著者
佐藤 正樹 根上 純子 堀江 隆 加藤 治
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.93-101, 2013-05-01 (Released:2013-05-01)
参考文献数
9

2008年1月に科学技術振興機構(JST)が行った国内の科学技術関連資料の電子化調査に引き続き,2012年2月~3月に同様の調査を行った。JSTが収集している国内資料(9,639誌)について電子化の状況を調査したところ,4,672誌(48%)が電子化されており,前回の調査と比較して9%向上していることがわかった。また,学協会の学術誌・学会誌の電子化率は60%であり,前回の調査と比較して13%向上している。さらに,電子化率の変化等について,考察した。
著者
藤野 義之 佐藤 正樹 永井 清仁 平良 真一 尾崎 裕 渡邉 栄司 澤 学 田中 行男 楠田 哲也
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. B, 通信 (ISSN:13444697)
巻号頁・発行日
vol.91, no.12, pp.1611-1619, 2008-12-01
被引用文献数
3

ヘリコプターによる撮影は,災害時の情報収集に有効な手段の一つである.しかし,現在は,撮影した被災地映像を地上の車載局や基地局で中継するため通信範囲が限られ,新潟中越地震では,付近に基地局がなく緊急消防援助隊の指導などに生かされなかったといわれている.本論文では,筆者らが開発した,ヘリコプターから災害映像を実時間で直接衛星を経由し対策本部等に伝送するシステムについて論じる.本システムは,(1)MPEG4規格での384kbit/s準動画及び1.5Mbit/s 動画伝送機能,(2)ヘリコプターと対策本部との間の音声及びデータの双方向通信機能,(3)撮影している被災地位置を三次元地図を用いて高精度で特定する機能等を有している.また,これらの通信を可能とするために,(1)高速回転するヘリコプタープロペラのわずかなすき間をねらって電波を送信する技術,(2)ヘリコプターの姿勢が動揺してもアンテナビームを人工衛星方向に高精度で捕そく指向させる技術,(3)通信機器等に異常が発生しても利用衛星に隣接する衛星や地上の無線設備に干渉を与えないための技術等を開発し,実証試験を行ってその有効性を確認したので報告する.
著者
佐藤 正樹 加藤 治 堀江 隆 黒沢 努 森 卓也
出版者
国立研究開発法人 科学技術振興機構
雑誌
情報管理 (ISSN:00217298)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.899-909, 2013-03-01 (Released:2013-03-01)
参考文献数
9

現在,科学技術情報流通の世界では,IT技術の発達や科学技術情報の世界規模での広がり等を要因として,外資系企業を中心に世界的な販売展開がなされている。JSTの情報事業のみならず,情報提供事業を行う機関は,自国内で展開する事業展開だけでなく,グローバルな視点の事業展開の立案が必要になっている。そこで2012年に,アジア諸国・地域の科学技術情報流通に関する状況を調査した。まず,アジア各国・地域における科学技術情報流通のポテンシャルを調査した。次にアジア諸国・地域で,日本の科学技術情報ニーズを調査した。最後に,今後どのような形態での科学技術情報の流通が求められるかを調査した。それらの結果を報告し考察する。
著者
佐藤 正樹 加藤 治 堀江 隆 川村 剛 真銅 解子 高橋 昭公 芳賀 みのり
出版者
一般社団法人 情報科学技術協会
雑誌
情報プロフェッショナルシンポジウム予稿集 第9回情報プロフェッショナルシンポジウム
巻号頁・発行日
pp.25-30, 2012 (Released:2012-10-09)
参考文献数
6

