- 著者
-
辻 和洋
中原 淳
- 出版者
- 一般社団法人 社会情報学会
- 雑誌
- 社会情報学 (ISSN:21872775)
- 巻号頁・発行日
- vol.7, no.1, pp.37-54, 2018-12-12 (Released:2019-02-02)
- 参考文献数
- 37
本研究は2001年に新聞協会賞を受賞した高知新聞社「高知県庁闇融資問題報道」を事例に,調査報道のニュース生産過程を明らかにした事例研究である。取材のきっかけとなる情報をつかむ基礎的調査の段階から,発展的調査の段階を経て,第一報の記事化の準備の段階までを,記者のインタビュー調査によって明らかにした。とりわけ,日本のマスメディアが持つ構造的な問題の一つとして指摘されている編集権の問題に着目し,編集権を持つ編集幹部が,ニュース生産過程において記者にどのような影響を及ぼすのかを考察した。研究の結果,記者が編集権を持つ幹部の介入を危惧して,情報管理を徹底し,取材対象者を慎重に選択したり,社内でも情報共有を行わなかったりするような行動が見られた。また,編集幹部が報道リスクを考え,記者に対して条件を提示,報道の先送り,代替案の提示といった介入を行ったことが明らかになった。それに対し,記者は報道することを強く促す上申,条件に対応,組織外の影響力の活用といった対応策を講じていた。本研究では,地方紙の単一事例の検証かつ記者のみのインタビュー調査にとどまるものの,石川 (2003) や花田 (2013) が指摘するように,編集権が,記者の行うニュース生産過程に影響を及ぼしうる可能性があることが示唆された。代表性に課題があり,編集権の影響が事例固有のものであるかどうかは検証の余地が残されている。しかし,本研究により調査報道の質的・量的向上をもたらす上で,調査報道のニュース生産過程における記者の取材行為だけでなく,組織内における記者と編集者の相互行為にも着目する重要性が示された。