- 著者
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百々 幸雄
川久保 善智
澤田 純明
石田 肇
- 出版者
- 一般社団法人 日本人類学会
- 雑誌
- Anthropological Science (Japanese Series) (ISSN:13443992)
- 巻号頁・発行日
- vol.121, no.1, pp.1-17, 2013 (Released:2013-06-21)
- 参考文献数
- 75
- 被引用文献数
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頭蓋形態小変異9項目を指標にして,北海道集団(縄文/続縄文人・アイヌ・オホーツク人)とサハリンアイヌ・アムール川下流域集団・バイカル新石器時代人といった北東アジア集団との親疎関係を求め,それにもとづいてアイヌの成立史を論じた。頭蓋形態小変異にもとづいた各集団の親疎関係の当否は,18項目の頭蓋計測値による分析からも確かめてみた。頭蓋形態小変異による分析でも,その結果を確認するために行った頭蓋計測値による分析でも,比較6集団のなかで,北海道縄文・続縄文人に最も近い距離にあるのは北海道アイヌで,北海道縄文・続縄文人が近世北海道アイヌの母体になった集団であるという従来の言説を追認した。頭蓋形態小変異にもとづく距離分析では,比較6集団のなかで,北海道アイヌに最も近いのはオホーツク人で,頭蓋計測値による判別分析でも,オホーツク人の約3割が北海道アイヌに判別された。これらの所見から,北海道アイヌの祖先集団とオホーツク人は,これまで想定されていた以上に,活発な文化的・遺伝的交流を行っていたのではないか,という問題提起をした。オホーツク人の頭蓋形態小変異のほとんどは,その出現頻度が,北海道縄文・続縄文人とバイカル新石器時代人のほぼ中間に位置するので,オホーツク人の原郷をサハリン北部やアムール川下流域集団に求めるにしても,その成立にあたっては,北海道続縄文人も何ほどかの遺伝的な貢献をしていた可能性を指摘した。頭蓋形態小変異を用いた分析では,サハリンアイヌとオホーツク人との距離はきわめて近く,さらに,北海道アイヌとの比較では,サハリンアイヌはアムール・ニブフ集団により近くなった。ほぼ同様の結果が頭蓋計測値の分析からも得られた。これらのことから,北海道からサハリンに渡った終末期の擦文人,あるいは最初期の北海道アイヌが,サハリンに生きながらえていたオホーツク人を同化・吸収し,13世紀にはサハリンアイヌの祖先集団となり,その後,ニブフをはじめ,アムール川下流域集団との混血を繰り返し,近世サハリンアイヌが形成されたと推測した。