著者
長尾 圭造 進藤 英次
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.329-334, 2004

戦争によりもたらされるトラウマや精神保健上の特徴について概観した. 1. 戦争体験はPTSD症状および各種の精神症状, 精神保健指標の著しい低下を招く. 2. PTSD症状の発現頻度は戦争体験の被曝量に比例する(dose-effect relationship). 3. PTSD症状に影響を与える要因は, 厳しい戦争状況では両親の不在より戦争体験事態や衣食住の欠乏・避難転居生活でより強く働くが, 直接生死に関連しない状況では, 空襲警報時のシールドルームでの回避的な過ごし方, 低年齢では母親の精神的健康さ, 子どもの視覚的イメージ能力の高さがいい方に影響した. 4. 臨床例で多い随伴症状としてのうつは, 発症メカニズムが異なり, 戦争後の生活ストレスと関連する.<br>戦争トラウマには否定的側面だけではない. 長期経過観察からPTSD症状持続があっても社会的活動能力は良好である. また厳しい条件下でも, 健康的・積極的・復興生活がある.
著者
小山 善之 熊取 敏之 澁谷 敏三 新谷 和夫 福田 龍三 今村 幸雄 佐野 一郎 鴫谷 亮一 古屋 曉一 河野 實 日野 佳弘 渡邊 孝 武正 勇造 中村 なをゑ 小澤 義光 林 康之 平島 信子 早船 喬一 濱口 榮祐 木村 信良 神田 清 岡本 十二郎 濱田 政彦 大橋 成一 橋本 敬祐 小酒 井望 石井 暢 天木 一太 深澤 義明 貴船 トミ子 松村 義寛 中野 巖 種田 強一郎 林 義次 村田 貢
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.5-45, 1955

This paper is an intermediate report of the clinical observations and various investigations made upon the 16 patients of the radiation sickness caused by BIKINI ashes on. 1st March 1934. The patients were admitted to the First Tokyo National Hospital on March 28th, and this report shall be for the period of the 5 months from March 28th to the end of August, 1964. Later, a thorough and complete report will be given, in which some amendments may be added to the present paper.<br>INTRODUCTION: At 3.50 a. m. on 1st March 1954, the 5th Lucky Dragon, a fishing boat, with a crew of twenty three on board, was located at about 100 miles east of BIKINI. The boat was under grey-white ash-fall for more than 5 hours. The crew was exposed to the ash-fall for 1.5 to 5 hours. The evening of that day they suffered from headache, anorexia, conjunctivitis and later nausea, vomiting, exhaustion and diarrehea, Several days later they suffered from itching, pain, rash, and erosion on the exposed skin areas. One week later two of the crew had hemorrhage of gingiva and some of the crew suffered from depilation. On March 19th, the boat returned to its base at Yaizu. On March 16th, the crew was admitted to the Kyoritsu Yaizu Hospital and on March 28th, 16 patients out of 23 were transfered to our hospital (the First Tokyo National Hospital).<br>On March 26th, Prof. Kimura's laboratory of Tokyo University made the analysis of the ashes taken from the 5th Lucky Dragon and found the following radioactive substances: Sr-89, Sr-90, Y-90, Y-91, Zr-96, Nb-95m, Nb-95, Ru-103, Ru-106, Te-129m, Te-129, Te-132, I-131, I-132, Ba-140, La-140, Ce-141, Ce-144, Pr-143, Pr-194, Nd-147, Pm-147, S-35, Ca-45, U-237, and Pu-239. The remaining radiation of the boat was investigated by Dr. Kakei et al. of March 17th and found it to be around 100mr/hr. Upon this data the total radiation was estimated at a count of 270 to 440γ. on the crew. In addition to the external exposure of such radiation, internal exposure, such as respiration of contaminated air, drinking of contaminated water and taking of contaminated food, shall be taken into consideration in the present cases. Radioactivity was found in the bile and urine taken from the patients.<br>GENERAL REMARKS: The 16 cases were strong young men but their body weight began to decrease from the middle of May and high or slight fever, anorexia, feeling of exhaustion, diarrhea and headache continued.<br>Skin and Hair: Irregular depilation, depigmentation, pigmentation with rain and itching, and erosion was observed. Some cases had folliculitis with pustules in April, while others recovered from erosions and at the end of May, regeneration of hair began. In July, hair condition was almost normal.<br>Blood and Bone-marrow: At the middle of April, the lowest peripheral leucocyte count was less than 2, 000. Two cases who had lower leucocyte count recovered earlier, i. e., their leucocytes increased to around 5, 000 at the middle of May. Meanu hile, the other cases had from 3, 033 to 4.000 count during the entire period. The former cases had also moderate anemia while the latter had only slight anemia. Blood platelet count of the former cases was less than 20, 000 and the recovery was slower than that of the leucocyte count. Reticulocyte count kept pace with that of leucocyte. In the former cases, myelocyte and other immature blood cells appeared temporarily in the circulated blood and eosinophile cells increased. The count of bone-marrow cells decreased remarkably (8, 000), i. e. panmyelophthisis, which later recovered slowly. In the latter cases, peripheral leucocyte findings and myelogram had almost no changes from the beginning of our observation and count of bone marrow cells was remarkably different by the sites of bone-marrow puncture. Vacuole and toxic granula appeared in the neutrophile cells in the circulated blood and vacuoles also appeared in lymphocyte and monocyte.
著者
西宮 仁
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.477-481, 2005

