- 著者
-
西田 尚輝
- 出版者
- 日本社会学会
- 雑誌
- 社会学評論 (ISSN:00215414)
- 巻号頁・発行日
- vol.71, no.3, pp.482-498, 2020 (Released:2021-12-31)
- 参考文献数
- 26
失業保険の費用を労働者,雇用主,国のあいだでどのように分担するかは,福祉国家によって異なる.しかし従来の権力資源論,資本主義の多様性論,インサイダー・アウトサイダー理論は,各国の失業保険の費用分担構造の違いを体系的に説明しなかった.本稿の目的は,制度の経路依存性と長期的過程に着目して,失業保険の雇用主拠出にかんする新たな説明を提示することである.
本稿は,戦間期ヨーロッパ諸国の失業保険の比較歴史分析によって,失業保険のコスト分担パターンを決定したのは,20 世紀初頭に福祉プログラムがどのように構造化されたか(市民権ベース/職業ベース)と,どのような組織が失業保険を実施していたか(労組/他組織)という2 つの要因だったことを示す.職業ベースの福祉プログラムを採用した国のうち,フランスのように多元的な失業金庫制度をもっていた国は,その制度選択の結果として,戦間期においても労働者だけが保険料を負担する旧来の制度を維持したのに対し,ドイツのように労働組合のみが失業金庫を管理運営していた国は,第一次世界大戦後に,未組織労働者の無保険状態の解消のために失業保険を一般化し,雇用主にも保険料負担を求めた.
福祉国家の大部分は拠出金で賄われているため,その費用を誰が負担するのかという問いを考えることは重要である.本稿は失業保険という政策領域でこの問いに取り組み,今後の研究にいくつかの道を開くものである.