著者
諸見里 恵一 譜久嶺 忠彦 土肥 直美 埴原 恒彦 西銘 章 米田 穣 石田 肇
出版者
The Anthropological Society of Nippon
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.115, no.1, pp.25-36, 2007
被引用文献数
5 8

17世紀から19世紀の農耕民であると考えられる,久米島近世人骨(男性56個体,女性45個体)の変形性脊椎関節症の評価を行った。変形性脊椎関節症の頻度は,男女ともに腰椎が最も高く,女性においては重度化を認めた。次に変形性脊椎関節症を認めた部位として,女性は頚椎で,男性は胸椎下部と,男女間で異なった傾向を示した。変形性脊椎関節症の部位別頻度では,椎体前縁部が後縁部に比べ顕著に高く,男性の胸腰椎では右側縁部が左側縁部より高い傾向を示した。関節突起に関しては頚椎が最も頻度が高く,胸腰椎では低い傾向を示した。また,男性は頚椎,胸椎上部の一部に,女性では第11および第12胸椎で頻度が高く性差を認めた。主成分分析の結果でも,頚椎および腰椎の変形性関節症の頻度が高く,腰椎では椎体前縁部と左右縁部に,頚椎では椎体後方と椎間関節に関節症の頻度が高い傾向を確認した。久米島近世人骨の女性は,頚椎の椎体後方に変形性関節症の頻度が男性と比較して高いことから,民俗学者らによって示唆されている,頭上運搬による体幹直立位での荷重の影響を受けたと思われる。<br>
著者
蔵元 秀一 譜久嶺 忠彦 久高 将臣 西銘 章 石田 肇
出版者
一般社団法人 日本人類学会
雑誌
Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
巻号頁・発行日
vol.117, no.2, pp.55-63, 2009 (Released:2009-12-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2 2

久米島近世の成人距骨193個体343側,脛骨151個体227側を用い,距骨蹲踞面形状を5型{ストレート型,内側関節面前方延長型,内側蹲踞面型(複合1),内側蹲踞面型+外側滑車面前方延長型(複合2),内側関節面前方延長型+外側滑車面前方延長型(複合3)}に,脛骨は外側蹲踞面有りと無しの2型に分類した。結果,1)男性は女性より,複合2と複合3の出現頻度が高い傾向にあり,複合2の右側で男性の頻度が有意に高い。2)左右差では,女性の複合1で右側の頻度が有意に高い。3)脛骨外側蹲踞面の出現頻度も男性が女性に比べて高い。4)脛骨外側蹲踞面が存在する時は,距骨に外側滑車面前方延長型を伴うことが多い。距骨および脛骨蹲踞面出現頻度から,久米島近世人骨では男性の方が女性よりも蹲踞姿勢を習慣的にとっていると考えられた。距骨蹲踞面形成を運動学的に解釈すると,内側蹲踞面は足関節が伸展(以下,背屈)することにより,距骨内側部と脛骨下端部に靭帯や関節包などの軟部組織がはさまれて形成される。足関節がさらに背屈すると,距骨外側滑車面前方部と脛骨下端前縁部外側が衝突し,距骨の外側蹲踞面が形成されると思われる。本土の縄文時代,江戸時代および近代人骨よりも,距骨蹲踞面と脛骨外側蹲踞面の出現頻度が低いことから,久米島近世人骨においては習慣的な蹲踞姿勢が少なかった可能性を示した。