著者
小林幹夫
出版者
植物研究雑誌編集委員会
雑誌
植物研究雑誌 (ISSN:00222062)
巻号頁・発行日
vol.91, no.3, pp.141-159, 2016-06-20 (Released:2022-10-21)

日本産ササ類には,稈鞘の挙動によって特徴づけられる4種類の分枝様式が存在することが分かった.第一は,分枝が母稈の稈鞘の内部で起こり,枝の基部が包まれて維持される内鞘的分枝様式で,メダケ属,ヤダケ属,ならびにササ属の大部分に共通する.第二は,分枝に伴って稈鞘基部の辺縁側が母稈を離れ,稈鞘全体が枝を抱くようになる移譲的分枝様式で,スズダケ属,スズザサ属に共通し,アズマザサ属の多くに見られる.第三は,腋芽が母稈鞘の腋芽側を突き破って分枝する外鞘的分枝様式で,アズマザサ属のごく一部,ならびにササ属ミヤコザサーチマキザサ複合体の多くに見られる.第四は,同一の稈に外鞘的,移譲的の2種類の分枝様式が混在する外鞘・移譲混合型分枝様式で,アズマザサ属の一部に見られる.これらの分枝様式は,同定が困難なササ属とアズマザサ属,もしくはスズザサ属の種群間,ミヤコザサーチマキザサ複合体の識別を容易にする.
著者
小林 幹夫 濱道 寿幸
出版者
宇都宮大学農学部
雑誌
宇都宮大学農学部演習林報告 (ISSN:02868733)
巻号頁・発行日
no.37, pp.187-198, 2001-03

1998年2月から12月まで、奥日光・小田代原南測山地林の約4km2に出現するササ類の分布、生態(稈の生長、葉の展開、冬芽形成、隈取形成、積雪深、エンドファイトの有無)、生存枯死状況、ニホンジカによる食害状況を調べ、相互の因果関係を分析した。調査地内にはササ属ミヤコザサ節、クマイザサ、オクヤマザサ、ミヤコザサ-チマキザサ複合体(ミヤコチマキと呼称)、スズダケ、ナンブスズの6分類群が出現した。これらの分布図に生存枯死状況を重ね合わせた結果、ミヤコチマキ、オクヤマザサが全面枯死もしくは枯死寸前の状況にある反面、クマイザサ、ミヤコザサ、ナンブスズ及びスズダケでは健全であった。23ヶ所に2×2mの方形枠を設け、各プロット内におけるシカの食害状況を追跡調査した結果、互いに隣接する場所にもかかわらず、ミヤコチマキ、オクヤマザサ、ミヤコザサが顕著に食害を受けるのに対して、クマイザサ、ナンブスズ、スズダケはほとんど受けなかった。これらの結果は、シカがミヤコチマキ、オクヤマザサ、ミヤコザサを選択的に摂食することを示した。選択的食害を受ける3者の間での生存枯死状況の相違は冬芽が形成される位置に依存すること、積雪やエンドファイトの有無は選択性の直接的な要因ではないことが分った。
著者
伊沢 紘生 小林 幹夫 木村 光伸 西邨 顕達 土谷 彰男 竹原 明秀 CESAR Barbos CARLOS Mejia
出版者
宮城教育大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1997

離合集散型で父系という、サル類では他にアフリカの類人猿チンパンジーとボノボでしか見られないユニークな杜会構造をもつクモザルについて、南米コロンビア国マカレナ地域の熱帯雨林に設営した調査地で、3年間継続調査を行った。その調査は、隣接する4群のサルをハビチュエーションし、完壁に個体識別した上で、複数の研究者による4群の同時観察と、各群について複数のパーティを対象とした複数の研究者による同時観察という画期的な方法を用いて行われ、離合集散の実態が把握された。同時に、その適応的意味を問う上で重要な、主要食物であるクワ科イチヂク属、ヤシ科オエノカルプス属の植物のフェノロジー調査も3年間継続した。また、クモザルの全食物リストを完成、それらの植物を中心とした森林の構造や動態、クモザルの種子散布についても継続調査を行った。その結果、1.森林の果実生産量の季節変化と離合集散するパーティのあり方、2.そのべースになる個体関係とは、3.群れの行動域内でのオスとメスの利用地域の差異とその意味、4.行動域の境界域におけるオスのパトロール行動とオス間の特異的親和性、5.離合集散に介在するロング・コールの頻度と機能、6.群間の抗争的関係、7.父系構造を支える群間でのメスの移出入とメスの性成熟や出産との関係、8.サラオ(塩場)利用の季節性とそこでの特異なグルーピングの意味など、これまで未知だった多大な成果を上げることができた。また、9.クモザルが上記ヤシ科やイチヂク属の植物の種子散布に功罪両面で決定的に関わっている実態、10.新しく形成された砂州の森林生成メカニズムとクモザルの行動域拡張、1l.優占樹種のパッチ構造とパーティのあり方の関係、12.森林構造とパーティの移動ルートや泊り場の関係なども解明され、離合集散性の適応的意味を正面から問える豊富なデータを収集することができた。
著者
小林 幹夫
出版者
宇都宮大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1 マダケ属モウハイチクPhyllostachys meyeriの花成促進遺伝子ホモログPmFTの全4コピーをクローニングし、塩基配列を決定し、95%以上の相同性を有する550塩基の断片をマーカーとしたイネ科27分類群の系統類縁関係を解析し、進化傾向を検討した結果、この遺伝子が小穂耕造に関わり、連の分類単位の識別に有効であること、これまで帰属をめぐり論争のあったStreptogyna連の亜科への昇格の可能性を示唆した。この結果は8月にコペンハーゲン大学で開催されたMonocots IV第4回単子葉植物の比較生物学/第5回イネ科植物の分類と進化国際シンポジウムにおいて口頭発表し、日本植物学会欧文誌に表紙写真付きで掲載された。2 モウハイチクおよびオカメザサ属トウオカメザサShibataea chinensisのそれぞれの一斉開花過程におけるPmFTおよび花成抑制遺伝子PmCENの発現パターンをリアルタイムRT-PCR法で解析し、両種ともにPmFTは一斉開花桿の葉で最も高く、再生竹の花序ではPmCENがより高く、実生や幼若個体ではPmCENのみが高く発現し、タケ類の一斉開花過程において、モデル植物で解明されたのと同様な花成遺伝子発現の制御機構の介在を示唆した。また、トウオカメザサの一斉開花過程と花序の形態を記載した。3 リョクチクBambusa oldhamiより単離したタケモザイクウイルスBaMVの全6,365塩基の配列を決定し、ベクター化に必要な完全長cDNAクローンを構築中である。4 花成遺伝子群の未開花個体への導入による発現系とサイレンシング系の基礎実験に必要なタケ類の葉からのプロトプラストの調整法ヲ確立した。