著者
阿江 竜介 中村 好一 坪井 聡 古城 隆雄 吉田 穂波 北村 邦夫
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.665-674, 2012 (Released:2014-04-24)
参考文献数
35

目的 全国的な疫学調査である「第 5 回 男女の生活と意識に関する調査」のデータをもとに,わが国の自傷行為についての統計解析を行い,自傷経験に関連する要因を明らかにする。方法 全国から層化二段無作為抽出法を用いて選出された2,693人に調査票を配布し,自傷経験に対する回答の解析を行った。自傷経験があると答えた群(以下,自傷群)とないと答えた群(以下,非自傷群)の 2 群間で比較を行った。結果 1,540人(回収率57.2%)の対象者が回答した。全体の7.1%(男の3.9%,女の9.5%)に少なくとも 1 回以上の自傷経験があり,男女ともに自傷経験者の約半数が反復自傷経験者であった。16–29歳における自傷経験率が9.9%と最も高く,30–39歳,40–49歳はそれぞれ5.6%,5.7%とほぼ同等であった。男女別では,年齢階級別(16–29歳,30–39歳,40–49歳)で,女はそれぞれ15.7%, 7.5%, 5.8%と若年ほど自傷経験率が高く,男は3.0%, 3.4%, 5.5%と若年ほど低かった。群間比較では,喫煙者(自傷群47.5%,非自傷群28.2%,調整オッズ比[95%信頼区間]:2.18[1.32–3.58]),虐待経験者(23.6%, 3.7%, 4.24[2.18–8.25]),人工妊娠中絶経験者(30.3%, 12.7%, 1.93[1.13–3.30])の割合が自傷群で有意に高く,中学生時代の生活が楽しかったと答えた者(41.1%, 78.6%, 0.45[0.25–0.79])は有意に低かった。調整後有意差は認めなかったが自傷群では,すべての性•年齢階級において,両親の離婚を経験した者,中学生時代の親とのコミュニケーションが良好ではなかったと答えた者,親への敬意•感謝の気持ちがないと答えた者の割合が高い傾向を認めた。結論 多くの先行研究と同様に,自傷経験率は16–29歳の女で高く,また,喫煙者や虐待経験者で自傷経験率が高いことが示された。自傷行為の予防には,これらに該当する者に対して重点的にケアを提供する必要がある。また,社会的な観点から言えば,これらの要因を持つ家庭環境についても,今後明らかにしていく必要があろう。
著者
江頭 勇紀 渡邊 亮 吉田 穂波 鄭 雄一 西海 昇 Byung-Kwang YOO
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
pp.22-039, (Released:2022-11-28)
参考文献数
27

目的 COVID-19の感染流行に伴うまん延防止措置法等の適用に際し,都道府県は科学的根拠に基づいた政策立案を求められたが,国の支援と都道府県の政策需要の乖離が課題であった。そのため,神奈川県立保健福祉大学と神奈川県庁は,共同でEBPM(Evidence Based Policy Making)プロジェクトを立ち上げ,COVID-19感染予測モデルを開発し,政策判断へ活用した。そこで,本事例の成果および課題を検討し,今後の公衆衛生行政への示唆を提示する。方法 Google社が開発した新型コロナウイルス感染者予測モデル『COVID-19感染予測(日本版)』(Google AI)の推計と公開データを組み合わせた「簡易モデル」,二次医療圏の日別データを使用した「主要モデル」を開発した。主要モデルの開発では,神奈川県庁内で散逸したデータを統合データプラットフォームに格納し,二次医療圏ごとに療養者,入院者,重症者を予測した。予測は,パネルデータ推計にGoogle AIの推計を外挿することで,新規感染者数のピーク値を反映させた。活動内容 約50種類のデータを統合データプラットフォームに格納し,神奈川県立保健福祉大学の学術チームによる,データの質の評価後,使用データを選定した。推計結果は,平均絶対パーセント誤差(MAPE),平均二乗誤差の平方根(RMSE),平均二乗対数誤差(RMSLE)により評価した。主要モデルで最も精度が高かったのは,2021年9月5日を基準日としたモデルであった。結論 統合データプラットフォームを用いて二次医療圏の日別データを用いることで,高い精度で予測できたため,政策判断の際に活用された。官学連携の際,専門家とともに,行政側の意思決定プロセスに精通した者をアカデミア側に参画させることにより,円滑な連携が行えることがわかった。一方,諸外国と比較し,本邦では,公開データの粒度の粗さ,限定された研究主体,継続的な予測モデルの開発が課題であることが明らかとなった。
著者
廣瀬 直紀 白石 三恵 春名 めぐみ 松崎 政代 吉田 穂波
出版者
一般社団法人 日本助産学会
雑誌
日本助産学会誌 (ISSN:09176357)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.342-349, 2016 (Released:2017-03-08)
参考文献数
30