進行性核上性麻痺(PSP)の診断上, 画像所見は有力な補助診断手段として用いられてきた. 主な所見としては, 頭部MRIにおいて認められる, 脳幹の中脳・橋被蓋部, ことに中脳吻側部の萎縮によって示されるハミングバードサイン, PVH等の大脳白質の異常信号, 頭部MRIおよびCTにて認められる第3脳室拡大, 四丘体槽拡大, シルビウス裂拡大, 前頭葉萎縮, 側脳室拡大, SPECTおよびPETにおける前頭葉の血流低下等が知られている.
著者
竹崎 英一 村上 信三 西林 宏之 香川 和徳 大森 仁也 山根 哲実 弘井 正 片山 正一
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.177-182, 1991

肝細胞癌を合併した自己免疫性慢性肝疾患2例を報告する. 1例目は65歳の女性で, ルポイド肝炎から進展した肝硬変と考えられる症例で, 経過中に慢性甲状腺炎を併発し, 同時に, 腫瘍マーカーの上昇と画嫁診断から肝細胞癌合併が診断され, TAE後, 治療切除が行われた. 腫瘍は1.4×1.5cmのEdmondson II-III型の肝細胞癌であった. 本例は輸血歴があり, anti-HCVが陽性であった. 2例目は78歳の男性で, AMA 320倍以上, anti-M2陽性, 高免疫グロブリン血症からPBCと考えられる症例で, 腫瘍マーカーは陰性であったが, 画像診断から肝細胞癌合併が診断された. 高齢であり, 腫瘍占拠部位が広範囲であるため, 保存的治療が行われたが, 肝細胞癌診断約3ヵ月後に, 肝不全が出現し死亡した. 死亡解剖所見では, Scheuer IVのPBCであり, 腫瘍は肝両葉に散在し, 最大径は3×4cmで, Edmondson II-III型の肝細胞癌であった. 本例は輸血歴がなく, anti-HCVは陰性であった.
著者
長尾 圭造 奥野 正景
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.271-277, 2004

