著者
原野かおり 桐野 匡史 藤井 保人 谷口 敏代
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.163-168, 2009
被引用文献数
1

介護福祉の仕事は多種多様で多忙であるにもかかわらず報酬も低いこと等から,離職率が全労働者の平均を上回っている.本研究では,介護福祉職員が介護福祉の仕事を継続している動機と離職意向が生じたときに離職を踏みとどまった理由を明確にすることを目的として7人の介護福祉職員に半構造化面接を行った.その結果,仕事を続けられる理由には,「労働条件」「職場のよい人間関係」「利用者からの信頼」「やりがい」「理想とする介護との出会い」「介護への自信」「仕事に対する価値」「人が好き」の8カテゴリーが抽出された.踏みとどまった理由は,「労働条件」「職場のよい人間関係」「やりがい」「介護への自信」「仕事に対する価値」「負けたくない」「損得勘定」の7カテゴリーが抽出された.これらの結果から介護福祉職が仕事を継続する肯定的要因の概要が明らかになった.
著者
中島 朱美
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.22-29, 2011-04-01

〔目的〕地域密着型のサービスへの移行に伴い,グループホーム(高齢者認知症対応型共同生活介護)の役割や期待はますます高まっている.しかし,そこには運営する事業所や従事者のかかえている課題が散在すると思われる.そこで,検討すべき課題を明確にすることで環境整備への糸口をみつけ,利用者や家族に望まれる在宅福祉サービスの質の向上と発展に寄与できればと考えた.〔方法〕A県下のグループホームを対象に職員の労働環境などに関する調査を実施した.〔結果〕その結果,以下のことが示唆された.(1)業務から離れての休憩時間や休憩場所については,十分な確保には至っていない.(2)職員研修は,「自己の専門性の不足」を感じている職員にとっては満足のいく実施回数とはなっていない.(3)従事者の悩みとして,「人手不足」「低賃金」「サービス残業が多い」「スタッフの能力のアンバランス」「スタッフ間や管理者との意思統一が図れない」といった課題があり,事業所も同じような課題をかかえていた.〔結論〕処遇面の改善や人材育成の促進による従事者の専門性の向上,事業所内の労働環境の改善や意識統一など,並行して整備することが望まれる.労働環境の改善に向けて早急に手を打たなければ従事者の士気は低下し,十分な介護ができず利用者の自立生活や生活意欲の向上を引き出すことも困難となることが予測される.さらには,利用者の要介護度の重度化やADLの低下へと結びつく可能性も否定できない.
著者
高木 剛
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.213-220, 2007-10-01

2003年8月に施行された,「老人介護の職業に関する法律」により,従来ドイツの各州で養成されてきた,老人介護士は連邦国家資格となった,その養成の特徴として,(1)養成期間および養成教育時間数が多い(3年間,4,600時間),(2)実習を重視(2,500時間),(3)准老人介護士(下位資格)取得後のステップアップが可能,(4)看護,保健関連科目の割合が高い(約44%),(5)介護に加え,看護,保健が職務領域である,などがあげられる.これらは,今後の日本の介護福祉士養成に多くの示唆を与えると感じる.
著者
大和 三重
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.16-23, 2010-04-01

今日,高齢者のケアを担う介護労働者の賃金は低く,全産業に比べて早期の離職率が高い.そのため介護の人材不足は常態化し,将来さらに深刻な事態を迎えると予想されている.そこで本研究は介護労働者の定着を促す要因として職務満足度に着目し,どのような職務満足度が就業継続意向に影響を与えるのかについて検証した.分析は介護労働安定センターが2006年に実施した全国調査のデータをSSJデータアーカイブから提供を受け,介護労働者1,292人を対象に,ロジステイック回帰を用いた.結果,職業生活全体への満足度は就業継続意向に正の影響を与え,個別の職務満足度では「仕事のやりがい・内容」「賃金」「人事評価・処遇のあり方」「職場の環境」「職場の人間関係・コミュニケーション」「教育訓練・能力開発のあり方」が影響を与えていることがわかった.今後は賃金の改善だけでははく,個別の職務満足度を考慮した雇用管理の工夫の必要性が示唆された.
著者
西村 洋子
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.214-225, 2006-10-01

