著者
西邨 顕達
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement
巻号頁・発行日
vol.29, 2013

ウーリーモンキーは近縁のムリキおよびクモザルと異なり、昆虫主体の動物食をかなりコンスタントに行うことが報告されてきた.これらの研究によって,ウーリーモンキーの動物採食時間割合がわかってきたが,それ以上の詳細は不明である.この研究では何種類かの動物について,捕食方法を述べる.本発表のデータはコロンビア国立マカレナ・ティニグア自然公園に生息するウーリーモンキー (Lagothrix lagotricha lugens) を対象に,1987-2002年,いわゆるアドリブ観察で得られた. 結果:以下の 3種類の動物の捕食について述べる.①カエル,トカゲおよび大型の昆虫 (バッタ,カマキリ等). これらは分類学的には門 / 綱のレベルで異なるが、いずれも体長は数 cmで,"肉の量"してはそう変わらない.これらの動物の捕食では,時間をかけてゆっくり食う,普段食べない成熟して堅い葉と交互に食う,オスよりメスの方がよく食う,ということが共通特徴であった.②グンタイアリ.この調査でウーリーモンキーが食ったものはすべて (Eciton burchelli) であった.1) 樹上に作られたビバークと呼ばれる一時的な"巣"に手を突っ込み,多数の個体を掴んで一挙に口に入れる,2) ビバークを出発して行進していく個体を指でつまんで口にもっていく,という 2種類の捕食方法が観察された.腕,胸,腹を噛むアリを払い落としながら捕食する.③シリアゲアリ (Cremaogaster sp.).5 mmほどの小~中型アリで,枯れ枝の中に棲む.ウーリーは枝をかじり,割ってアリを食う.21例のシリアゲアリ採食を記録したが、それらはすべて 2 ~ 3月(乾季の終わり)に,調査群の行動域 3km2 の中の 30m × 70m という小さな範囲内で見られた.ウーリーモンキーがグンタイアリおおびシリアゲアリを食うことがこの研究で初めて明らかになった.
著者
伊沢 紘生 小林 幹夫 木村 光伸 西邨 顕達 土谷 彰男 竹原 明秀 CESAR Barbos CARLOS Mejia
出版者
宮城教育大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

離合集散型で父系という、サル類では他にアフリカの類人猿チンパンジーとボノボでしか見られないユニークな杜会構造をもつクモザルについて、南米コロンビア国マカレナ地域の熱帯雨林に設営した調査地で、3年間継続調査を行った。その調査は、隣接する4群のサルをハビチュエーションし、完壁に個体識別した上で、複数の研究者による4群の同時観察と、各群について複数のパーティを対象とした複数の研究者による同時観察という画期的な方法を用いて行われ、離合集散の実態が把握された。同時に、その適応的意味を問う上で重要な、主要食物であるクワ科イチヂク属、ヤシ科オエノカルプス属の植物のフェノロジー調査も3年間継続した。また、クモザルの全食物リストを完成、それらの植物を中心とした森林の構造や動態、クモザルの種子散布についても継続調査を行った。その結果、1.森林の果実生産量の季節変化と離合集散するパーティのあり方、2.そのべースになる個体関係とは、3.群れの行動域内でのオスとメスの利用地域の差異とその意味、4.行動域の境界域におけるオスのパトロール行動とオス間の特異的親和性、5.離合集散に介在するロング・コールの頻度と機能、6.群間の抗争的関係、7.父系構造を支える群間でのメスの移出入とメスの性成熟や出産との関係、8.サラオ(塩場)利用の季節性とそこでの特異なグルーピングの意味など、これまで未知だった多大な成果を上げることができた。また、9.クモザルが上記ヤシ科やイチヂク属の植物の種子散布に功罪両面で決定的に関わっている実態、10.新しく形成された砂州の森林生成メカニズムとクモザルの行動域拡張、1l.優占樹種のパッチ構造とパーティのあり方の関係、12.森林構造とパーティの移動ルートや泊り場の関係なども解明され、離合集散性の適応的意味を正面から問える豊富なデータを収集することができた。