目的:近年の戦争形態とその犠牲について主に子どもの立場から概観し, 精神的影響への背景を明らかにする. 方法: 戦争と子どもに関するこの30年余りの文献・資料から, 主に子どもに関する戦争の生活・発達上の被害や精神的・身体的健康被害を中心に取り上げた. 結果: 武器・戦略など戦争形態の変化により被害・犠牲の内容が異なるので, その犠牲を武器の種類により2つ(通常の戦争, ハイテクノロジーによる戦争)に分けた. また特別な形態としてロー・インテンシブ・ウォーズを述べた. 戦争被害は個人の生命危機・身体損傷から, 地域・家族の大量虐殺, 生活の源となる衣食住の貧窮, 教育・医療・保健などの社会的インフラ基盤の破壊や感染症増加, 戦争関連精神障害の発症など子どもの全生活領域に及ぶ. 考按: 子どもの戦争被害の減少・防止を, 戦争開始後の犠牲の抑制, 戦争終結後の犠牲防止, 戦争回避に分けて述べた.
著者
田中 靖彦
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.58, no.9, pp.491-492, 2004

感覚とは, 外来刺激をそれぞれに対応する受容器によって受けた時, 通常経験する心的現象を言う. その種類としてはいろいろあるが, 視覚, 聴覚, 触覚, 嗅覚, 味覚を五感という. その他に, 平衡覚, 痛覚, 圧覚, 温覚などである. 医学的にいうと, 視覚, 聴覚, 嗅覚, 味覚, 前庭感覚(平衡覚)を特殊感覚という. さらに, 体性感覚としての皮膚感覚, 深部感覚, また, 内臓感覚として, 臓器感覚, 内臓痛覚も含まれる. このように感覚器(受容器)は体中いたるところに分布している.<br>人間の日常生活に, ことにコミュニケーションにはこれら五感が密接に関わっていることから, いろいろな「諺」としても汎用されてきている. 日く「生き馬の目を抜く」「馬の耳に念仏」「隔靴掻痒」「壁に耳あり, 天井に目あり」「二階から目薬」「寝耳に水」「見ざる, 聞かざる, 言わざる」「百聞は一見にしかず」「目と鼻の先」「目は口ほどにものを言い」「目から鱗」「目鼻をつける」「痒いところに手が届く」「痛し痒し」そして少々凝ったものとして「葵に懲りて膳を吹く」など, ちょっと考えただけでもこれぐらいの「諺」, 「言い習わし」をあげることが出来る. 西洋諺にも同じようなものがあることはご承知のとおりであるが, いかに生活に不可欠な機能かを物語っている.<br>これら視覚, 聴覚に代表される感覚機能は, 今日でも日進月歩の発展を続けるIT化(情報化)社会においてひと時も欠くことのできない機能であり, 一層その重要性が増してきている(反面その障害も増加してきているが). また、わが国は世界一の少子長寿社会でもあり, その生活の質(QOL)に大きく貢献するのが「感覚器」であることは, 論を待たない. さらに, この感覚器障害は, 全身疾患の併発症としてしばしば見られることはよく知られているところであるが, 加齢変化として, あるいは生活習慣病, 感染症, 先天異常や難病などに頻繁に見られるものである. これまでは生命保持に医療の主力が注がれてきており, この生活の「質」を確保するための感覚器についての取り組みは取り残されてきた感がある. 早急に国の医療政策の1つとして, 予防から治療, さらにリハビリテーションにわたり, 総括的な対策が講じられなければならない問題である.<br>「感覚器疾患」というくくりで, 国立病院療養所による政策医療ネットワークを形成している. 果たしてこれら全身におよぶ感覚器をどのようにまとめてゆくのがいいのか. 眼科, 耳鼻咽喉科はまず考えられるにしても, 皮膚科, 神経内科, 整形外科, 麻酔科, 脳神経外科, 口腔外科, はてまた精神科, などなど, 見えない, 聞こえない, 喋れない, ばかりでなく, 痛みや痒み, 香り, 臭いのない, 味がしない状況で果たして豊かな天寿をまっとうした, と言えるだろうか, これだけ人間の尊厳が問われる時代に, これら外界との接触の閉ざされた状態は, なんとしてでも開放しなければならない. 医学界のみならず, 最新のテクノロジーを駆使して速急に取り組まなければならない問題である. これはナショナルセンターにしなければとても扱えない範囲におよぶことになる. 近い将来, ナショナルセンターとして発展することを願っている.
著者
安斎 徹男 泉 勝 川手 進 常沢 伸幸
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.48, no.5, pp.364-367, 1994

