著者
長尾 圭造 進藤 英次
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.329-334, 2004

戦争によりもたらされるトラウマや精神保健上の特徴について概観した. 1. 戦争体験はPTSD症状および各種の精神症状, 精神保健指標の著しい低下を招く. 2. PTSD症状の発現頻度は戦争体験の被曝量に比例する(dose-effect relationship). 3. PTSD症状に影響を与える要因は, 厳しい戦争状況では両親の不在より戦争体験事態や衣食住の欠乏・避難転居生活でより強く働くが, 直接生死に関連しない状況では, 空襲警報時のシールドルームでの回避的な過ごし方, 低年齢では母親の精神的健康さ, 子どもの視覚的イメージ能力の高さがいい方に影響した. 4. 臨床例で多い随伴症状としてのうつは, 発症メカニズムが異なり, 戦争後の生活ストレスと関連する.<br>戦争トラウマには否定的側面だけではない. 長期経過観察からPTSD症状持続があっても社会的活動能力は良好である. また厳しい条件下でも, 健康的・積極的・復興生活がある.