著者
渡邊 和洋 中園 江 中村 大輔 西谷 友寛 西村 奈月 松島 弘明 谷尾 昌彦 江原 宏
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.373-384, 2016-10-05 (Released:2016-10-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1 9

コムギの多収栽培技術の開発を目的に,耐倒伏性品種「さとのそら」を供試し,慣行の基肥重点型の施肥体系に対して,基肥を減らし追肥で窒素を増施用する生育後期重点施肥の効果を2カ年にわたって検証した.その結果,生育後期重点施肥により,茎立期以降の乾物成長量の大きくなる時期にLAIが高まったこと,登熟期後半まで葉色,NARが高く維持されたことでCGRが高く経過し,成熟期の総乾物重が大きくなった.一方で,茎立期の茎数が少なくなったことに加えて,この時期に窒素を増肥したことで,茎間の同化産物および窒素の競合が緩和され,茎の生存率が高まり,穂数が増加するとともに,シンク容量の大きな穂が形成されて1穂粒数も増加したものと考えられた.さらに登熟期後半までNARが高く維持されたことで1000粒重も増加した.以上の乾物成長経過および収量構成要素の形成の結果,生育後期重点施肥により,収量を15~50%増加させることが可能であった.一方で,成熟期が遅れること,外観品質の低下や子実タンパクの過剰,土壌の酸性化の助長などの普及技術化に向けて改善すべき課題も明らかとなった.