ペースメーカー埋込み手術は11例にすぎないが, まれな合併症や術中, 術後における2~3の工夫を加え, その成績を述べた.<br>症例は男性2例, 女性9例, 年齢は52歳から88歳(平均73歳)であった. 原因疾患は房室ブロック5例, 洞不全症候群6例で, 前群の3例, 後群の1例で救急的対応を要した. ペースメーカーは左前胸部皮下のポケットに埋込まれ, リードは経鎖骨下静脈的に右室乳頭筋内に挿入された. 術後は定期的に点検されレートや出力が調整されている.<br>まれな合併症として, タイン付きリードが右室を穿孔し左胸腔内に至った. 抜去は危険であり新しいリードを挿入した.<br>鎖骨下静派穿刺が困雄な例では, 皮静脈を介して挿入し, 皮下を経て本体と接続した.<br>大きすぎたポケットに滲出液の貯溜をみた例では, ポートバックを用いて速やかな治癒をみた.
著者
清水 英利
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.29-36, 1977

私は分裂病退院患者を常時30~40名受持ち, 再入院予防を目的として10年間アフターケアを行つてきた. 現在2年以上社会生活を維持できたものが12名あり, 就職6名, 家業従事2名, 家事従事2名などすべて就労していた. 長期間社会生活を維持できた諸要因として<br>1)大部分が定期通院と服薬持続をしている<br>2)全例において家族の協力が良好である<br>3)家庭の経済状態は中流以上が多い<br>4)在院期間は短く1年未満が多い<br>5)病前に就労経験のある若い人が多い<br>6)患者の好む夜勤のない対人関係の容易な過労にならない持続的な仕事がある<br>7)精神衛生法32条と43条は通院中断防止に役立つている. 再発の誘因には服薬中断, 過労, 通院中断, 精神緊張が多く, 再発時初発症状は不眠, 幻聴, 好褥などが多かつた.
著者
青木 佳壽子 宮崎 悦子 木戸 友幸 畑 直成 羽間 収治 藤田 周一郎 倉田 明彦
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.173-177, 1990

症例: 74才男性, 1983年より高血圧症, 虚血性心疾患, 肺気腫などで当内科にて経過観察中の患者で, 当初より肝管, 総胆管の拡張あり, 胆嚢腫大も認められた. 1986年には糖尿病発症(NIDDM)をみた. 1987年6月10日ころより執ような下痢が起こり, 7月9日精査治療目的で入院す. 体重9kg減少し, 黄疸(-), 肝鎖骨中線上3横指触知, Courvoisier徴候(+), アミラーゼ414U/L(P: 368, S: 45), CEA: 9.1, CA-19-9:32U/ml, 7月22日ERCP; 膵胆管合流異常, 8月末黄疸出現, PTCD施行, 造影にて完全閉塞を認む. 腹部血管造影施行, 胃十二指腸, 胃腸間膜動脈への浸潤像あり. 静脈リンパ系への浸潤も当然あると考えられ, そのための下痢と判明す. PTCD胆汁細胞診にて乳頭状腺癌検出をみ, 頻度及び造影所見より総胆管癌を疑つた. 2月26日死亡す. 剖検にて中等度分化型膵頭部管状腺癌で, 膵周囲, 総胆管, 肝外胆管及び周囲リンパ節, 胆嚢, 上, 下腸間膜動静脈, 門脈に浸潤転移を認めた.
著者
村山 伸江 黒田 郁子 小長谷 正明
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.56, no.11, pp.646-649, 2002