平成12年,介護保険制度導入後のA市保健・医療・福祉サービス調整推進会議(以後,サービス調整会議と略す)の下位組織である6ブロック会議からC,Eブロック(以後,地区と略す)を選び,その地区会議運営(過程)に関する評価を試みた.地区会議では地域住民のニーズとその対応方法の検討,事例検討等を通じて,サービス調整会議への課題の提言等をしている.関係者から研究的立場での参加が許可された,C,E地区に平成13年9月から1年間オブザーバーとして出席し,記録と会議の資料等により状況を把握した.会議の内容を,(1)行政制度・施策,(2)地域ケア,(3)利用者への個別ケアに分類して,課題(問題点)が提起された議題について協議結果を,(1)解決(○),(2)一部解決(△),(3)保留・解決せず(×)に分類して判定した.事例検討の結果,提出者より提起された課題への解決策に対する提出者の対応状況,およびその結果・課題の解決状況を提出者より聞き取った結果を参考にして,対応・一部対応・対応せず,また,解決・一部解決・解決せずの3分類を用いて定性的評価を行った.地区会議への出席者は行政関係者およびケアマネジャー等であり,利用者のニーズを充足するための協議,困難な課題を有している事例の検討を行っているが,必ずしも問題解決に至っていない.事例が有している困難な課題として,「精神的不安定」「家族への対応困難」「入退院上の問題」が比較的多かった.多機関・多職種が参加する地区会議運営の課題は,利用者のニーズ把握,サービス提供方法,評価等に関する専門的知識・技術を参加者が共有し,効果的な協議を通じて課題解決を図ることである.
著者
岩佐 和代 高阪 謙次
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.55-63, 1999-10-01

特別養護老人ホームを「生活の場」とするための,衣生活と着装のあり方の解明を目的として,それぞれ性格の違う4つの施設の,入居者と介護スタッフ代表等に対するヒアリング等の調査を実施した.その結果をもとに,実状,意識,居室形式との関係などを分析した.そこから,(1)施設入居が高齢者の衣生活と着装に,大きな変化・転換をもたらしていること,(2)洗濯機などの設備や介護の都合により,施設サイドからもたらされる入居者の衣生活や着装への制限は,種類,材質,形態など多様であり,こうした制限が少なくて済むような環境づくりが求められていること,(3)入居者の衣生活の自立性を確保することは,高齢者の衣生活の満足度を高めること,(4)居室を個室にすることは,衣生活の自立性を高め,その面での寮母のケア場面を縮減できるが,同時に相部屋における衣生活の条件を確保することが重要な課題であること等が明らかになった.
著者
武田 卓也
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.74-80, 2008-04-01

本稿はひとり親家族の介護問題に注目する.その親が若くして要介護者になると,その介護は若年介護者がになうことになる.そこで本研究では,その介護過程のなかで若年介護者が抱える問題を明らかにし,双方の生活が犠牲とならず共に自己実現できる支援の方向性を探ることを目的とする.まず,背景として家族変化と介護問題の関係を述べ,次に「家族」「世帯」「家庭」の関係性の整理と家族危機について言及した.さらに介護保険制度と若年介護の問題および家族形態により若年者が介護をになうことを述べた.そして事例分析を行い,若年介護者が抱える介護問題についてその一端を示した.またその問題を「一過性の問題」と「継続的な問題」に大別し,後者が生活に制限を与えることを示し,その背景にある要因として7点を提示した。そして支援の方向性として「全体としての家族」の視点から若年介護者支援の重要性を論じた.
著者
嶋田 芳男
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 = Research journal of care and welfare (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.27-35, 2015

地域巡回入浴サービスにかかわる福祉用具等を製造・販売するとともに,同入浴サービス従事者によるサービスの安全を確保するために研修部門と研究部門を社内に組織し,全国の地域巡回入浴サービス従事者を対象として多様な事業を展開してきたA社に焦点を当て,関係資料を収集,分析,評価した.また,それら事業の有益性を「人(従事者)」にかかわる取り組みと,「行政」の取り組みの2つの観点から検討するとともに,各種事業の実践方策を明らかにし,安全確保対策に臨む福祉用具等関係企業のひとつの形態を提示することを目的とした.この結果,安全確保に向けた各種事業は,それぞれ有益であり,5つの事業形態と6つの実践方策(企業の社会的責任の明確化,研究フィールドの提供,連携,活動の蓄積,知見の蓄積,情報発信)に基づいて展開されていた.そして,A社による実践は,他の福祉用具等を製造・販売する企業が,今後参考にすべきものと考えられた.
著者
加瀬 裕子 久松 信夫
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 = Research journal of care and welfare (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.157-165, 2012

