著者
伊達 桃子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.101-111, 2016-09

人形に命を仮託する物語、いわゆる人形ファンタジーの中には、人形怪談と呼ばれる恐怖を喚起する物語群がある。それらを分類し、死者が取り憑く人形、未来を改変する人形、人間と入れ替わる人形の3つの類型を見出す。さらに、おのおのの類型において、恐怖を生み出す源泉を探り、主人公の内面的問題が恐怖と密接に結びついていることを明らかにする。ある種の物語では、内面的問題そのものが人形の姿を取って立ち現れ、恐怖を克服することが、問題の解決または認識につながっている。さらに、恐怖が子どもや思春期の主人公および読者にもたらす効用について考察し、自我の確立と力の制御、異なる視座の獲得、他者への共感と歴史理解という3つの効用があることを主張する。
著者
オチャンテ 村井 ロサ メルセデス
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.27-35, 2016-09

外国のルーツを持つ子どもたち、いわゆる移民の第二世代が日本の公立の小・中学校に通い、その数が年々増える傾向にある。乳幼児で来日している場合や、日本生まれの子ども達が多いが、各家庭では、親の話している言語や文化の下で育っていくため、日本の公立学校に通うことになると適応の問題や言葉の問題が現れる。公立学校に通い、問題なく学校生活を送り、高校や大学へと進学しているケースが徐々に増えているが、未だに学校においてなんらかの困難を体験している者は少なくない。本稿ではそうしたケースを考察しながら、不登校や、不適応に繋がる要因を調べ、その原因を分析する。また他の研究で関わった成功の事例と照らし合わせ、生徒指導の課題について考える。
著者
上山 千恵子 田場 真理 守本 とも子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.67-79, 2016-09

本研究の目的は、認知症高齢者の娘介護者が体験する困難と、娘介護者にとって介護生活の支えとなっているものについて明らかにすることである。認知症高齢者である親の介護経験を有する娘介護者15名を対象に半構成的面接調査を行った。得られたデータは逐語録に起こした後、その中にあるテーマを記述し、共通するテーマを持つ者同士をグループ化した。その結果、娘介護者が体験する困難として≪親の現状を受け止める難しさ≫≪役割の両立から生じる困難≫≪自分がやらなければ≫≪介護協力者との間に生じるずれ≫≪認知症の症状そのものへの対応の大変さ≫≪将来への不安≫≪娘であるがゆえに生じる理不尽さ≫の7カテゴリーが、介護生活を続ける中で支えになるものとして≪変わってゆく親を共有できる存在≫≪介護を分担してくれる家族≫≪距離をおく時間≫≪介護効果の実感≫の4つのカテゴリーが見いだされた。娘介護者は、以前に介護の経験があったり認知症の知識を十分持っていたとしても、変わりゆく≪親の現状を受け止める難しさ≫を経験し苦しんでいた。そのような中で、親の現状を受け入れていくプロセスに、元気なころの親も、今現在の親の姿も共有できるきょうだいや、以前から知ってくれている医療機関が≪変わってゆく親を共有できる存在≫として大きな支えとなることが分かった。また、本研究結果からは、多くの役割を担い、その両立を迫られる立場にあって困難を感じている娘介護者の状況が明らかになった。このような娘の立場を理解した上での支援が重要であると考えた。
著者
荻布 優子 川﨑 聡大
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.33-47, 2019-09

本研究の目的は、児童期におけるRey-Osterrieth Complex Figure Test(ROCFT)と書字正確性との関係を探索的に広く検討することである。対象は公立小学校の通常学級に在籍する1~6年生404名とした。書字正確性の指標には小学生の読み書きスクリーニング検査(STRAW)を採用した。その結果、ROCFTとSTRAWは相関関係にあり、視覚情報処理過程と書字正確性の間には一定の関与が示唆された。ROCFT成績からSTRAWで測られる書字正確性を十分に予測することは難しかったが、3年生および5年生ではROCFTの低下の有無が書字正確性の低下に関与することが明らかとなった。これはSTRAWの課題特性が結果に反映されたことも一因であると考えられた。本研究の結果は、発達性読み書き障害の指導や背景要因を探る事例報告による知見を支持するものである。ただしROCFTの低下は書字低下の絶対条件ではなく、同様に書字正確性の低下した児童が必ずしもROCFTにも低下を認めるとも限らない。書字正確性の指標の信頼性および妥当性の検証が必要であり、そのうえでの発達心理学的観点から書字正確性と視覚情報処理過程の検討が必要であると考えらえた。
著者
伊達 桃子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.175-185, 2018-10

19世紀後半から20世紀初頭に書かれた英米少女小説の中で、少女と人形が関わるものを取り上げ、当時の社会が少女に期待する役割がそこに表れていることを明らかにする。さらに、実際の少女と人形の関係がその役割を逸脱していたことを示す。人形ファンタジーが、直接的また間接的に少女の役割を示す機能を果たしていることを論証し、時代によるその役割の変化を辿る。
著者
中島 栄之介 森 一弘
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.119-126, 2018-10

特別支援学校において感染性胃腸炎の集団発生を経験した。感染性胃腸炎の集団発生から終息までの欠席・学級閉鎖の状況、対応策等の記録を分析し、感染ルート、感染拡大の原因、対応策等について検討した。感染源をトイレと推定したが、感染経路の特定できない広がりも見受けられた。学校医の助言を受け消毒等を行った。しかし、一般的対応だけでは著効なく、全クラスが時期をずらして学級閉鎖となるほど感染が拡大した他、保護者への感染も確認された。その後、約2週間で新規の感染者は確認できなくなり約3週間で終息した。感染拡大の背景として、感染力の強さに加え、施設設備、児童生徒数の増大による過密化、種々の集団の形成など特別支援学校特有の要因が示唆された。また、保護者への情報提供は感染拡大にも有効であったと考えられた。
著者
鈴木 伸也 矢野 正
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.39-50, 2020-03