1997年クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)がマスコミを賑わしている最中に, 当院にCJDの紹介があった. 入院を受け入れるにあたり, 感染などの恐れから職員の不安は大きく, 辞職を申し出る職員も出現した. 病院幹部をはじめとして, 施設全体の協力を得ながら職員教育と感染防止対策の徹底を図った. ウイルス性肝炎なみの防護体制をとるとともに, 職員教育では感染効率が低いことと, 通常の看護業務では安全であることを強調した. そして, 病棟の受入れ体制をスタッフとともに整備した結果, 医療事故も辞職者もなく, 終末まで無事患者を看取ることができた. 受入れ当初は試行錯誤の中であり, CJDの学問的見地からすると, 感染防止対策は厳重すぎた点も多く, 今後は, 当施設に応じたCJD受入れ体制を検討する必要がある.
著者
石垣 一彦
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.35, no.4, pp.340-344, 1981

当院外来に通院治療中のてんかん患者のうち結婚歴のある者25名(男性9名, 女性16名)につき多面的角度から結婚生活の状況を調査し報告した. 結婚生活の適応状況は概して女性の方が良く, 家庭における役割, 就業状況なども男性に比べ良好であつた. 発作未消失者性格変化のある者は約半数に認められたが, その程度内容が問題になると考えられた.<br>子供を有している者が多かつたが, 遺伝学的配慮, 疾病の妊娠分娩への影響, 薬物服用による胎児への影響などについて十分考慮されていないと思われた.<br>療養態度については比較的真面目であり, 患者家族共に病気を克服するためのいろいろな工夫をこらしていた.
著者
坂口 一彦 立岩 誠 水谷 哲郎 宮武 博明
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.46, no.9, pp.724-728, 1992

再膨張性肺水腫は, 気胸や胸水にて虚脱した肺を, 治療により再膨張させた後に生じる肺水腫であり, その発生は比較的まれとされてきた. しかし近年, 自然気胸の増加に伴い, 胸腔ドレナージを施行する際に, 医原性合併症としての本症の発生に注意を払う必要がある. 諸家の報告と, 自験例での特徴をまとめると, (1) 長期間の肺虚脱(3日以上)の症例に発生する. (2) 急激な肺の再膨張のあと数時間以内に発生するものが多いが, 部分的な再膨張過程においても出現をみるものがあった. (3) 従来は持続的陰圧吸引後に多いとされてきたが, 近年用いられるようになったフラッターバルブによる平圧脱気に際しても出現する可能性が高い. (4) 死亡例から, ほとんど自覚症状をしめさぬ軽症例もあり, 注意深い経過観察により, 本症の発生頻度は, 従来の報告以上に高い可能性をもつものと思われる.
著者
六田 暉朗 福井 康雄 都築 英雄 谷田 信行 杉本 友則 三木 啓司 喜多 青三
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.48, no.9, pp.763-766, 1994

上腹部並びに, 下腹部手術の手術野確保のための既報のOuter Retractor Holderを改良した. 本器は鉤把持器と支持棒から成っている. 鉤把持器は, 通常の筋鉤を手術野を覆う清潔布を介して把持し, 支持棒は手術台に自在固定器により固定されている.<br>改良点の一つは, 鉤把持器で鉤を把持しやすくし, 支持棒との接続をスプリングの特性を利用し容易にしたものである. 今一つの改良は, 鉤把持器として, 市販のPlierを改造使用し, 安価に製作できるものとした点である. 鉤のはたらく部位, 方向の変更は支持棒の位置を自在固定器により調節することで容易に行える. スプリングを使用しているため, 術者による手術途中の圧排部位の多少の調節も可能である. また本器は消毒不要でいつでも使用できるなどの特徴を持っている.
著者
中村 善紀 宮沢 健 井口 欽之蒸 北原 昇 松尾 俊彦
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, pp.351-359, 1979