2000 年代に入り、日本の企業による論文発表数が減っているといわれている。文部科学省科学技術政策研究所での研究でも、国内企業の論文発表件数は減少していると発表されている。しかしこれまで、日本国内で発表されている論文数の分析や、その結果と国内特許を合わせた分析は、ほとんど実施されていない。そのため JST と INFOSTA では、国内資料も含めた、電機系と化学系企業の論文発表および特許出願の状況調査を試みた。まず JDream II と PATOLIS を使用して、電機系と化学系企業の論文発表、特許出願状況を調査した。また、企業が投稿した論文誌等の科学技術資料の種類も調査した。科学技術資料は、分野、査読の有無、業界での注目度により分類できるため、企業が多く投稿する資料を分析した。さらに、今回調査した結果を基に、論文件数および特許出願数と社会情勢の比較等、調査した企業研究開発の状況を考察した。今後、他業種の企業の論文発表数調査や、企業内部の技術分野別の動向等、調査していきたい。
著者
Falko JUDT Daniel KLOCKE Rosimar RIOS-BERRIOS Benoit VANNIERE Florian ZIEMEN Ludovic AUGER Joachim BIERCAMP Christopher BRETHERTON Xi CHEN Peter DÜBEN Cathy HOHENEGGER Marat KHAIROUTDINOV 小玉 知央 Luis KORNBLUEH Shian-Jiann LIN 中野 満寿男 Philipp NEUMANN William PUTMAN Niklas RÖBER Malcolm ROBERTS 佐藤 正樹 澁谷 亮輔 Bjorn STEVENS Pier Luigi VIDALE Nils WEDI Linjiong ZHOU
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.3, pp.579-602, 2021 (Released:2021-06-10)
参考文献数
68
被引用文献数
26

近年のコンピューターとモデル開発の進歩により、全球ストーム解像モデルの時代が始まり、それに伴って気象や気候予測が一変する可能性を秘めている。本研究では、この新しいクラスのモデルを検証するという一般的なテーマの中で、9つの全球ストーム解像モデルについて、熱帯低気圧(TC)をシミュレートする能力を評価した。その結果、大まかにいえば、これらのモデルは現実的な熱帯低気圧を再現し、熱帯低気圧の強度の正確なシミュレーションを可能とするなど、全球モデルの長年の課題が解消されていることが示された。一方、TCはモデルの設計に強く影響され、全てのモデルはTCの数、強度、大きさ、構造に関して独自のバイアスを持っている。いくつかのモデルは他のモデルよりも優れたTCをシミュレートするが、全ての点で優れたモデルが存在するわけではなかった。全体的な結果は、全球ストーム解像モデルがTC予測の新時代を切り拓くことが可能であることを示しているが、その可能性を最大限に引き出すためには改良が必要である。
著者
佐藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本リモートセンシング学会
雑誌
日本リモートセンシング学会誌 (ISSN:02897911)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.133-139, 2021-05-15 (Released:2021-08-25)
参考文献数
16

We propose a collaboration study between numerical models and ground remote-sensing observation data over the metropolitan area of Tokyo. The initiative is called ULTIMATE (ULTra-sIte for Measuring Atmosphere of Tokyo metropolitan Environment), in which using an intensive observation data in the Tokyo area together with satellite observations, cloud microphysics schemes of numerical models are evaluated and improved. We have various kinds of remote sensing data by radars and lidars in the Tokyo area both for operational and research purposes.In particular, we will consider the use of observation data planned for ground validation of the EarhCARE satellite, which is scheduled to be launched in FY2022. We will also use the dual-polarization Doppler weather radar, which is now in operation at the Japan Meteorological Agency. As for the numerical models, we will consider the use and comparison of several models. We particularly focus on the evaluation and improvement of the Non-hydrostatic Icosahedral Atmospheric Model (NICAM), which can be used seamlessly on both global and regional domains, allowing us to quickly test the improved scheme on a global scale, compare it with satellite observations, and estimate climate sensitivity. In addition, this study aims to improve short time forecasts for several hours and beyond by improving the cloud microphysics scheme by using the local model “asuca” of the Japan Meteorological Agency.
著者
佐藤 正樹
出版者
日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.6, pp.1059-1078, 1995-12-01
参考文献数
23
被引用文献数
1

大気の子午面循環を理解するひとつのツールとしての南北-鉛直2次元数値モデルを用いて、ハドレー循環と湿潤対流に伴う大規模運動との関係を調べた。モデルは、湿潤過程を含むプリミティプ方程式系に従い、球面座標系と、一様な回転速度をもつ直角座標系の2種類の座標系を用いる。地表面温度を固定し、大気中を冷却することによって、分解能の範囲内で対流運動が生じる。南北の温度差ΔT_sに対する依存性を調べた。全ての実験で、秩序だったセル状構造を形成することがわかった。ΔT_s=0のときには、対流運動はロスビーの変形半径程度のスケールで組織化し、振動的となる。ΔT_sが大きくなるにつれて、組織化した対流運動は、高温側に進行するようになる。直角座標モデルの実験結果は、球座標モデルの実験で中緯度にあらわれた対称セルのパターンとよく似ている。このような対流セルは赤道に近づくにつれてセル間隔が広くなる。特に赤道における対流セルは、南北対称な場合のハドレーセルに対応すると考えることができる。
著者
佐藤 正樹 覺道 昌樹 田中 順子 田中 昌博
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, pp.11-15, 2018-03-25 (Released:2018-07-01)
参考文献数
17