近年、子どもの体がかたい・バランスが悪いなど、運動機能が低下した状態を「運動機能不全」または「子どもロコモ」と呼ばれている。今回は、前回に引き続き「子どもロコモの予防に関する教育実践研究(Ⅰ): 小学5年生1年間の実践を振り返って」の研究を継続し、報告するものである。本研究の目標として、「①C小学校は、けがの発生件数が非常に多い。そのため、ロコモティブシンドロームを予防する体操(以下、ロコモ予防体操)を通してけがをしにくい身体にする。②けが予防についての関心をもち、けがが少なくなったと実感し、ロコモ予防体操に進んで取り組もうとする。③身体を動かす楽しさ、気持ち良さを知り、自ら運動に親しもうとする。」という3つを設定した。今回も、A県B市の公立C小学校第4学年33名(男子19名、女子14名)に対し、1年間にわたり、「朝の会」と「体育の授業時」にロコモ予防体操を実践した。また、この学年は1年生時から毎日宿題として、家庭でもロコモ予防体操を実践している。2018年4月~2018年12月に行った教育実践では、クラス別けが人数は6件と、他のクラスと比べても顕著に少ない結果となった。これは、学校全体で通しても一番少ない結果であった。また、教育実践(Ⅰ)との比較では、学年が違うことも考慮する必要があるが、4年間継続してロコモ予防体操を行っている4年生の方が、顕著にけがの発生件数が少ないことが明らかとなった。2015年4月~2019年3月(4年間の短期縦断コホート研究)に行った教育実践では、クラス別けが人数は他クラスと比べると圧倒的に少ないことが明らかとなった。これにより、毎日家庭で行っているロコモ体操に加え、学校での実践を組み合わせることによって、けがの発生頻度がより減ったものと推察される。さらに、ロコモ体操の実践の効果以外にも、普段から児童にヒヤリハットなどについての声かけ指導を行った。また、週明けや連休明けの過ごし方や雨の日の過ごし方などを丁寧に説明し、周りの環境に左右されずに落ち着いた学校生活を送ることができるよう、子どもたちに意識づけを促すことも、ロコモ予防に関しての手段の一つと考えられる。
著者
辻井 直幸 大西 雅博
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.99-108, 2019-03

優れた技能を持っているにも関わらず、本番当日の緊張に耐え切れず、本来の実力を発揮できない生徒をよく見かける。それは、音楽に限ったことではなく、人前で「あがる」ことは、大なり小なり誰でも経験しているものではある。しかし、音楽を仕事としようと思っている者にとっては死活問題にもなりかねない大きな問題である。音楽を教える立場である筆者は、生徒の能力を伸ばし、発揮させるためにも、この問題に長年、頭を悩ませてきた。もし、多くの者が「あがり」を克服し、本来あるべきはずの力が出せるようになれば、将来の音楽、芸術、文化の普及発展に、大いに役立つだろうと考える。
著者
高橋 寿奈 瀬山 由美子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.121-126, 2017-09

現在の「ゆとり世代」と一般的にいわれる教育を受けた年代の看護学生は、核家族化、IT化がすすんだ社会の中で育ち、異世代や実際の対面式の交流が少ない世代であるといえる。この「ゆとり世代」としての教育を受けてきた看護学生に、臨地実習での受け持ち患者とのコミュニケーション時に「コミュニケーションをとる時に気をつけていたこと」と、「コミュニケーション中に受け持ち患者が不快だと感じていると看護学生自身が感じたこと」の調査を行った。その結果、その世代に特徴的な自己評価の高さと自己肯定感の低さが示された。これより、看護学生のコミュニケーションにおける受け持ち患者と関わりについて、「ゆとり世代」の学生の特徴に合わせ、個々の経験が増えるように「実践」する機会を増やしながら自信をもたせる指導方法を検討していく必要がある。また、異世代との交流の機会を「実践の場」として増やせるようにすることも必要であり、それらを課題とした。
著者
池田 俊明 杵崎 のり子
出版者
奈良学園大学
雑誌
奈良学園大学紀要 = Bulletin of Nara Gakuen University (ISSN:2188918X)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-12, 2016-09

我が国においては、以前より、児童生徒の学習意欲および自己評価の低迷が指摘され、いわゆる「やる気のなさ」が問題視されている。しかし、筆者が複数の小学校で行った児童からの聞き取り結果を、古典的動機づけ理論および近年の無意識研究の成果に照らして鑑みると、彼らの状況は「やる気はある、しかし取り組めない」と評価する方が妥当であると考えられる。そこで、無意識主の行動決定モデルのもと、意識、無意識両方に働きかけ、児童らが既に持っている学習意欲を抑え込まれた状態から解放し、行動へと繋がりやすくすることを目的に、学習ゲーム体験を軸とした一連のワークショップをデザインし、これを「やる気解放指向アプローチ」と名付けた。このアプローチを児童(小学4、5年生140人)に試みた結果、アンケートにおいて82.9%の児童に勉強観・自己評価の前向きな変化が見られ、48.6%の児童が、以前よりも勉強を頑張れるようになったと回答した。これらの結果は、やる気解放指向アプローチの有効性、およびその実施のためのツールとしての学習ゲームの有用性を示唆している。