著者
諸住 健 小池 文人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
pp.1907, (Released:2021-04-20)
参考文献数
27

自然に接することを求める需要に応えるため様々なツーリズムが発達している。日本では海に接する大都市が多く、海岸の生態系は都市生活者にとって身近な自然となり得る。都市において、現在は市民によるアクセスが制限されている護岸などを適切に開発、開放することができれば都市住民の生活の質の向上が見込まれる。本研究では、東京都市圏の都心から郊外を経て農村に至る景観傾度に沿った海岸で、砂浜海岸や岩場海岸、コンクリート護岸、親水石積み護岸などの様々な海岸生態系に対する市民の利用の状況をルートセンサスによる直接観察で調査し、利用人数に影響する要因を統計的に検出した。調査の結果から、利用者数は魚釣り、遊び(砂遊びや水遊び)、生物採集の順に多く、魚釣りと生物採集の利用者数は全体の 53%と半数を超えることがわかった。このことから、市民による海岸生態系の利用には生態系の直接的な利用と関わりが深い需要が多いことが示唆された。最も利用者の多かった魚釣りは、秋にコンクリート護岸で利用者密度が高く成人男性の利用が多かった。遊びでは、初夏に砂浜海岸で利用者密度が高く、性比に偏りは見られなかったが、他の海岸利用と比較して子どもが多かった。生物採集は、初夏に岩場海岸が利用され、遊びについで女性や子どもの利用も多かった。今回の結果から、未開放のコンクリート護岸に対しては魚釣りの潜在的な需要があることや、親水石積み護岸の造成は垂直護岸よりも生物採集が行いやすいため、都市の子どもに自然と接する機会を提供しうることが示された。今回の結果は、都市の人工護岸を未利用の自然資源として開発する際に目的とする利用タイプと利用者属性を定めた計画策定が可能であることを示唆している。