- 著者
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西尾 久英
竹島 泰弘
西村 範行
- 出版者
- 神戸大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2010
脊髄筋萎縮症(SMA)患者の 95%以上に、SMN1 遺伝子のホモ接合性欠失が認められる。このような SMA 患者では、SMN1 遺伝子とつよい相同性を有する SMN2 遺伝子が残存していて、かなりの程度 SMN1 遺伝子の欠失を補償しているものと考えられている。実際、SMN2 遺伝子のコピー数は、SMA の臨床的重症度と逆相関の関係が認められている。SMN1 遺伝子と SMN2遺伝子のプロモーター領域の塩基配列はほとんど同一であると報告されているが、c.-318 GCC 挿入多型は SMN1 遺伝子プロモーター領域に特有のものであると考えられてきた。今回の研究プロジェクトにおいて、私たちは、SMN2 遺伝子のコピー数が少ないことから重症であると予想されたのにもかかわらず、意外にも軽症であった SMN1遺伝子欠失患者の SMN2 遺伝子プロモーター領域を解析し、c.-318 GCC 挿入多型を見いだした。私たちは、この多型の SMN2遺伝子転写に与える影響を解析し、脊髄性筋萎縮症治療法の開発を目指した。しかし、このc.-318 GCC 挿入多型は SMN2 遺伝子プロモーターの転写活性を上昇させず、白血球中の SMN2 遺伝子転写産物は他の 5 人の SMN1 遺伝子欠失患者より少なかった。c.-318 GCC 挿入多型を有するプラスミドを使ったレポーター遺伝子アッセイでも、この多型が転写効率に対してわずかではあるが負の効果を持っていることが明らかになった。結論として、SMN2 遺伝子プロモーターの c.-318 GCC 挿入多型は、意外にも軽症であった臨床像には関係がなかったものと思われる。また、このことは、非 SMN2 遺伝子関連症状修飾因子がSMA の重症度に関わっていることを示唆している。また、c.-318 GCC 挿入多型は SMN2 遺伝子の転写活性を低下させることが明らかになった。このことは、SMA 治療の際には、SMN2 遺伝子の転写活性にかかわる薬剤の種類や量を、c.-318 GCC 挿入多型の有無によって変える必要があることを示唆している。