咬合力を電気的に時系列に計測できる咬合検査装置T­-Scan Ⅲを研究および臨床に応用してきた.習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至る咬合力上昇時間の指標であるオクルージョンタイム(以下,OT とする)は,健常有歯顎者と比較して顎機能障害者で有意に延長することが報告されている.しかし顎機能障害者の中にはOT が比較的短いものがいるなど,その機序には不明な点も多い.そこで本研究では,T­-Scan Ⅲを用いて,健常有歯顎者と顎機能障害者の咬合状態の違いを明らかにすることを目的とした.健常有歯顎者 20 名と顎機能障害者42 名を選択し,T­ScanⅢを用いて習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至るOT を計測した.また,早期接触の検出に有用であるとされているデルタの咬合力を求め,デルタのraw sum 値を咬頭嵌合位における咬合力のraw sum 値で除し,正規化したものを早期接触の指標とした.健常有歯顎者と顎機能障害者のOT の中央値は,それぞれ0.36 秒と0.61 秒で統計学的に有意な差を認めた(p<0.01).咬頭嵌合位の咬合力に対するデルタの咬合力の割合は,顎機能障害者をOT で0.7 秒未満と0.7 秒以上の2 群に分け,健常有歯顎者と合わせて3 群間で比較したところ,3 群間で有意な差を認めた(p<0.01).健常有歯顎者と顎機能障害者(OT≧0.7 秒)間(p<0.01),顎機能障害者(OT<0.7 秒)と顎機能障害者(OT≧0.7 秒)間(p<0.05)に有意な差を認めた.デルタは水平面内での下顎変位が生じる際に検出されると考えられることから,顎機能障害者(OT<0.7 秒)は,水平面内での下顎変位が比較的少なく,回転中心の下顎変位を示すためOT が短く,顎機能障害者(OT≧0.7 秒)は下顎の水平面内での変位を伴う早期接触のため,習慣性咬合位から咬頭嵌合位に至るOT が延長したと考察した.
著者
森下 寛史 中嶋 正博 田中 克弥 覚道 健治 佐藤 正樹 川添 堯彬 杉立 光史 赤根 昌樹
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.227-231, 2005-06-25 (Released:2017-05-18)

われわれは舌縁部の咬傷を主訴に来院した58歳女性の巨舌症に対して舌縮小術を施行し, 術前後における音声機能を比較した.最大舌幅径は術前55mmから術後40mmに減少し, 舌縁部の歯の圧痕も消失した.また発語明瞭度検査および「杉スピーチアナライザー」を用いた音声分析の結果では術前と術後5か月とでは変化がみられず, 手術における機能障害は認められなかった.
著者
菊池 麻紀 沖 理子 久保田 拓志 吉田 真由美 萩原 雄一朗 高橋 千賀子 大野 裕一 西澤 智明 中島 孝 鈴木 健太郎 佐藤 正樹 岡本 創 富田 英一
出版者
一般社団法人 日本リモートセンシング学会
雑誌
日本リモートセンシング学会誌 (ISSN:02897911)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.181-196, 2019-07-20 (Released:2020-01-20)
参考文献数
66

