著者
近藤 真里子 鈴江 妃佐子 河合 靖子 鈴木 陽子 大堀 裕子 市川 芳枝 牧野 トモエ 中村 あつ子
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会学術総会抄録集 (ISSN:18801749)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.117, 2008

〈緒言〉あつみの郷は老健を中心に、在宅サービスの他、介護予防サービス事業所などからなる福祉複合施設である。看護を中心とした各事業所代表からなる感染防止対策委員会では、感染症対策の基本である手洗いと感染症の基礎知識を中心に毎年勉強会を開催し、その効果として手洗いの意識調査と実態調査をしてきた。認識度と実施率は年々上昇し、勉強会の効果を実感していた。ところが、平成18年秋、あつみの郷の老健内で短期入所利用者から感染性胃腸炎の発症が始まり、関わった職員・利用者へと感染が拡大し、結果として利用者37名、職員10名が感染した。感染拡大の原因として、知識不足から職員が伝播者となり感染が拡大したことが大きな原因と考えられ、感染防止対策委員会の力不足を思い知らされた。終息後、職員にアンケート調査した結果をもとに、19年度の活動計画をたて、その結果感染症の発生をゼロにすることができたので報告する。<BR>〈方法と効果〉活動計画(1)感染症対応時フロー整備。今まで感染対応のフローが統一されていなかったので発症報告から、ケアまでの流れを整備した。これにより、各事業所間の感染情報も共有化されるようになった。(2)勉強会の実施。5月に標準予防策など感染症について、特に手洗い方法の手技についてビデオ学習を取りいれ、11月はノロウイルスの予防と発生時の対応および消毒方法を実技指導した。勉強会の内容と、新聞等の感染症発生情報等を常時掲示板を使って、継続して職員周知した。(3)手洗いの調査。職員が使用するゾーンの手洗い蛇口やドアノブの汚染度を大腸菌群とブドウ球菌群の拭き取り簡易調査を毎月実施し、検査結果を掲示した。検査を始めて3ケ月は、特に大腸菌群が多数検出され、汚染状況に大変驚いたが、2回の勉強会、毎月の検査結果の公表が効果あったか、徐々に菌の検出は減少した。職員が手洗いの必要性と、手洗い実施のタイミングを理解した結果と思われる。(4)外部からのウイルス侵入防止。外部からのウイルス侵入を遮断するため、利用者家族を始め、出入り業者へもノロウイルス感染予防のための協力依頼文書を10月に配布した。施設内においては発生に備え、仮に発生しても混乱したり、拡大しないように消毒マニュアルと消毒セットを各トイレに準備し、利用者および職員から疑いのある症状が発生した場合の対応も掲示した。(5)職員の感染症に関する習熟度調査。年間を通し職員の感染に関する知識変化を把握するため、基礎知識と各感染予防法ごとに理解度を点数化し、5月の勉強会前と一年間の活動後とで習熟度を調査した。介護・看護など職種別に統計学解析に基づきT検定を実施した結果、いずれの職種も習熟度は有意(p<0.05)に上昇し、これは活動による効果と思われる。<BR>以上の様に年間を通し活動を実施した結果、平成19年の利用者発症は0、家族内感染職員は2名あったが、施設内での感染は防止することができた。集団発生しなかった理由として感染疑い利用者への対応が早かったことが57.1%、次に予防と対策の知識が根付いたことが35.7%になった。実際に、突然の熱発者や嘔吐発症者にも迅速に感染症対応するなど職員の危機意識が認められた。<BR>〈結論〉一年間の感染防止活動により、アウトブレイクを防止することができた。これは職員の意識改革による影響が非常に大きい。今後も施設全体で感染に関する情報の共有化を図り、啓蒙活動を継続し職員の意識を高め、引き続き感染防止に努力して行きたい。<BR>