754)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.p1-21, 1980-03

以上,高知市における単親家族実態調査の結果を報告した。これはあくまで一部項目の素集計,単純集計による分折段階である。調査項目はもっと多く,とくに本稿では生活福祉面を載せきれなかった。またクロス集計分析がまったくなされなかったがそれらは今後ひきつづき充実整備をはかるつもりである。以上の分析を簡単に要約する。(1)単親家庭になった理由では,母子家庭も父子家庭も,配偶者との死別よりも生別の方が多い。ことに高知市では,母子家庭の「離別」が約8割弱,父子家庭では実に9割が相当する。それも中身は,離婚が最大理由で,全
著者
西村 洋子
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.214-225, 2006-10-01

平成12年,介護保険制度導入後のA市保健・医療・福祉サービス調整推進会議(以後,サービス調整会議と略す)の下位組織である6ブロック会議からC,Eブロック(以後,地区と略す)を選び,その地区会議運営(過程)に関する評価を試みた.地区会議では地域住民のニーズとその対応方法の検討,事例検討等を通じて,サービス調整会議への課題の提言等をしている.関係者から研究的立場での参加が許可された,C,E地区に平成13年9月から1年間オブザーバーとして出席し,記録と会議の資料等により状況を把握した.会議の内容を,(1)行政制度・施策,(2)地域ケア,(3)利用者への個別ケアに分類して,課題(問題点)が提起された議題について協議結果を,(1)解決(○),(2)一部解決(△),(3)保留・解決せず(×)に分類して判定した.事例検討の結果,提出者より提起された課題への解決策に対する提出者の対応状況,およびその結果・課題の解決状況を提出者より聞き取った結果を参考にして,対応・一部対応・対応せず,また,解決・一部解決・解決せずの3分類を用いて定性的評価を行った.地区会議への出席者は行政関係者およびケアマネジャー等であり,利用者のニーズを充足するための協議,困難な課題を有している事例の検討を行っているが,必ずしも問題解決に至っていない.事例が有している困難な課題として,「精神的不安定」「家族への対応困難」「入退院上の問題」が比較的多かった.多機関・多職種が参加する地区会議運営の課題は,利用者のニーズ把握,サービス提供方法,評価等に関する専門的知識・技術を参加者が共有し,効果的な協議を通じて課題解決を図ることである.
著者
大塚 泰介 山崎 真嗣 西村 洋子
出版者
日本生態学会暫定事務局
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.167-177, 2012 (Released:2013-10-08)

水田の多面的機能は、そこに生息する生物間の相互作用に負うところが大きい。水田にキーストーン捕食者である魚を放流して魚を放流しない水田と比較すれば、対照区つきの隔離水界実験(メソコスム実験)になり、水田の生物間相互作用を解明する上で有効である。水田にカダヤシを放流しても、カに対する抑制効果が見られないことがある。カダヤシはカの幼虫・蛹のほかに、その捕食者や競争者も食べるので、捕食による効果の総和が必ずしもカを減らす方向に働かないためである。メコン川デルタの水田に3種の魚を放し、魚を放さない水田と生物群集を比較した実験では、ミジンコ目が減少し、原生動物とワムシが増加し、水中のクロロフィルa濃度が増加するという結果が得られている。水田にニゴロブナの孵化仔魚を放流した私たちの実験でも、これと類似の結果が得られた。ニゴロブナの後期仔魚および前期稚魚はミジンコ目を選択的に捕食し、ほぼ全滅させた。すると放流区では対照区よりも繊毛虫、ミドリムシなどが多くなった。また放流区では、ミジンコ目の餌サイズに対応する植物プランクトン、細菌、従属栄養性ナノ鞭毛虫などの数も増加した。メコン川デルタと私たちの結果は、ともに典型的なトップダウン栄養カスケードとして説明できる。また、魚の採食活動が、底泥からの栄養塩のくみ上げや底生性藻類の水中への懸濁を引き起こしたことも示唆される。これとは逆に、コイの採食活動によって生じた濁りが、水田の植物プランクトンの生産を抑制したと考えられる事例もある。こうした実験の前提となるのは、魚が強い捕食圧を受けていないことである。魚に対する捕食圧が大きい条件下での水田生物群集の動態は、今後研究すべき課題である。