著者
赤岩 友紀 林 芙美 坂口 景子 武見 ゆかり
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.3-16, 2022-01-15 (Released:2022-01-28)
参考文献数
32
被引用文献数
2

目的 新型コロナウイルス感染症(以下,コロナ)流行下における世帯収入の変化の有無別に,コロナ前から緊急事態宣言期間中にかけての食行動の変化,緊急事態宣言期間中の食物へのアクセスの課題および食情報のニーズとの関連を明らかにすることを目的とした。方法 2020年7月1~3日,13の特定警戒都道府県在住20~69歳男女を対象に,無記名のWeb調査を実施した。目標回答者数を2,000人とし,2020年2月より前(以下,コロナ前)から2020年4~5月の緊急事態宣言期間中にかけての食行動の変化と,緊急事態宣言期間中の食物へのアクセスの課題,食情報のニーズを尋ねた。有効回答者2,299人のうち,学生を除いた2,225人を解析対象とした。コロナによる世帯収入の変化別に3群(減少,変化なし,増加)に分け,対象者特性,食行動の変化等についてクロス集計を行った。また,世帯収入の変化を独立変数,食行動の変化,食物へのアクセスの課題,食情報のニーズを従属変数とし,属性を調整した多重ロジスティック回帰分析を行い,減少群の特徴を把握した。さらに,世帯収入の変化にコロナ前の経済的な暮らし向きを加えた6群に分けて,変化なし群/ゆとりありを参照群として同様に解析を行った。結果 減少群は34.6%,変化なし群は63.9%,増加群は1.6%であった。減少群はパート・アルバイト,自営業の者が多く,緊急事態宣言期間中に休職していた者が多かった。属性を調整後,減少群は変化なし群に比べて,外食頻度は「減った」,調理頻度,中食頻度,子どもとの共食頻度は「増えた」オッズ比が有意に高かった。コロナ前の経済的な暮らし向きにかかわらず,減少群の全てで,欠品による入手制限,価格が高いことによる入手制限,店内混雑による買い物の不自由が「よくあった」オッズ比が変化なし群/ゆとりありに比べ有意に高かった。また,減少群/ゆとりなしは変化なし群/ゆとりありに比べ,食費の節約方法等を必要としていた。結論 コロナ禍で世帯収入が減少した者は,緊急事態宣言期間中に食物へのアクセスに課題を感じていた者が多く,食情報ではとくに食費の節約方法のニーズが高かった。また,減少群は変化なし群に比べて外食頻度が減少した一方で,調理頻度,中食頻度の増加がみられた。こうした食行動の変化により,食物摂取状況が望ましい方向と望ましくない方向のどちらに変化したか,さらなる検討が必要である。
著者
林 芙美 武見 ゆかり 赤岩 友紀 石川 ひろの 福田 吉治
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.68, no.9, pp.618-630, 2021-09-15 (Released:2021-09-07)
参考文献数
42

目的 本研究の目的は,食生活関心度を評価する尺度の作成および信頼性・妥当性の検討と,新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響下において人々の食生活を左右し得る心理的な側面の変化とその関連要因を明らかにすることである。方法 2020年7月1~3日,調査会社を通じてインターネット調査を実施した。調査対象者は,同年4~5月の緊急事態宣言期間中に特定警戒都道府県に指定された13都道府県に在住し,調査時に普段の食料品の購入頻度または調理頻度が週2日以上の20~69歳の男女約2,000人とした。最終的に2,299人を解析対象者とした。食生活関心度は12項目にて把握し,信頼性の検討では内的整合性としてクロンバックα係数を確認し,妥当性の検討では構成概念妥当性と基準関連妥当性を確認した。基準関連妥当性の検討には行動変容ステージを用い,Kruskal-Wallis検定を用いて得点を比較した。COVID-19の影響を受ける前と調査時を比べた食生活関心度の変化は,12項目について「変化なし」0点,「改善」+1点,「悪化」−1点で合計得点を算出し,「変化なし」「改善傾向」「悪化傾向」の3群間で属性および社会経済的状況をχ2検定および残差分析を用いて比較した。結果 探索的因子分析,確証的因子分析を行った結果,2因子から成るモデルで適合度が良いことが示された(モデル適合度指標:GFI=0.958,AGFI=0.938,CFI=0.931,RMSEA=0.066)。クロンバックα係数は,第1因子(食生活の重要度)0.838,第2因子(食生活の優先度)0.734であり,尺度全体でも0.828で信頼性が確認された。また,基準関連妥当性の検討では,行動変容ステージが高いほど尺度の合計得点は高く有意差が認められた(P<0.001)。食生活関心度の変化は,重要度に比べ優先度が悪化した者が多かった。食生活の重要度・優先度ともに,性別,年齢層,婚姻状況,就業形態,過去1年間の世帯収入,コロナの影響による世帯収入の変化に有意差がみられ,男性,20~29歳,未婚,正社員,過去1年間の世帯収入400~600万円未満で「悪化傾向」が有意に多かった。結論 COVID-19影響下では,食生活の重要度に比べ優先度が悪化した者が多く,男性や若年層,未婚者などは食生活関心度が悪化する者が多かった。