[背景]認知症高齢者の在宅生活維持のためには,認知症の行動・心理症状(behavioural and psychological symptoms of dementia;BPSD)に対するケアマネジメントが不可欠である,[目的]本研究は,BPSDに対し効果的であった介入・対応行動を特定し,認知症ケアマネジメントの要点を明らかにすることを目的としている.[方法]質問紙調査により収集した在宅介護のBPSD改善事例72を,多重コレスポンデンス分析を用いて分析した.[結果]BPSDの内容と効果的な介入・対応行動は,5群に分類された.第1群では,「昼夜逆転」「介護への抵抗」に,「服薬の調整と管理」が効果的であったことが示された.第2群では,「不穏な気分と行動」の改善に,「サービス利用の促進」「家族・介護者への教育」「本人が自分でできる課題の遂行」が関連していた.第3群には,「暴言」のみが含まれ,「課題を簡単なものにした」ことが介入行動として示唆された.第4群と第5群からは,主に妄想・幻覚・暴力にかかわるBPSD改善の関連が示されたが,特定の介入行動は示されなかった.[結論]明らかになった知見は,先行研究の結果と一致しているだけでなく,さらに特定のBPSDとの関連を示すことができた.改善事例の量的分析研究は認知症ケアマネジメントの開発に繋がる可能性が示唆された.
著者
永田 千鶴
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.36-46, 1999-10-01
被引用文献数
1

ケアの原則,あるいは本質を述べるのに「その人らしさの尊重」が頻繁にとりあげられている.しかし,「その人らしさ」を尊重したケアとはどのようなケアなのか,必ずしも明確ではない.本稿では,先行文献からケアにおける「その人らしさの尊重」が意味するものを検証したうえで,「その人らしさ」を尊重したケアとは,「その人の自由な『自己表現』を可能とした,専門的な援助関係を前提に,『自己選択・自己決定』に基づいた,真に『個別化』された『QOL』を高めるケアであるとともに,『自己実現』,さらには『自立』を達成すべく創造されるケア実践の過程である」,と整理した.しかし,ケアの根幹にあるととらえた「自己選択・自己決定」を尊重したケアを実践するのに,自己選択・自己決定を尊重するための方法,情報提供量・質の問題,選択肢や選択・決定能力の不足などの課題があることを認識している.
著者
中嶌 洋
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.113-121, 2014-10-01

[目的]質的データを計量的に分析した本稿では,ホームヘルプ事業の創成のありようを「社会関連性」の観点から探究することを目的とした. [方法]人,生活,思想,公務を中心としたエコロジカル視点から,戦後日本のホームヘルプ事業の先覚者である原崎秀司の思想および実践に注視し,テキストマイニングによる計量テキスト分析を行い,文献研究により裏づけた. [結果]階層的クラスター分析により6つのクラスターが構成され,共起ネットワーク・対応分析により,全体像および各要因間の関係性が可視化され,公私関係の一端が明確になった. [結論]「社会関連性」という視点からの分析を通し,原崎は,マクロ・ミクロの両視点から人間同士のかかわりをとらえていたこと,実践や実体験を重視したこと,日常生活や地域社会を問題の出発点としていたことなどがうかがえた.さらに,生活と仕事(公務)との近接性という原崎の思想的特徴を確認でき,のちに彼がホームヘルプ事業に着想することになった背景要因を実証的に明らかにした.
著者
趙 敏廷 谷口 敏代 原野 かおり 松田 実樹 谷川 和昭
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.152-158, 2013-10-01

