著者
中村 肇 上谷 良行 西山 馨 松尾 雅文 白川 卓 竹島 泰弘
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

グルコース6リン酸脱水素酵素(G6PD)欠損症は新生児黄疸の重要な原因と考えられている。しかし我が国ではその頻度は少なく、G6PD欠損症と新生児黄疸、特に核黄疸発生との分子レベルでの検討はなされていない。本研究は、G6PD欠損症が多発しているフィリピンで新生児黄疸特に核黄疸とG6PD欠損症との関連をその遺伝子の異常を基盤にして明らかにするものである。そのため、フィリピン総合病院をはじめ、メトロマニラ地区にある病院で出生した新生児を対象としてG6PD欠損症の新生児マススクリーニングを実施した。これまでに、約3万人の新生児を対象として実施し、人口の約3%がG6PD欠損症であることが判明してきた。新生児スクリーニングにより多くのG6PD欠損症が発見されたが、発見された症例の中に少なからず女児例が混在していた。本来G6PD欠損症は伴性劣性遺伝をとり、女性はたとえ遺伝子の異常をもったとしてもキャリアーとなり、男性のみに発生するものである。今回、女児でG6PD欠損症と診断した症例は、本来キャリアーで無症状であるはずのものがX染色体の不活化に偏りがあり、正常の遺伝子をもつX染色体が強く不活化され異常な遺伝子をもつX染色体が強く活性化されているものと考えられた。そこで、G6PD欠損症と診断された女児を対象に遺伝子からのmRNAの解析を行い、正常と異常のどちらの遺伝子から転写されたものが多いかを調べ、女性G6PD欠損症の不活化の偏りについて検討した。その結果、予想通りX染色体の不活化の偏りがあり、こうした女児G6PD欠損症では正常の遺伝子を持つX染色体が強く不活化されていることが判明した。
著者
西尾 久英 竹島 泰弘 西村 範行
出版者
神戸大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2010

脊髄筋萎縮症(SMA)患者の 95%以上に、SMN1 遺伝子のホモ接合性欠失が認められる。このような SMA 患者では、SMN1 遺伝子とつよい相同性を有する SMN2 遺伝子が残存していて、かなりの程度 SMN1 遺伝子の欠失を補償しているものと考えられている。実際、SMN2 遺伝子のコピー数は、SMA の臨床的重症度と逆相関の関係が認められている。SMN1 遺伝子と SMN2遺伝子のプロモーター領域の塩基配列はほとんど同一であると報告されているが、c.-318 GCC 挿入多型は SMN1 遺伝子プロモーター領域に特有のものであると考えられてきた。今回の研究プロジェクトにおいて、私たちは、SMN2 遺伝子のコピー数が少ないことから重症であると予想されたのにもかかわらず、意外にも軽症であった SMN1遺伝子欠失患者の SMN2 遺伝子プロモーター領域を解析し、c.-318 GCC 挿入多型を見いだした。私たちは、この多型の SMN2遺伝子転写に与える影響を解析し、脊髄性筋萎縮症治療法の開発を目指した。しかし、このc.-318 GCC 挿入多型は SMN2 遺伝子プロモーターの転写活性を上昇させず、白血球中の SMN2 遺伝子転写産物は他の 5 人の SMN1 遺伝子欠失患者より少なかった。c.-318 GCC 挿入多型を有するプラスミドを使ったレポーター遺伝子アッセイでも、この多型が転写効率に対してわずかではあるが負の効果を持っていることが明らかになった。結論として、SMN2 遺伝子プロモーターの c.-318 GCC 挿入多型は、意外にも軽症であった臨床像には関係がなかったものと思われる。また、このことは、非 SMN2 遺伝子関連症状修飾因子がSMA の重症度に関わっていることを示唆している。また、c.-318 GCC 挿入多型は SMN2 遺伝子の転写活性を低下させることが明らかになった。このことは、SMA 治療の際には、SMN2 遺伝子の転写活性にかかわる薬剤の種類や量を、c.-318 GCC 挿入多型の有無によって変える必要があることを示唆している。
著者
高橋 悠子 中村 任 守屋 友加 白木 孝 林 伸英 熊谷 俊一 岡村 昇 八木 麻理子 竹島 泰弘 松尾 雅文 栄田 敏之 奥村 勝彦
出版者
日本医療薬学会
雑誌
医療薬学 (ISSN:1346342X)
巻号頁・発行日
vol.32, no.11, pp.1111-1116, 2006-11-10
参考文献数
23