目 的 震災が妊婦及び児の身体に与える影響は明らかになっていない。本研究の目的は系統的文献レビューを行い,震災が妊婦や児の身体に与える影響を個々の妊娠転帰別,及び対象者の特性別に明らかにすることである。方 法 震災後の妊娠転帰をアウトカムとした論文を集約するため,キーワードを用いて英語及び日本語文献を対象に電子データベース検索(PubMed, CINAHL, CiNii,医中誌)及びハンドサーチを行った。抽出された論文から包含基準,除外基準に基づき論文を選択した後,Risk of Bias Assessment Tool for Nonrandomized Studies(RoBANS)による評価を行い,包含する論文を決定した。全過程は2名の独立したレビュアーにより行われた。結 果 最終的に6編の論文が包含された。アウトカムとされた主たる妊娠転帰は早産,子宮内胎児発育遅延,低出生体重児の3つであった。震災後の妊娠転帰として4編の論文で早産率の増加,1編の論文で子宮内胎児発育遅延率の増加,2編の論文で低出生体重児率の増加が報告されていた。また,対象者の特性別に分析したところ,妊娠初期に被災した群において有意に在胎週数および出生体重が減少,早期早産率および低出生体重児率が増加し,そして児が女児の群において有意に早産率および低出生体重児率が増加するなど,強い妊娠転帰の悪化が報告されていた。結 論 震災が妊婦の早産,低出生体重児の増加につながる可能性が示唆された。また,被災した妊娠週数や児の性別によって震災への脆弱性に差がある可能性が示唆されたことから,こうした要因については今後の災害対応において考慮する必要がある。
著者
吉田 穂波
出版者
医学書院
雑誌
助産雑誌 (ISSN:13478168)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.471-478, 2015-06-25

新人産婦人科医師として,分娩介助だけでなく母子の愛着形成のサポートの大切さを助産師から学び,母親として,妊娠中から産後まで助産師から大切に支援された経験のある筆者。 その経験と内閣府の少子化対策策定委員としての立場から,助産師だからこそできる少子化社会対策を述べていただきました。
著者
阿江 竜介 中村 好一 坪井 聡 古城 隆雄 吉田 穂波 北村 邦夫
出版者
Japanese Society of Public Health
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.665-674, 2012-09-15

<b>目的</b> 全国的な疫学調査である「第 5 回 男女の生活と意識に関する調査」のデータをもとに,わが国の自傷行為についての統計解析を行い,自傷経験に関連する要因を明らかにする。<br/><b>方法</b> 全国から層化二段無作為抽出法を用いて選出された2,693人に調査票を配布し,自傷経験に対する回答の解析を行った。自傷経験があると答えた群(以下,自傷群)とないと答えた群(以下,非自傷群)の 2 群間で比較を行った。<br/><b>結果</b> 1,540人(回収率57.2%)の対象者が回答した。全体の7.1%(男の3.9%,女の9.5%)に少なくとも 1 回以上の自傷経験があり,男女ともに自傷経験者の約半数が反復自傷経験者であった。16–29歳における自傷経験率が9.9%と最も高く,30–39歳,40–49歳はそれぞれ5.6%,5.7%とほぼ同等であった。男女別では,年齢階級別(16–29歳,30–39歳,40–49歳)で,女はそれぞれ15.7%, 7.5%, 5.8%と若年ほど自傷経験率が高く,男は3.0%, 3.4%, 5.5%と若年ほど低かった。群間比較では,喫煙者(自傷群47.5%,非自傷群28.2%,調整オッズ比[95%信頼区間]:2.18[1.32–3.58]),虐待経験者(23.6%, 3.7%, 4.24[2.18–8.25]),人工妊娠中絶経験者(30.3%, 12.7%, 1.93[1.13–3.30])の割合が自傷群で有意に高く,中学生時代の生活が楽しかったと答えた者(41.1%, 78.6%, 0.45[0.25–0.79])は有意に低かった。調整後有意差は認めなかったが自傷群では,すべての性•年齢階級において,両親の離婚を経験した者,中学生時代の親とのコミュニケーションが良好ではなかったと答えた者,親への敬意•感謝の気持ちがないと答えた者の割合が高い傾向を認めた。<br/><b>結論</b> 多くの先行研究と同様に,自傷経験率は16–29歳の女で高く,また,喫煙者や虐待経験者で自傷経験率が高いことが示された。自傷行為の予防には,これらに該当する者に対して重点的にケアを提供する必要がある。また,社会的な観点から言えば,これらの要因を持つ家庭環境についても,今後明らかにしていく必要があろう。