高山病は適切な処置をとれば, まことに治りやすい急性疾患であるが, 処置を誤れば死に至る疾病である. 昭和46年から昭和53年8月まで当院へ入院した19例の高山病患者について臨床的観察を行つた.<br>対象患者は男17例, 女2例で, 年令は29才以下18例, 52才1例であつた. うち死亡2例であつた. 登山歴のあるもの11例で, そのうち5例は高山病を経験していた. 高山病をおこした山岳は槍ヶ岳(3,179m)が最も多く7例, 次いで穂高連峰(3,000m)5例であつた. 高山病19例の入院した季節は夏山シーズン14名, 冬山シーズン4例で, 死亡者2例は夏山にみられた.<br>高山病発症時の症状と入院時の症状はかなり異なつておる. 一般に本症は低地に移送すれば症状は軽減するからである. その症状を大別すると脳症状, 呼吸器症状, 眼症状である. 低地に移すと脳症状は急速に改善するが呼吸器症状と眼症状は残るので, 高地性肺水腫や網膜出血として観察される.<br>高所反応が現れたら可及的速やかに低地に転送すべきであつて, 脳症状が固定すると死の危険がある.
著者
大山 廉平 丸谷 巌 富田 濤児 三浦 琢磨 吉成 道夫
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.34, no.8, pp.702-708, 1980

近年, 内視鏡的膵・胆管造影は胆道精査法として著しく発達したが, 小児に対しては, その特殊性から, 消極的にならざるを得ず, わずか数例の成功例をみるのみである.<br>我々は, 小児(6才, 7才)の2症例に対して, ERCPを行い, 良好な結果を得たが, その検討の結果, 小児ERCP用フアイバースコープの改良開発が望まれるが, 現在汎用されているオリンパスJF-B3でも, 小児に対して可能であることがわかつた.<br>その適応として年令6才, 体重20kg及び身長110cm以上であれば, ERCPは可能であると考える. 更に重要なことは, 麻酔の問題であり, 小児に対しては, 経鼻的気管内挿管による全身麻酔を行うことが必須である. これにより, フアイバースコープ操作が容易となり, 安全かつ有効な検査が可能である.<br>今後広く小児に対する日常検査としてのERCPの適応の拡大が期待される.
著者
堀内 亮 西田 崇大 山本 啓太 薬師寺 あかり 長竹 教夫 安井 玲子 早川 達郎 海老根 いく子
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.609-612, 2007

本稿では患者の治療への動機付けおよび地域生活への移行に, ソーシャルワーカー: Social Worker (SW)主導のケース・カンファレンス:Case conference (SWCC)が有効であったケースを報告する. 患者は30代の女性. 診断は統合失調症. 入院前は子供4人とアパート生活を送っていたが, 幻覚妄想状態のため当院精神科へ医療保護入院となった. 入院後, 幻覚妄想の状態が継続し, 服薬を拒否するなど入院治療に強い抵抗を示していた. SWは早期介入を判断し, 面接を重ね, 幻聴や妄想の背景に子供への心配が影響していると考えた. そして, 患者への理解を共有し, 子供の養育環境調整を目的にSWCCの提案を行った. 入院23日目に患者, 家族, 医療スタッフ, 地域保健福祉関係者を交えSWCCを行い, 患者の希望である"子供たちとの生活"を尊重した. SWCC後から, 患者は入院治療や服薬に対する不安を看護師や医師に素直に話す姿がみられ, 服薬の拒否はなくなった. 入院時は母親としての子供に対する愛情と責任を感じながらも不安を表出できず治療を拒否していた患者が, 退院時には大きく変化していた.<br>本症例にみられるように, 治療への抵抗の要因に社会的な問題がある事例は少なくない. そのため, SWの早期介入によって患者が抱える心理・社会的な問題の解決を援助する必要がある. 社会的問題の解決を援助する方法として, 入院早期からの患者が参加したSWCCが重要な意味を持っていたと考える. そこで患者自身が参加することにどのような意味があったのかを振り返り, "SWCCの患者にとっての意味", "SWCCとSWの役割"について考察した.
著者
渡辺 位
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.216-223, 1967

