著者
近藤 春生
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.216-233, 2012 (Released:2022-07-15)
参考文献数
27

本稿では,わが国における都道府県レベルのパネル・データを用いて,公的支出が地域の経済成長に対して有益な効果を与えているかということについて,Barro(1991)による成長回帰をベースに動学パネルの手法を用いて明らかにした。実証分析から得られた主な結論は,以下のとおりである。①地域間経済収束(β-convergence)が成立していること,②社会資本ストックは地域経済成長にプラスの影響を与え,スピルオーバー効果が認められること,③公共投資は必ずしも地域経済成長には有意な影響を与えていない可能性があること,④政府消費は地域経済成長に負の影響を与えていることである。したがって,わが国の公的支出(公共投資や政府消費)は必ずしも長期的な地域の経済成長に対しては有益なものにはなっていない可能性があることを指摘できる。
著者
近藤 春生
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.123-139, 2011 (Released:2022-07-15)
参考文献数
23

本稿の目的は,わが国における国ないしは地方政府の公的支出が地域経済(生産量,雇用,民間需要)にどのような影響を与えているかを,地域レベルのデータを用いた実証分析により明らかにしようとするものである。財政政策の効果について,ベクトル自己回帰(VAR)モデルを用いて分析した結果,以下の3点が明らかにされた。①公共投資が生産量や雇用を高める効果は認められるものの,政府消費の効果は低いこと,②1990年代以降,公的支出の民間需要,生産量に与える効果は大幅に低下していること,③公的支出の経済効果を地域別に見ると,都市圏において高く,非都市圏において低いことである。この結果から判断する限り,公共投資政策をはじめとする,公的支出が地域経済に及ぼす効果は限定的であり,地域経済の活性化を意図して,裁量的な財政政策を行うことには限界があるといえる。
著者
小林 航 近藤 春生
出版者
日本財政学会
雑誌
財政研究 (ISSN:24363421)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.218-232, 2008 (Released:2022-07-15)
参考文献数
11

本稿は,自治体首長の多選禁止問題について検討するために,都道府県知事の在職年数と財政運営の関係について分析する。既存研究では,基礎的財政赤字と知事の在職年数との間にU字型の関係が観察されていたが,本稿ではそのような関係は見られず,むしろ逆U字型か単調な右下がりとなることが示される。また,こうした結果が得られる理由についても検討する。
著者
近藤 春生 コンドウ ハルオ KONDO HARUO
出版者
西南学院大学学術研究所
雑誌
西南学院大学経済学論集 (ISSN:02863294)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.103-124, 2014-12

我が国では,特にバブル崩壊後の1990年代に景気対策として公共投資が積極的に用いられてきたにも関わらず,景気回復が思わしくなかったこともあり,公共投資の有効性や,社会資本の効率性について懐疑的な見方がなされるようになって久しい。しかしながら,2012年の総選挙で約3年ぶりに政権に復帰した自民党は「国土強靭化」をスローガンに,再び公共投資を増額する意向を示している。少子高齢化を背景に,我が国の財政状況はより厳しくなることが予想され,効率的な予算配分を実現するためには,公共投資(もしくは社会資本)の質を高めることは喫緊の課題であるといえる。また,不況局面に入ると,特に公共事業への依存度が高い,非都市圏において,地域経済対策として公共投資を求める声も依然として聞かれ,公共投資(社会資本)が地域経済にどのようなインパクトを与えているかを分析することは今なお重要であると考えられる。公共投資を含む公的支出や社会資本と地域経済の関係について実証的に分析したものとしては,例えば,土居(1998),林(2004a,b)や近藤(2011)があげられる。これらの研究では,都道府県単位のパネルデータを用いて,社会資本を含んだ生産関数の推定や,ベクトル自己回帰(VAR)モデルによる分析を行っている。ただし,公共投資の効果や社会資本の効率性は,その内容(産業基盤か生活基盤か,道路か住宅か)によっても大きく変わるであろう。そこで,本稿では,地域経済への貢献がしばしば期待され,事業規模が最も大きい道路に着目して,社会資本ストックとしての道路資本と地域経済との関係について,都道府県単位のパネルデータを用いたVARモデルによって明らかにすることを試みる。具体的には,道路資本と生産量,民間資本,雇用との相互関係を明らかにする。また,道路の種類による違いを考慮すべく,国道と地方道に分けて分析するほか,地域および時期による違いも考慮に入れるべくサブサンプルを用いた分析も行うこととする。本稿の構成は,以下の通りである。第2節では,社会資本や道路資本の経済効果に関する先行研究を概観し,論点整理を行う。第3節では,実証分析の枠組みとデータを説明し,推定結果について述べる。第4節はまとめである。