著者
谷木 信仁
出版者
慶應義塾大学
雑誌
若手研究
巻号頁・発行日
2018-04-01

肝疾患における治療介入の標的として腸肝臓軸が注目されている。本研究では、腸炎と肝炎のタンデムモデルを用いて、腸管粘膜バリア破綻状態では、続発する肝炎に対してIL-10産生マクロファージによる免疫寛容が誘導されることを示した。この免疫寛容は腸管除菌により消失することから、腸内細菌叢とその代謝産物がこのプロセスに必要であることが示唆された。免疫寛容を誘導する代謝産物の候補として1-methylnicotinamide(1-MNA)を同定し、1-MNAによる肝炎抑制効果も腸管除菌により消失することを示した。本研究の成果から、腸肝臓軸を介した肝臓免疫応答のバランス調節機構に関して新たな知見が得られた。
著者
堀江 義則 菊池 真大 海老沼 浩利 志波 俊輔 谷木 信仁 褚 柏松 中本 伸宏 金井 隆典
出版者
一般社団法人 日本肝臓学会
雑誌
肝臓 (ISSN:04514203)
巻号頁・発行日
vol.57, no.10, pp.538-547, 2016-10-20 (Released:2016-11-04)
参考文献数
28
被引用文献数
2 2

本邦のアルコール総消費量は近年大きな変化はなく,欧米と同等の高い水準で推移している.今回,肝細胞癌(HCC)発症における飲酒の影響について検討した.全国の1496施設に対し,2014年度に診断・治療されたHCC患者についてアンケート調査を行った.7047例のHCC患者の成因は,HBV 13.9%,HCV 54.7%,HBV+HCV 3.6%,アルコール単独によるもの(ALD-HCC)13.9%,非アルコール性脂肪性肝疾患関連4.6%,その他9.5%で,2009年度と比較してALD-HCCの割合が増加傾向にあった.背景因子が確認された333例の初回診断ALD-HCCでは,平均年齢は69.8歳,男性が94%,糖尿病有病率50%,肝硬変合併率85%であった.AFP低値例が多く,66歳以上で肝硬変がない例とChild-PughスコアAの割合が多かった.肝予備能が保たれたまま長期に飲酒し,高齢になって肝発癌が増えたことが予測される.ALD-HCCへの対策としては早期介入による飲酒量の低減が根本的な課題ではあるが,画像診断等により早期にHCCを診断し,治療に結び付けることも今後の課題である.