著者
近藤 勇太 建内 宏重 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1368, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】大腰筋は股関節及び腰椎の運動や安定化に働く筋であり,アスリートや股関節・腰椎の疾患をもつ患者においてその機能改善は重要である。臨床においては,大腰筋は座位での股関節屈曲など股関節の運動でトレーニングを行うことが多いが,大腰筋は腰椎の運動でも活動するため,股関節に障害を有し,股関節運動が困難な患者において,体幹運動を利用することで大腰筋の機能改善を図れる可能性がある。しかし,大腰筋は身体の深部に位置し,針筋電図など侵襲的な方法による調査が必要であるため報告が少なく,股関節運動と体幹運動とでそれぞれどの程度の筋張力発揮があるか明確ではない。そこで本研究では,筋の弾性率と筋張力が比例するという先行研究に基づき,非侵襲的に生体組織の弾性率を測定できるせん断波エラストグラフィー機能を用いて,大腰筋の弾性率を測定することで,股関節屈曲時と体幹運動時での大腰筋の筋張力の比較を行い,体幹運動で大腰筋がどの程度活動するのかを明らかにすることを目的とした。【方法】対象は下肢・腰部に整形外科的疾患を有さない健常男性19名(年齢22.1±1.5歳)とし,右側の大腰筋を測定した。課題は座位での股関節屈曲の等尺性収縮運動と座位保持とした。座位姿勢は足底に厚さ1cmの板を敷いた状態で股関節屈曲角度が45°になるよう座面の高さを設定し,下腿と体幹は床面に対し鉛直となるようにした。骨盤の側方傾斜・後傾を防ぐため,バンドを用いて骨盤を固定した。上肢は腕を胸の前で組んだ姿勢とした。測定前に最大股屈曲筋力を2回測り,その平均値を最大筋力とした。測定課題は,股屈曲運動として,上記の座位で板を外し,足底を床からわずかに離した状態(股屈曲45°位)での保持(股屈曲)と,その肢位で股屈曲最大筋力の10%の負荷での等尺性収縮運動(10%屈曲)を行った。なお,我々の先行研究により,最大筋力の10%負荷までは筋張力と弾性率との線形関係が確認されている。加えて,針筋電図で活動が確認されている体幹の前屈,後屈,側屈の体幹運動を測定した。体幹運動は,座位で腋窩下にバンドを巻き,後・前・左の3方向から,測定者が被験者の体重の10%の負荷をかけ引き,それに対して座位を保持させた。測定は,股屈曲運動と体幹運動の計5種類(全て股屈曲45°位)とした。負荷量については,力センサ(Kistler社製)を股関節屈曲時には膝蓋骨近位5cm,体幹運動時には腋窩下で接続し,リアルタイムで可視化し確認しながら測定を行った。大腰筋の弾性率(kPa)の測定には,超音波診断装置(SuperSonic Imagine社製Aixplorer)のせん断波エラストグラフィー機能を用いた。測定部位は鼠径靭帯の遠位部とし,超音波画像が安定してから記録した。疲労を考慮して,各課題の測定順は無作為とし,各3回ずつ測定を行った。超音波画像での弾性率の測定は,大腰筋内に関心領域を2か所設定し,各領域の弾性率の平均値を求め,さらに3試行を平均した数値を解析に用いた。各条件間の比較を対応のあるt検定およびShaffer法による補正を用いて行った。有意水準は5%とした。【結果】大腰筋の弾性率は,股屈曲で13.7±2.5kPa,10%屈曲で15.0±3.3kPaとなり,前屈で15.6±3.4kPa,後屈で14.7±3.1kPa,側屈で16.5±3.7kPaとなった。解析の結果,股屈曲に対して10%屈曲(p=0.03),側屈(p=0.04)で有意に高値となった。しかし,体幹運動の条件間および10%屈曲と体幹運動の間では有意差を認めなかった。【考察】本研究の結果,股屈曲角度45°位において,体重の10%の負荷に対して右側屈方向に力を発揮して座位を保持する運動が,負荷を加えない股屈曲運動よりも大腰筋の筋張力を増加させ,またそれは最大筋力の10%の負荷での股屈曲運動と同程度であることが判明した。本研究結果は,股関節での運動が困難な患者で大腰筋の筋張力を得たい場合や,大腰筋以外の股屈筋をできるだけ働かせずに大腰筋の選択的なトレーニングを行うために体幹運動を実施する場合などに,有用な知見であると思われる。【理学療法学研究としての意義】本研究は,股関節屈曲と体幹運動時の大腰筋の筋張力の比較を非侵襲的方法により行った初めての報告であり,大腰筋の評価・トレーニングにおいて重要な知見を提供するとともに,臨床応用への可能性を示唆するものである。
著者
水上 優 建内 宏重 近藤 勇太 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0088, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸腰筋は股関節屈曲の主動作筋であり,股関節疾患をもつ患者においてその機能改善は重要である。従来,腸腰筋は侵襲的な方法でしか測定できないとされ,その作用に関する報告は限られていたが,近年,表面筋電図での測定が可能であるとの報告がされた。本研究の目的は,股関節の運動方向が腸腰筋を含む股関節屈筋の筋活動に与える影響を筋電図学的に分析し,腸腰筋の筋作用と他の股関節屈筋と比べ選択的に活動する運動方向を明らかにすることである。【方法】対象者は健常男性20名(年齢22.7±2.6歳)とした。課題は背臥位での等尺性股関節屈曲運動とし,基本肢位は両膝より遠位をベッドから下垂した背臥位で,股関節以遠を10°傾斜させ股関節伸展10°とした。