著者
大井 崇生 笹川 正樹 谷口 光隆 三宅 博
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.82, no.4, pp.378-385, 2013
被引用文献数
3

ローズグラスは体内に取り込んだ塩類を排出する塩腺を有し,耐塩性が高いことが知られるイネ科牧草である.本研究では,津波被災農地の土壌を用いてローズグラスの耐塩性および塩排出能力を検討した.福島県いわき市において,2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴う津波被災のなかった地点,あった地点の農地より土壌を採取して実験に用いた.採取地のうち四倉町の津波あり地点では,土壌EC値および土壌中交換性Na<sup>+</sup>量がともに高い値を示した.この土壌を用いてローズグラスおよびイネを人工気象室内で21日間生育させた.両作物ともに津波あり地点の土壌において生育阻害が現れたが,ローズグラスでは地上部乾物重の減少率はイネよりも小さく,また可視障害も少なく,さらに長期間の生育が可能と考えられた.葉身内のイオン含有量を測定すると,ローズグラスでは津波の有無に関わらず高いNa<sup>+</sup>含有量を示した.加えて津波あり地点の土壌において,ローズグラスでは葉身や葉鞘の表面に水滴または結晶状の排出物が観察された.1週間あたりの葉身からのイオン排出量を測定すると,葉身の含有量の4倍のNa<sup>+</sup>が排出されることが確認された.また,生育後の土壌中交換性Na<sup>+</sup>の減少量はイネよりもローズグラスの方が大きい傾向があった.以上より,ローズグラスは津波被災農地における転作利用や除塩に役立つ可能性が示唆された.
著者
大井 崇生 山根 浩二 谷口 光隆
出版者
日本植物形態学会
雑誌
PLANT MORPHOLOGY (ISSN:09189726)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.19-25, 2020 (Released:2021-03-29)
参考文献数
26

試料を薄切片にして透過観察すると,組織や細胞の内部構造を平面像として捉えられる.二次元の平面像の解釈は研究者の知識や経験に基づく想像力に補われて三次元の全体像が理解されてきたが,複雑に入り組んだ構造や,切断方向によって異なる断面像を示す構造を精確に把握することは困難であった.しかし,試料を何十,何百枚という連続切片にして一枚ずつ撮影し,それらを画像解析ソフト上で順々に積み上げる三次元再構築法を用いることで,細胞やオルガネラを立体的に捉えることが可能となる.本稿では,走査型電子顕微鏡(SEM)に集束イオンビーム加工装置(FIB)を内蔵した装置内において切削と観察を繰り返すことで精確に連続切片像を取得できるFIB-SEMを用いた三次元解析について,イネ(Oryza sativa L.)葉身の葉肉細胞の解析例を紹介する.細胞の端から端までを超薄切して三次元再構築することで,イネの葉肉細胞のような複雑に入り組んだ細胞の外形や,その内部の葉緑体などのオルガネラの構造を立体的に捉えることが可能となることに加え,二次元の断面像からは精確な推定が難しかった体積や表面積の定量も可能となる.対象の一部分のみを見る断面観察だけではなく,全体を包括的に捉える三次元解析を行う意義についても議論したい.