著者
鵜飼 建志 山崎 雅美 笠井 勉 林 典雄 細居 雅敏 赤羽根 良和 中宿 伸哉 田中 幸彦 宿南 高則 近藤 照美 増田 一太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0974, 2004

【はじめに】<BR> 野球肩の多くは、impingement syndromeやrotator interval損傷などの報告が多く、当院ではquadrilateral spaceでの腋窩神経由来と思われる肩後方部痛が多く認められる。これらは第2肩関節や臼蓋上腕関節での障害であり、肩甲胸郭関節での障害はあまり見られない。<BR> 今回、肩甲胸郭関節での障害と思われる広背筋部痛を訴えた野球肩を少数ではあるが経験した。その発生原因について、考察を加え報告する。<BR>【対象】<BR> 平成14年2月から15年10月までに、当院で野球肩と診断された60例のうち、広背筋部に疼痛を訴えた6例(10%)である。<BR>【理学的所見】<BR> 疼痛誘発投球相は信原分類のacceleration phase(以下A期)に全例認められた。圧痛部位は肩甲骨下角部周辺の内側~外側にかけてに位置する広背筋最上方線維部であった。また疼痛の出現の仕方は、脱力を伴うような鋭い痛みであった。3rd内旋可動域低下は全例に認められた。MMT3以下の僧帽筋筋力低下は中部線維が3例、下部線維が全例であった。投球フォームの特徴として肘下がりは2例と特に多いとは言えず、A期で肘が先行するタイプが4例と多かった。<BR>【考察】<BR> 信原は、「広背筋に攣縮が起きると肩甲骨の外転や肩関節外転・外旋が制限され、肘下がりなど投球動作に支障を来すもの」を広背筋症候群とし、rotator interval損傷やimpingementなどの二次的障害を惹起する可能性を指摘しているが広背筋部痛に対する詳細な説明はない。<BR> 広背筋の最上方線維は、肩甲骨下角部をpulleyのようにして外上方への急な走行変化を生じている。今回、広背筋部痛を訴えた選手は全例A期に疼痛が見られた。A期で肩甲骨が上方回旋する際に肩甲骨下角部で広背筋上方線維をfrictionし、筋挫傷を生じさせることが疼痛の原因と考えられた。今回の症例のほとんどが3rd内旋可動域の低下及び僧帽筋の筋力低下を認められたことから、A期において3rd内旋可動域低下が早期に過剰な上方回旋を、僧帽筋の筋力低下が肩甲骨上方回旋に伴う過剰なprotractionを引き起こしたものと思われる。そのため下角部の外上方移動が通常より大きくなり広背筋上方線維へのより大きなfrictionにつながったものと考えられた。<BR> 肩甲骨下角部周辺は広背筋以外にも大菱形筋、大円筋、前鋸筋などが存在し、疼痛は短時間で鋭く発生するため部位の特定がしづらく、当初は治療に難渋した。現在は、広背筋のリラクゼーション、僧帽筋の筋機能改善、肩下方軟部組織の伸張性獲得などを目的に治療を行い、良好に改善が認められている。
著者
林 優 赤羽根 良和 近藤 照美 笠井 勉 林 典雄
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第23回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O064, 2007 (Released:2007-11-02)

【目的】鵞足炎とは、薄筋、縫工筋、半腱様筋で形成される鵞足が、ランニングを主体とした反復する膝の屈伸により生じる鵞足部での摩擦障害と理解されている。鵞足炎は日常よく遭遇する疾患ではある一方でまとまった症例数の中での具体的な運動療法や治療成績に関する報告はほとんど散見されない。今回、鵞足炎と診断され運動療法が依頼された症例について、その臨床的特徴を検討すると共に、当院における運動療法の成績について報告する。 【対象・検討項目】平成14年8月より18年までに当院を受診し、スポーツ動作時に膝内側部周辺部疼痛を訴え、鵞足炎と診断された19例(男性13例、女性6例、平均年齢16.6歳)を対象とした。競技種目はバスケットボール5例、陸上5例、サッカー2例などであった。検討項目は_丸1_圧痛の局在部位_丸2_林によるトリガー筋鑑別テスト_丸3_走行時のmalalignmentの有無_丸4_下腿外旋テーピングによる症状の変化_丸5_治療成績は、スポーツ復帰率、スポーツ復帰後のスポーツレベル、運動療法期間について検討した。 【治療】原則として薄筋、縫工筋と半腱様筋停止部へのtraction forceを排した形での選択的ストレッチングを実施し、疼痛が軽減しないもの及び本人の都合上早期スポーツ復帰を希望するものにはインソールを作成した。 【結果】_丸1_圧痛は全例に認め、鵞足部単独1例、鵞足部+薄筋腱部11例、鵞足部+薄筋腱部+縫工筋腱部5例、鵞足部+縫工筋腱部1例、鵞足部+半腱様筋腱部1例であった。_丸2_トリガー筋鑑別テストは全例に陽性であり、薄筋単独18例、薄筋+縫工筋1例であった。_丸3_走行時のmalalignmentは、程度の差はあれ全例knee in toe outを呈し、大腿の過内旋が主体のもの11例、下腿の過外旋が主体のもの8例であった。_丸4_全例下腿の外旋制動テーピングによりランニング動作時の疼痛が軽減した。_丸5_治療成績は筋のストレッチングのみで疼痛が消失したもの9例、インソール併用で疼痛が消失したもの10例であった。スポーツ復帰率は100%であり、完全スポーツ復帰までの期間は平均4.9週であった。ストレッチングのみで復帰した症例の治療期間は平均4.2週、インソールを併用にて復帰した症例は平均5.4週であった。また、スポーツ復帰後の競技レベルの低下例はなかった。 【考察】薄筋には圧痛局在部位及びトリガー鑑別テストの所見が高率に発生しており、鵞足炎の主症状には、薄筋が関与したenthesopathyが大きな割合を占めると考えられた。また全例すべてにMalalignmentを認めた。大腿の過内旋や下腿の過外旋などのmalalignmentをベースに、ランニングなどの反復する機械的ストレスが作用し、鵞足部での滑走障害が生じた結果、疼痛が発現するものと考えられた。治療としては、選択的ストレッチングのみで47%の症例で疼痛の消失が得られたことより、鵞足炎に対する運動療法のファーストチョイスは鵞足構成筋に対する選択的筋ストレッチングが実施されるべきと考えられた。その後の経過の中で、Malalignmentの影響が強いと判断されたケースにおいて、alignment是正目的のインソールが適応となると考えられた。