- 著者
-
谷 綺音
- 出版者
- 地理科学学会
- 雑誌
- 地理科学 (ISSN:02864886)
- 巻号頁・発行日
- vol.74, no.2, pp.49-69, 2019-07-28 (Released:2020-03-30)
- 参考文献数
- 17
- 被引用文献数
-
4
水族館や動物園などの生物を展示する施設においては,海外を中心に政治的な圧力によって研究教育施設としての存在意義を強調する流れがある一方で,日本国内では観光集客施設・教育研究施設であるという2つの意識がある。こうした異なる立場からの圧力の狭間において水族館や動物園での自然表象は構築されている。これらを踏まえて,本研究では「自然の社会的構成」と博物館のメディア研究を基に,水族館が「海」をどう表現しているのかを瀬戸内海地域に存在する神戸市立須磨海浜水族園,宮島水族館,下関市立しものせき水族館海響館を事例として論じる。調査方法として,主に水族館の展示水槽に掲示されている解説板に記載されている解説文の内容に着目した。解説文の内容に関していくつかの項目に分類し,何が伝えられているのか,また何が伝えられていないのかに注目しつつ分析を行った。加えて,解説文の分析と並行して調査対象施設の職員に対して聞き取りも行った。調査の結果,海の自然の希少性や生物多様性,豊かさなどの守るべきかけがえのない自然の側面などを強調していること,生物を中心として展示・解説がなされており,環境問題や人々の生活文化などの人と自然とのつながりはあまり発信されていないことが明らかとなった。