[目的]本研究は,日本介護福祉学会が創設20年という節目を迎えたことを踏まえ,これまでの介護福祉学の研究傾向について振り返り,これからの介護福祉学に求められる学問研究の蓄積について示唆を得ることを目的とした.[方法]分析の対象は,『介護福祉学』(創刊号〜第18巻第2号)の掲載論文の公表時期および論文タイトルであり,KH Coderを用いてテキストマイニング分析を行った.[結果]その結果,上位150語の頻出語からは研究傾向や特徴が確認できた.また,共起ネットワークからは8つのカテゴリーを作成,介護福祉学の研究傾向におけるキーワードが抽出できた.さらに,対応分析からは研究村象と研究方法の視点から論文公表時期別における一定の研究傾向がみられた.[考察]これらの結果から今後「介護福祉学」の蓄積に向けた学問研究においては,社会のニーズにこたえるといった役割をにないつつ,実証的研究の積み重ねに向けた努力がさらに求められることが示唆された.
著者
越谷 美貴恵
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.226-239, 2006-10-01

本研究は,特別養護老人ホーム介護職員が体験している利用者からの暴力的行為の実態について明らかにし,今後の支援システムの課題について検討することを目的とした.3府県4施設の介護職員を対象にアンケート調査を実施し,163人から回答を得,記入もれのない回答票151票(有効回答率92.6%)を分析対象とした.過去1年間に暴力的行為を受けたことがある介護職員は84.1%,そのうち95.3%が「たたく,つねる,足で蹴飛ばす」などの身体的暴力を経験し,暴力的行為による影響として,仕事に対する意欲低下や精神的ストレスの増幅のため離職意向をもつ者が多く,52.8%の被害者が「仕事だから仕方ないと我慢する」現状にあった.施設,年齢,勤務年数,職種,性別による有意差はみられなかった.しかし,入所者が暴力的行為にいたる原因は個々の介護職員の介護方法にあると考える傾向が強く,具体的支援システムについて何の希望も示さない職員が多かった.
著者
池辺 寧
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.17-26, 2007-04-01

ハイデガーは,現存在(人間存在)とはつねになにかを気づかっている存在であると規定し,現存在の根底に気づかい(Sorge)という構造を見いだした.Sorgeを英訳するとcareとなる.そのため,ハイデガーの哲学はケア論として解釈されることがある.だが,ハイデガーが用いている気づかいという語は存在論的な概念であり,ケアという語で一般に理解されている内容とは異なる.本稿では従来みられる誤解を指摘したうえで,ハイデガーの哲学を手がかりにして,他者をケアすることの哲学的基礎づけを試みた.その際まず,ハイデガーが現存在を他者との共同存在ととらえている点に着目した.現存在は他者との共同存在であるから,他者をケアする存在となる.次に,ハイデガーが他者に対するかかわり方として行っている顧慮の分析を取り上げた.支配と支援を両極端に据える彼の分析は,介護や看護のあり方を考えるうえで示唆に富む.
著者
黄 才榮 今井 幸充
出版者
日本介護福祉学会
雑誌
介護福祉学 (ISSN:13408178)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.39-50, 2009-04-01

本研究では,これまで日本の介護福祉研究ではあまり取り上げられなかった在日コリアン高齢者が在宅介護に求めるニーズの構造やその影響因子を明らかにすることを目的とした.調査対象は,関東地域にある在日コリアン高齢者のための3か所のデイサービス利用者および2か所の老人クラブ会員で,65歳以上の男女100人について,2008年4月6日から6月5日まで,訪問面接によるアンケート調査を実施した.調査結果の分析は,まずKJ法によって質的な検討を加えたのち,そこから得られた問題領域ごとに因子分析(抽出法は最尤法・回転法はプロマックス法)を行った.その結果,「文化配慮介護ニーズ」「自立支援介護ニーズ」「家族介護ニーズ」「居住介護ニーズ」の4領域8因子20項目が抽出された.また,因子分析で抽出された領域因子項目の合計得点間の相関関係を調べた.さらに,各領域因子項目の合計得点を従属変数とし,生活基本事項を独立変数とする重回帰分析を行った.その結果,在日コリアン高齢者の在宅介護ニーズは4領域8因子で構成され,「文化・家族・居住ニーズ」は日常生活ニーズとして有意な関連があり,とくに在日コリアン高齢者の介護意識と子どもとの関係が重要な因子であることが分かった.一方,「自立ニーズ」は,介護サービス利用の条件として,他のニーズと区別される傾向があり,住宅所有状況や介護保険制度の周知度が大きく影響していた.また,高い教育歴は,文化ニーズを高める一方で,家族ニーズを低くする要因であることが示された.