The Earth, Clouds, Aerosols and Radiation Explorer (EarthCARE) mission is a European-Japanese joint satellite mission that aims to provide the global observations necessary to advance our understanding of clouds and aerosols and their radiative effect on the Earth’s climate system. Toward this goal, the EarthCARE satellite loads two active instruments, Cloud Profiling Radar (CPR) and Atmospheric Lidar (ATLID), offering vertical profiles of clouds and aerosols, together with light drizzles, whose properties are extended horizontally using complementary measurement by Multispectral Imager (MSI). The properties thus obtained are then used to estimate outgoing shortwave and longwave radiation at the top of the atmosphere, which is evaluated against measurements taken by the fourth sensor, Broadband Radiometer (BBR). Such a “closure assessment” is used to give feedback to the microphysical property profiles and optimize them, if necessary, to offer consistent three-dimensional datasets of cloud-aerosol-precipitation-radiation fields. EarthCARE’s integrative global observation of clouds, aerosols and radiation with the new measurement capabilities, particularly with Doppler velocity, is expected to not only extend the A-Train measurement toward a longer-term climate record, but also to advance our perspective on the fundamental role that global clouds have within the climate system in the context of their relationships to dynamical processes and their interactions with aerosols and radiation. This review paper provides an overview of the mission, the satellite and its payloads, with a particular focus on the algorithm and products developed in Japan, and areas of scientific study expected to progress.
著者
中島 研吾 佐藤 正樹 古村 孝志 奥田 洋司 岩下 武史 阪口 秀
雑誌
研究報告ハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)
巻号頁・発行日
vol.2011-HPC-130, no.44, pp.1-9, 2011-07-20

ヘテロジニアスなアーキテクチャによる計算ノードを有するポストペタスケールシステムの処理能力を充分に引き出す科学技術アプリケーションの効率的な開発,安定な実行に資する 「自動チューニング機構を有するアプリケーション開発・実行環境:ppOpen-HPC」 を開発する.対象離散化手法を有限要素法,差分法,有限体積法,境界要素法,個別要素法に限定し,各手法の特性に基づきハードウェアに依存しない共通インタフェースを有するアプリケーション開発用ライブラリ群,耐故障機能を含む実行環境を提供する.自動チューニング技術の導入により,様々な環境下における最適化ライブラリ,耐故障機能を持つ最適化アプリケーションの自動生成を目指す.本研究は 2014 年度に東京大学情報基盤センターに導入予定の数十ペタフロップス級システムをターゲットとし,同システム上で実アプリケーションによって検証,改良し,一般に公開する.
著者
佐藤 正樹
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

アンナ・ルイーザ・カルシュ(1722-1792)はシュレージエンの極貧の家庭に生れ、子守と牛追いと女中奉公に明け暮れた少女時代と二度の悲惨な結婚生活を経て(カルシュはシュレージエンで庶民としてはじめて離婚を経験した)詩人となった。この研究は、啓蒙のプログラム--カントによれば、万人に宿る悟性を鍛練して自立した人間になること--のもっとも重要な手段の一つである学校教育を受けず、詩人としての訓練はおろか綴字法や句読法さえ習得しなかった女性が、なにゆえ一冊の書物としては18世紀全体をつうじて最高の売上高を記録した『精選詩集』(1763)を出版し、ドイツ最初の自立した女流作家となりえたか、この疑問に、近代教育制度の初期の女子教育やプロイセン建国途上の社会文化、啓蒙主義とそれにたいするアンチテーゼとして提案された天才讚美、感情・陶酔を重視した時代風潮、それにカルシュ自身の生活史とから答えようとするものである。カルシュが不可欠であるはずの作家修業を経ず、まっとうな教育さえ受けなかったという境涯の不利益を、克服ないし回避するためにとった「戦略」は、彼女が人為的な教育にその天才を損なわれていない「自然児」だという主張であった。天才は神ないし自然の賜物であり、教育はむしろ有害だという。カルシュとその周辺の知識人たちはこの時代の流れに棹さして詩人カルシュを宣伝したのである。他方、フリードリヒ二世はカルシュにとって二重の意味で--一つは結婚生活の軛からの、第二には貧乏生活からの--解放者となった。天才カルシュは自然児であることを利用しただけでなく、プロイセンの愛国詩人となる道を選ぶことによって、みごとに生き抜いたのである。カルシュはドイツ文学・精神史の潮流を利用しつくし、前例のない「出世」をなしとげた庶民の娘だった。そもそも啓蒙のプログラムの対象とはなりえなかったはずの女は早々にこのプログラムに見切りをつけ、天才と感傷と愛国精神とに乗り換えたのである。
著者
佐藤 正樹 中條 渉
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会誌 (ISSN:09135693)
巻号頁・発行日
vol.89, no.9, pp.806-810, 2006-09-01
参考文献数
5
被引用文献数
1

