著者
大倉 隆介 見野 耕一 小縣 正明
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.19, no.9, pp.901-913, 2008-09-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
29
被引用文献数
4 6

向精神薬を意図的に過量服薬し救急病院を受診する患者の臨床的特徴及び救急外来における対応の現状を明らかにするために,2004年 1 月以降の 3 年間に神戸市立医療センター西市民病院(旧・神戸市立西市民病院)の内科救急外来に受診した過量服薬患者194名(件数273件)を対象として遡及的に検討した。対象例は同期間の救急外来受診件数全体の0.75%を占めており,平均年齢は36.2 ± 13.3歳,性別は男35名(39件),女159名(234件)であった。推定服薬時刻から来院までの平均時間は 4 時間 9 分であった。救急車による搬送例は167件(61.2%)であった。服用量が多いほど来院時の意識レベルは低かった。服用薬物は大多数が医療機関から処方されたものであり,ベンゾジアゼピン系が最多であった。アルコールの同時摂取例は救急搬送及び入院の割合が高かった。ICD-10に準じた精神科的基礎疾患としてはF3(気分障害)とF4(神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害)が多かった。救急外来で血液検査を施行する頻度は高かったが,心電図や胸部X線撮影を施行する頻度は低かった。また,活性炭投与を施行する頻度は胃洗浄を施行する頻度よりも低かった。全受診例のうち126件(46.2%)が入院を要した。救急車による搬送例はそれ以外の患者と比べて入院を要する割合が高かった。入院例の在院日数の中央値は 2 日であった。死亡例はなかった。当院精神科医への診察依頼があったものは94件(34.3%)あった。救急外来からの帰宅後または退院後 1 週間以内に過量服薬で再受診した症例は21件(7.7%)あった。これらの結果は,一般病院の救急外来を受診する向精神薬過量服用患者の臨床的特徴を示すとともに,救急外来における過量服薬患者への救急医学的,精神医学的対応の現状と問題点を指摘するものであり,今後更なる検討が求められる。
著者
見野 耕一 中嶋 義文
出版者
医学書院
雑誌
精神医学 (ISSN:04881281)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.211-220, 2010-03-15

はじめに 無床総合病院精神科の危機について語られることが最近目立ってきている。無床総合病院精神科の診療特徴が人的な不足などの問題を生じさせ,それがある時点を越えると危機的な状況に発展してしまう。本稿では,危機的な現状を検証し,その状況に対する臨床現場での取り組みを紹介し,今後の課題を論じてみたい。 有床総合病院精神科の施設数と精神科病床数についてみてみると,日本総合病院精神医学会の調査では,2002年度は272施設,21,734床であったが,2008年度は239施設,17,319床へと減少,すなわち精神科病床数は2002年度から比べると2割減少している。調査後も休止したり診療をやめたりする病院が続いている。地域の中核病院などの総合病院精神科病棟が医師不足などから閉鎖・縮小されたり,精神科外来そのものが総合病院から消失しており,わが国の総合病院精神科はこれまでにないほど危機的な状況にさらされている5)。日本病院団体協議会の調査によると,2007(平成19)年度の病床休止もしくは返還は,産婦人科,小児科に次いで精神科が3番目であった。 無床総合病院精神科の場合はもっとも減少が顕著である。日本総合病院精神医学会無床総合病院精神科委員会の調査によれば,2009年8月現在,精神科常勤医のいる無床総合病院精神科の病院数と常勤医数は178病院,268名である(シニアスタッフ3名以上の大学病院など除く)。調査2)を始めた1999年より122病院が減少(41%)している。2008年度は,10病院が閉鎖となっている。 厚生労働省の調査では,精神科専門の医師数は微増しているが,この10年で診療所と精神科病院に勤める医師数は増加したのに対し,総合病院の医師数は1割減となっている。 減少の原因は複合的である。病院間では病院統廃合がまず挙げられるが,病院内では精神科医療の診療報酬が低く抑えられているため,診療科間の比較では不採算とみなされやすく,経営の観点から閉科となることが挙げられる。最大の理由は,多忙さにある。インセンティブのない多忙さは忌避され,常勤医の異動(開業など)に伴い欠員が生じた際に赴任を希望する精神科医がおらず,結果として非常勤医による外来診療をしばらく続けた後に閉鎖となるパターンが多い。診療報酬改定により,自殺未遂で入院した患者を精神科医が診察すると診療報酬が加算されたり,がん対策基本法で緩和ケアチームに精神科医の関与が求められるなど,精神科医の役割は増しているが,その主体となる総合病院精神科医自体が減少しているため,ニーズに応えられないのが現状である。