測定筋は利き足の腸腰筋(IL),大腿直筋(RF),大腿筋膜張筋(TFL),縫工筋(SA),長内転筋(AL)の5筋とした。ILの電極貼付部位は鼠径靭帯の遠位3cmとし,超音波画像診断装置(フクダ電子製)で筋腹の位置を確認し電極を貼付した(電極間距離12mm)。筋活動の測定は筋電図計測装置(Noraxon社製)を用いた。各筋の最大筋活動を測定した後,各課題での測定を無作為な順序で行った。課題は,股関節屈曲0°,内外転・内外旋中間位での保持(屈曲),同肢位で大腿遠位に内側または外側から負荷を加えた状態での保持(各屈曲・外転,屈曲・内転),同肢位で下腿遠位に内側または外側から負荷を加えた状態での保持(各屈曲・外旋,屈曲・内旋)の計5種類とした。負荷には伸長量を予め規定した(3kg)セラバンドを用いた。各筋とも各課題中の3秒間の筋活動を記録した。ILの3試行の平均筋活動を最大筋活動で正規化した値(%MVC)と,ILの%MVCを5筋の%MVCの総和で除した筋活動比にILの%MVCを乗じた値を選択的筋活動指数と定義し,解析に用いた。統計解析には,一元配置分散分析およびBonferroni法を用い,ILの5種類の運動時の筋活動と選択的筋活動指数を比較した(有意確率5%)。【結果】ILの筋活動は,屈曲・外転(21.6:%MVC)が他のどの運動よりも有意に大きく,屈曲(18.6)は屈曲・内転(14.9)よりも有意に大きかった。屈曲・内転,屈曲・外旋(15.9),屈曲・内旋(16.1)の間には有意差が無かった。選択的筋活動指数は,屈曲・外転(7.9)が,屈曲(6.5)を除く全ての運動で有意に高かった。屈曲は屈曲・内転(4.3),屈曲・内旋(3.8)よりも有意に高かった。屈曲・内転,屈曲・外旋(4.8),屈曲・内旋の間には有意差は無かった。【結論】本研究の結果,ILは屈曲・外転で他の運動方向よりも有意に筋活動が大きくなり,また屈曲・外転や屈曲が他の運動方向よりも選択的に筋力発揮しやすい傾向を示した。本研究結果は,腸腰筋の選択的な運動を行う際に有用な知見であると考えられる。
著者
近藤 勇太 建内 宏重 水上 優 坪山 直生 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0406, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】腸腰筋は股関節屈曲の主動作筋だが,下肢疾患患者では特異的に筋機能が低下することが多く,選択的トレーニングが求められる。これまで選択的トレーニングに関する研究は運動方向に関しての検討が主だったが,他関節において,負荷量を上げた際に各筋の筋活動は一様に増加しないという報告がある。股関節も同様の傾向があると考えられ,選択的な腸腰筋のトレーニング法を検討するには運動方向だけでなく,股関節屈曲トルク増加に伴う各股関節屈筋の筋活動の変化も検討する必要がある。また近年,表面筋電図で腸腰筋の筋活動が測定可能との報告があり,非侵襲的に筋活動の測定が可能となった。本研究の目的は,股関節屈曲トルク増加に伴い各股関節屈筋の筋活動・筋活動比がどのように変化するか明らかにすることである。【方法】対象は健常成人男性17名とした。課題は等尺性股関節屈曲運動とし,測定肢位は両膝より遠位をベッドから下垂した背臥位とした(股関節内外転・内外旋中間位)。測定筋は利き脚の腸腰筋(IL)・大腿直筋(RF)・大腿筋膜張筋(TFL)・縫工筋(SA)・長内転筋(AL)の5筋とした。ILの電極貼付部位は鼠径靭帯の遠位3cmとし,超音波診断装置(フクダ電子製)で筋腹の位置を確認し電極を貼付した(電極間距離12mm)。筋活動の測定は筋電図計測装置(Noraxon社製)を用いた。各筋の最大筋活動を測定した後,大腿遠位に徒手筋力計(酒井医療製)を設置し,ベルトで大腿を含め固定した。最初に最大股関節屈曲トルクを測定し,その10%,20%,30%,40%,50%MVCを発揮した際の3秒間の各筋の筋活動を記録した。各筋の3試行の平均筋活動を最大筋活動で正規化した値(%筋活動)と,各筋の%筋活動を5筋の%筋活動の総和で除した筋活動比を解析に用いた。統計解析は,一元配置分散分析およびBonferroni法を用いて10%,20%,30%,40%,50%MVCでのトルク発揮時の各筋の筋活動と筋活動比を比較した。【結果】IL・TFLの%筋活動は10%(25.0・9.3:平均値)に対し20%(31.5・12.4),20%に対し30%(37.4・16.1)で有意に増加したが,30%と40%(43.5・19.4),40%と50%(48.9・22.6)は有意差が無かった。一方RFは10%(6.5)に対し20%(10.6),20%に対し30%(17.0),30%に対し40%(22.6)で有意に増加したが,40%と50%(25.4)は有意差が無かった。SA・ALは50%まで有意に%筋活動が増加した。またILの筋活動比は10%(0.37)が20%(0.32)以外と比べ有意に高値となり,20%が30%(0.30)以外と比べ有意に高値となった。RF・TFL・SAの筋活動比には有意差が無く,ALは10%(0.11)がそれ以外と比べ有意に低値となった。【結論】本研究の結果,股関節屈曲トルクが低負荷から中等度の負荷まで増加する場合,SAやALは線形に筋活動が増加するが,ILやTFLは比較的低負荷の範囲しか筋活動が増加せず,またILの筋活動比は低負荷であるほど高い値を示した。本研究結果は,腸腰筋トレーニングを実施する際に有用な知見である。