著者
辻井 直幸 大西 雅博
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Naragakuen University
巻号頁・発行日
no.11, pp.113-123, 2019-09-30

私が教師として務めさせて頂き、携わってきた音楽教育は、わが国の学校教育法の目標のもと学習指導要領が示され、その目標を達成すべく30有余年が過ぎた。その間に、私が体験した、学習指導要領の変更は大きく3回(平成4年の改訂も含めると4回)行われたことになる。まず平成10年に告示された、いわゆる「ゆとり教育」なるもので、平成14年から実施された。平成15年には一部改正が行われ指導が進められた。そして、平成17年に「教育課程の基準全体の見直し」等について文科大臣から要請があり、中央教育審議会が審議を開始した。2回目は平成18年に教育基本法の改正があり、平成19年に学校教育法の一部改正がおこなわれた。そして平成20年に「脱ゆとり教育」として「生きる力」を育む理念とともに答申が発表され、現行の指導に至っている。さらに、今回3回目にあたるのが、平成29年に中央教育審議会の答申を踏まえ、中学校学習指導要領の改訂が示され、平成30年から移行措置として先行実施されることになった。この改訂は令和3年を目指し完全実施される予定である。このように教育の土台となる学習指導要領は、約10年ごとに見直され、時代に合わせて編成し直されていることになる。実際、私が携わっている音楽教育においても、たとえば「鑑賞」の領域について見てみると、30年前は単に幅広く曲を聴かせて感想を書かせるようなものが多かった。それが「主体的・能動的」に鑑賞できる活動が提案され、「音楽文化の理解を深め、音楽を尊重する態度」の育成に努めるよう変わってきた。さらに、「曲想と音楽の構造の関わり」を理解し、その背景にある「文化」や「歴史」を知ることも含め「根拠」をもって他者に音楽の良さや美しさを伝え説明できる能力を培うことを義務付けられている。また、今回の改訂では、「生活や社会における音楽の意味や役割」「音楽表現の共通性や固有性」といったものについても考えるように示されている。ただ、この能力は、ほとんど専門家の領域に近く、学問としては音楽美学で扱うようなテーマだ。一般のしかも中学生が持てる能力としてはかなり高度なものと言える。現在、悪戦苦闘しながら日々、授業を行ってはいるが、なかなか文科省の狙う能力にはまだまだ遠い気がしてならない。しかし、その能力を伸ばすべく音楽教育が本当に楽しく有意義に展開されるなら、その活動の過程にこそ必ず「本物の音楽」に触れることができるものと信じている。そのことを期待して、この改訂をきっかけにさらに研究を深めていきたいと考えている。
著者
辻井 直幸 大西 雅博
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.99-108, 2019-03

優れた技能を持っているにも関わらず、本番当日の緊張に耐え切れず、本来の実力を発揮できない生徒をよく見かける。それは、音楽に限ったことではなく、人前で「あがる」ことは、大なり小なり誰でも経験しているものではある。しかし、音楽を仕事としようと思っている者にとっては死活問題にもなりかねない大きな問題である。音楽を教える立場である筆者は、生徒の能力を伸ばし、発揮させるためにも、この問題に長年、頭を悩ませてきた。もし、多くの者が「あがり」を克服し、本来あるべきはずの力が出せるようになれば、将来の音楽、芸術、文化の普及発展に、大いに役立つだろうと考える。