Recently, high dose gentamicin (GM) has started to be used for the treatment of Duchenne muscular dystrophy (DMD). Previously, since the intravenous infusion of GM for 1h once a week at a dose of 7.5mg/kg/day had caused no significant adverse events in a course of therapy lasting 6 months, we decided to try conducting such therapy for four courses in the present study. We continuously assessed renal function by monitoring serum creatinine, serum cystatin C (Cys-C), serum urea nitrogen (BUN), urinary β_2-microglobulin and urinary N-acetyl-β-D-glucosaminidase (NAG) activity. Serum creatinine levels were found to be much lower than the normal range, while, at 0.65 to 0.78μg/mL, serum Cys-C levels, were within the normal range and so was BUN, suggesting that the glomerular filtration rate in the DMD patients receiving GM therapy was being maintained in the normal range. Therapeutic drug monitoring of GM indicated that it was being rapidly eliminated from the systemic circulation though a slight elevation of urinary NAG activity in 1 patient indicated the possibility of impaired renal proximal tubules. It will thus be necessary to optimize our patient management strategy.
著者
小椋 たみ子 松尾 雅文 松嶋 隆二 常石 秀一 竹島 泰弘
出版者
神戸大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

1.Duchenne型筋ジストロフィー児165名に対して知能、発達評価を行なった。(1)IQ69以下の精神発達遅滞は25,6%、IQ 70-89が39.6%、IQ 90-109が28.7%、IQ 110以上が6.1%で精神遅滞が1/4であった。知能(IQ, DQ)の平均は80.2であった。(2)PIQとVIQの差はWISC(94名)、新版K式(26名)においては有意差なし、WPPSI(45名)においてはPIQIQ(84.8)がVIQ(74.2)より有意に高かった。(3)下位検査の評価点はWISCでは類似問題が最低点(7.0)、迷路が最高点(11.0)、WPPSIでは理解問題が最低点(5.2)、迷路が最高点(9.1)であった。言語概念化能力と言語表出能力が低かった。(4)32名の1年以上後の再検査(平均26.6ヶ月間隔)でFIQ, PIQ, VIQとも有意差はなかった。進行に伴う知能の低下はないと考えられる。2.Duchenne型筋ジストロフィー児43名(平均7.1歳)にITPA言語学習能力検査を実施した。「ことばの表現」「ことばの類推」の評価点が低かった。3.サザンプロット法、PCR法、RT-PCR法、直接塩基配列解析法により遺伝子異常を同定した症例について、遺伝子異常と知能との関連を検討した。欠失・重複例(97名)と微小変異例(53名)で、IQの平均値の差はなかった。欠失・重複例と微小変異例について大脳、脊髄をコントロールするエクソン44と45の間にあるdp140のプロモーターと知能の関係をみると、両例とも遺伝子異常がイントロン44より上流にとどまる群はイントロン45より下流に及ぶ群に比べ、IQ、VIQ、PIQとも有意に得点が高かった。なお、欠失・重複例はイントロン45より下流に及ぶ群(65.4%)、微小例はイントロン44より上流にとどまる群(74.1%)で出現率に有意差があった。ITPAにおいてはdp140のプロモーターとの関係は見出されなかった。4.筋ジス児の言語音の有標性を検討するために構音検査を実施したが、誤構音は少なかった。