著者
安井 由香 大塚 佳代子 田中 順子 覺道 昌樹 田中 昌博
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.52-59, 2021-04-30 (Released:2021-08-31)
参考文献数
40
被引用文献数
1

【目的】ミキサー食のような外形の悪い食形態は,嗜好に影響を及ぼし,食欲減退の原因となることが危惧されている.認知症患者において,食品の嗜好の客観的な判定に視線計測が有効である.本研究では,認知症患者におけるアイトラッキングシステムを用いた無意識下の食品の嗜好と視線との関係を検討した.【対象と方法】対象者は,75歳男性,要介護度2,長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)9点であった.原疾患は小脳出血であり,認知症を合併していた.被験食品はぶりの照焼き78 g(あいーと®,イーエヌ大塚製薬株式会社)とした.食形態はやわらか普通食およびミキサー食とした.視線計測には,アイトラッカー(Tobii pro/glasses 2,Tobii 製)を用いてアイトラッキングを行った.アイトラッカー装着後,食品を10 秒間自由に見るよう指示した.各10 秒間計3 回測定を行った.測定終了後,最大10 分として自由に食事をするよう指示した.視線測定は,食事提供時から食べ始める前の10 秒間を測定した.記録ユニットに保存された視線データの解析には,解析ソフトウェア(Tobii Studio Version 4.9,Tobii 製)を用いた.食事終了後,摂取量を測定した.食事摂取量が多いほうを嗜好レベル「高」,食事摂取量が少ないほうを嗜好レベル「低」と設定した.【結果】視線計測の結果,患者はより多く摂取した食品に対して注視点の停留回数が多く,注視点の停留時間も長くなった.そして,やわらか普通食がより多く摂取された.これは,健常成人と同様の傾向であった.【結論】本研究から,認知症高齢者において,嗜好レベルが高い食品に視線が停留していたことが示唆された.
著者
佐藤 正樹 覺道 昌樹 田中 順子 田中 昌博
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.11-15, 2018-03-25 (Released:2018-07-01)
参考文献数
17

咬合力を電気的に時系列に計測できる咬合検査装置T­-Scan Ⅲを研究および臨床に応用してきた.習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至る咬合力上昇時間の指標であるオクルージョンタイム(以下,OT とする)は,健常有歯顎者と比較して顎機能障害者で有意に延長することが報告されている.しかし顎機能障害者の中にはOT が比較的短いものがいるなど,その機序には不明な点も多い.そこで本研究では,T­-Scan Ⅲを用いて,健常有歯顎者と顎機能障害者の咬合状態の違いを明らかにすることを目的とした.健常有歯顎者 20 名と顎機能障害者42 名を選択し,T­ScanⅢを用いて習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至るOT を計測した.また,早期接触の検出に有用であるとされているデルタの咬合力を求め,デルタのraw sum 値を咬頭嵌合位における咬合力のraw sum 値で除し,正規化したものを早期接触の指標とした.健常有歯顎者と顎機能障害者のOT の中央値は,それぞれ0.36 秒と0.61 秒で統計学的に有意な差を認めた(p<0.01).咬頭嵌合位の咬合力に対するデルタの咬合力の割合は,顎機能障害者をOT で0.7 秒未満と0.7 秒以上の2 群に分け,健常有歯顎者と合わせて3 群間で比較したところ,3 群間で有意な差を認めた(p<0.01).健常有歯顎者と顎機能障害者(OT≧0.7 秒)間(p<0.01),顎機能障害者(OT<0.7 秒)と顎機能障害者(OT≧0.7 秒)間(p<0.05)に有意な差を認めた.デルタは水平面内での下顎変位が生じる際に検出されると考えられることから,顎機能障害者(OT<0.7 秒)は,水平面内での下顎変位が比較的少なく,回転中心の下顎変位を示すためOT が短く,顎機能障害者(OT≧0.7 秒)は下顎の水平面内での変位を伴う早期接触のため,習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至るOT が延長したと考察した.