本稿では,静止通信衛星を利用して,被災地のヘリコプター撮影映像等を,災害対策本部に直接伝送する新しいシステムを紹介する.衛星を用いた広域中継により,災害の影響を受けずに撮影映像等を遠隔地まで伝達できる特長があり,災害初動時の情報収集に有効と考えられる.MPEG-4規格での動画データ伝送機能や,被撮影地(被災地)位置を三次元地図を用いて高精度に特定する機能などを示す.
著者
松田 佳久 佐藤 正樹 中村 尚 高橋 正明
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1995

異常気象の力学の問題は複雑であり、様々な側面をもっている。本研究では、この問題を、中高緯度でのロスビー波の振る舞い、熱帯の40日振動、及び熱帯地方と中高緯度の相互作用という観点から捉え、緊密な協力の下にそれぞれの研究を行った。中村らは,東西非一様な基本流中を3次元的に伝播する定常ロスビー波束に伴う活動度フラックスの定式化に初めて成功した.それをブロッキング時に観測された偏差場に適用し,大陸上で冬季形成されるブロッキングが上流側から入射する定常ロスビー波束の「局所的破砕」に伴い増幅する事を確認した.また,等温位面データの解析で,7月にオホーツク海高気圧上空のブロッキングが同様の機構で増幅する事も確認した.松田らはこの解析結果に基づき、東西非一様な基本流中をロスビー波がどのように伝播するかを、数値実験により研究した。計算には、球面上の順圧モデルを用いた。数値実験の結果は、上流側から入射する定常ロスビー波束がジェットの出口付近で停滞し、その振幅が増幅する事を示した。この計算結果は上のデータ解析結果と興味深い対応を示している。高橋らは熱帯の40日振動に関して,年々変動の立場から解析的研究をおこなった.エルニーニョ時の40日振動はノーマルな状態にくらべ,振幅が強化され,また40日にともなうクラスターは熱帯東太平洋まで進むことがわかった.佐藤らは低緯度循環と中緯度循環の相互作用を子午面循環と角運動量輸送の観点から調べた角運動量バランスにより,熱帯の熱源が十分強い時には中緯度の傾圧帯の活動は熱帯の循環に支配される.一方,中緯度から低緯度に及ぼす影響についても,傾圧帯の活動が熱帯の積雲活動に及ぼす効果として現れる.
著者
佐藤 正樹
出版者
早稲田大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2003

「十六世紀フランス語散文物語の文体論的研究」は、フランス語散文物語という当時生まれたばかりのジャンルの形成をマクロな観点から記述することを目標とした。十六世紀前半期の俗語散文物語は大きく二つのグループに分けられる。ひとつは騎士道物語に由来するいわゆる「ロマン」の流れを汲むのもで、もうひとつはボッカチオの『デカメロン』に由来する「ヌーヴェル」の系列である。「ロマン」の特徴は、伏線が絡まりあいながらどこまでも続く延長可能性にあり、作中人物は傑出した性質を帯びているのが普通である。主題的には、まず遠い「過去」の物語であること、作中人物の移動範囲が極めて大きいこと(「遍歴」の主題)、そして目くるめく超自然的な「驚異」が物語を進ませる原動力としてちりばめられていることが挙げられる。一方の「ヌーヴェル」の特徴は、物語が現実世界の断片として描かれるという点にある。したがって、物語に超自然的要素な要素は入り込まない。また、作中人物は傑出した性質を持つものとしては描かれず、出来事が淡々と描かれる。この書き方には年代記の影響があるかもしれない。さて、十六世紀を通じてより多く出版されたのは「ロマン」の流れを汲む作品のほうである。当時の読み手は、奇想天外でいつ果てるともない「ロマン」に、物語の醍醐味を感じていたのであろう。「ヌーヴェル」は、読者層にはそれほど浸透しなかったものの、「ロマン」の道具立ての陳腐化をいち早く感じ取り、俗語表現の可能性を追求しようとする一部の書き手に影響を与えた。「ロマン」と「ヌーヴェル」は、十六世紀にはまったく違うものとして生産・受容されていた可能性が高いが、ラブレーの作品はこの二つを意図的に混淆して作られているように見える。今後の研究では、特異なラブレーの創作プログラムを、「ロマン」と「ヌーヴェル」の緊張関係という観点からより明らかにしていきたい。