Schoolrefusal (Schoolphobia), considered as one of the children's neurosis, become current problems not only for child psychiatry, psychology and education, but also the problems in the society sometimes mass communication media discussing.<br>Neurosis and neurotic behavior in childhood is not many in number; but no other problem than the schoolrefusal became so big problem in the society.<br>This is because the problem arose in a school, the place of education.<br>The first report concerning the schoolphobia appeared in 1941 by A, M, Johnson, and since then the problem has been studied by various investigators.<br>In Japan, although Sumi, Takagi, Yamamoto, etc, reported excellent investigations on schoolrefusal, the psychological mechanism of this symptom is not the same so that what type of neurosis it belongs to is still the subject of discussion.<br>We examined many cases of schoolrefusat, and classified this symptom in 3 groups, I-III, not on the basis of overt phenomenon "dislike to go to school", but on the basis of the fundeamental features.<br>Group I is a group of patients who are hypersensitive, too shy to be watched and sometimes show autistic tendency. Before the symptom appears, the character of the patient is timid, introvert and nervous, and the patient has characters of schizothym (Kretschmer). Most of the patient had relatives having autistic or isolated character, or schizophrenia.<br>Group II is a group of patients who have character such as poorly controled emotion, maddy, attacking and resisting tendencies, and characteristically timid, exaggeration, selfish and not cooperative.<br>It should be noted that in many cases of this group their family gave too much control or over-protective attitude which should have given unfavorable influences to the children.<br>Patients belong to Group III do not have so serious problems as those of former Groups. Motivation of going to school may be disturbed owing to their earier experience.<br>Thus, the cause of schoolrefusal is closely related to the characteristic nature of the children.<br>Very often the patient's family is also the cause of problem; their parents are not adequate as the member of the family. Then, in this case, the character of children as well as attitude of their patients become the problem.
著者
山田 清美 我妻 堯 瀧 直彦 鈴置 洋三 長町 典夫 高橋 克幸
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.346-349, 1987

反復性流産における遺伝的要因を明らかにするために, 自然流産歴を2回以上もち流産の原因が全く不明の夫婦組を対象として染色体検査を行つた. 染色体分析はすべてGバンド法による分染法を用いて精査した. その結果, 検査した夫婦100組中の10組(10%)に均衡型の相互転座による染色体異常を認めた. 妻が転座保因者と判明したものが8人で, 夫は2人であつた. この転座保因者の頻度は新生児集団では約700人に1人と推定されるので, それと比較してみると流産夫婦集団では妻が54.8倍で夫が13.7倍高いことが明らかになつた. 流産夫婦群に多い転座保因者の存在は, 自然流産や奇形児出産の危険性の上から日常の診療の際に十分に考慮すべき遺伝要因である. そのため, 分染法を用いての精査による染色体検査の必要性を強調したい.
著者
寺畑 喜朔 石見 為信 田中 行雄 丸岡 秀憲
出版者
Japanese Society of National Medical Services
雑誌
医療 (ISSN:00211699)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.564-568, 1968

It has been reported as primary steps that the blood of corpses had been taken at the time of pathological and medicolegal post mortem examination, and the following results were obtained.<br>1) Presently after death, values of potassium and phosphorus were high.<br>2) It has been indicated that natrium and chloride decreased.<br>3) Calcium decreased slightly, then increased.<br>4) It has been indicated that glutamic oxaloacetic transaminase, glutamic pyruvic transaminase and lactic dehydrogenase increased presently after death.<br>5) Addition of the solution of ACD did not show any clear change.<br>6) when corpses were kept in the icebox, potassium level were unchanged.