著者
江頭 勇紀 渡邊 亮 吉田 穂波 鄭 雄一 西海 昇 Byung-Kwang YOO
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-039, (Released:2022-11-28)
参考文献数
27

目的 COVID-19の感染流行に伴うまん延防止措置法等の適用に際し,都道府県は科学的根拠に基づいた政策立案を求められたが,国の支援と都道府県の政策需要の乖離が課題であった。そのため,神奈川県立保健福祉大学と神奈川県庁は,共同でEBPM(Evidence Based Policy Making)プロジェクトを立ち上げ,COVID-19感染予測モデルを開発し,政策判断へ活用した。そこで,本事例の成果および課題を検討し,今後の公衆衛生行政への示唆を提示する。方法 Google社が開発した新型コロナウイルス感染者予測モデル『COVID-19感染予測(日本版)』(Google AI)の推計と公開データを組み合わせた「簡易モデル」,二次医療圏の日別データを使用した「主要モデル」を開発した。主要モデルの開発では,神奈川県庁内で散逸したデータを統合データプラットフォームに格納し,二次医療圏ごとに療養者,入院者,重症者を予測した。予測は,パネルデータ推計にGoogle AIの推計を外挿することで,新規感染者数のピーク値を反映させた。活動内容 約50種類のデータを統合データプラットフォームに格納し,神奈川県立保健福祉大学の学術チームによる,データの質の評価後,使用データを選定した。推計結果は,平均絶対パーセント誤差(MAPE),平均二乗誤差の平方根(RMSE),平均二乗対数誤差(RMSLE)により評価した。主要モデルで最も精度が高かったのは,2021年9月5日を基準日としたモデルであった。結論 統合データプラットフォームを用いて二次医療圏の日別データを用いることで,高い精度で予測できたため,政策判断の際に活用された。官学連携の際,専門家とともに,行政側の意思決定プロセスに精通した者をアカデミア側に参画させることにより,円滑な連携が行えることがわかった。一方,諸外国と比較し,本邦では,公開データの粒度の粗さ,限定された研究主体,継続的な予測モデルの開発が課題であることが明らかとなった。
著者
加藤 暢介 増田 良太 西海 昇 加賀 基知三 猪口 貞樹 岩崎 正之
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.146-149, 2015 (Released:2015-07-31)
参考文献数
12

散弾銃損傷に対し,重症度から腹部の緊急手術と胸部の待機手術に分けて施行し良好な経過を得た症例を経験した.症例は60歳の男性.キジ狩り中に誤射を受け被弾した.胸部単純X線写真で左側胸腹部に計39個の散弾を確認した.胸部CT写真は銃弾の軌道に沿った左肺挫創と左血気胸を認めた.左胸腔ドレーン挿入時に一過性の気瘻と100mlの血性排液を認め,消化管損傷の可能性を優先し,緊急試験開腹手術を施行した.胸部37個の弾丸のうち合計23個が残ったが,血中鉛濃度の上昇を認めたため,18病日に肺内,心嚢内,左胸部皮下脂肪層・筋層内の銃弾を摘出した.血中鉛濃度は17病日に12.0ug/dlまで上昇したが,以後下降し受傷1カ月後は9.9ug/dlとなり,以後低値となった.散弾銃は,銃創による臓器損傷と体内遺残散弾による鉛中毒に注意が必要である.出血や重篤な臓器損傷がなければ鉛中毒予防のため散弾除去は待機手術で良い.