- 著者
-
通山 由美
- 出版者
- 姫路獨協大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2018-04-01
Neutrophil extracellular traps(NETs)は、好中球のクロマチンが網状構造に変化して病原微生物を捉える生体防御機構である。近年、NETs成分が血小板を刺激して血栓症を誘発することが新たな病態として注目されている。本研究では、NETs形成の分子機構の解明、血小板血栓を惹起するNETs成分の同定、さらに血栓症の早期診断法の開発を目ざしている。これまでの研究で、1)質量分析法によりNETs形成過程に特異的な翻訳後修飾を含むタンパク質を見いだし、2)遺伝子編集技術(CRISPR/Cas9)を利用して候補タンパク質のノックアウト(KO)型好中球モデルを作成した。そこで令和1年度は、KO型好中球モデルを用いてNETs形成への影響を解析するとともに、NETs形成で放出される分子の中で、血小板を刺激する候補分子を探索した。具体的には、ヒト白血病細胞株、HL60を親株として、PDIファミリータンパク質のP4HB、プロテインS100ファミリータンパク質のプロテインS100A8およびS100A9、チロシンキナーゼ、SykのKO細胞について取り組んだ。HL60および各分子のKO型HL60細胞を、ATRA(All-trans retinoic Acid)刺激で好中球様に分化し、1)好中球に特有の分葉核の形成および補体受容体の発現、2)食作用に伴う活性酸素の産生量、3)NETs形成により放出されるタンパク質について解析した。その結果、1)P4HB-KOにより核分葉が抑制されること、2)Syk-KOにより活性酸素産生が抑制されること、3)親株であるHL60では、NETs形成に伴い、プロテインS100A8とS100A9が、炎症性サイトカインと共に放出されることを見出した。今後さらに解析を進めて、NETs形成機構の解明、血小板血栓を惹起するNETs成分の同定をめざす。