- 著者
-
佐藤 正樹
覺道 昌樹
田中 順子
田中 昌博
- 出版者
- 大阪歯科学会
- 雑誌
- 歯科医学 (ISSN:00306150)
- 巻号頁・発行日
- vol.81, no.1, pp.11-15, 2018-03-25 (Released:2018-07-01)
- 参考文献数
- 17
咬合力を電気的に時系列に計測できる咬合検査装置T-Scan Ⅲを研究および臨床に応用してきた.習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至る咬合力上昇時間の指標であるオクルージョンタイム(以下,OT とする)は,健常有歯顎者と比較して顎機能障害者で有意に延長することが報告されている.しかし顎機能障害者の中にはOT が比較的短いものがいるなど,その機序には不明な点も多い.そこで本研究では,T-Scan Ⅲを用いて,健常有歯顎者と顎機能障害者の咬合状態の違いを明らかにすることを目的とした.健常有歯顎者 20 名と顎機能障害者42 名を選択し,TScanⅢを用いて習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至るOT を計測した.また,早期接触の検出に有用であるとされているデルタの咬合力を求め,デルタのraw sum 値を咬頭嵌合位における咬合力のraw sum 値で除し,正規化したものを早期接触の指標とした.健常有歯顎者と顎機能障害者のOT の中央値は,それぞれ0.36 秒と0.61 秒で統計学的に有意な差を認めた(p<0.01).咬頭嵌合位の咬合力に対するデルタの咬合力の割合は,顎機能障害者をOT で0.7 秒未満と0.7 秒以上の2 群に分け,健常有歯顎者と合わせて3 群間で比較したところ,3 群間で有意な差を認めた(p<0.01).健常有歯顎者と顎機能障害者(OT≧0.7 秒)間(p<0.01),顎機能障害者(OT<0.7 秒)と顎機能障害者(OT≧0.7 秒)間(p<0.05)に有意な差を認めた.デルタは水平面内での下顎変位が生じる際に検出されると考えられることから,顎機能障害者(OT<0.7 秒)は,水平面内での下顎変位が比較的少なく,回転中心の下顎変位を示すためOT が短く,顎機能障害者(OT≧0.7 秒)は下顎の水平面内での変位を伴う早期接触のため,習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至るOT が延長したと考察した.