著者
邱 學瑾
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.146, pp.49-60, 2010 (Released:2017-03-21)
参考文献数
24

本稿では,日本語学習者が日本語の漢字語彙をどのように処理するのかを,認知心理学及び第二言語習得の分野における単語認知研究の成果に基づいて考察する。近年,モノリンガルやバイリンガルを対象とした研究では,単語の処理過程において,ターゲット語の意味表象が活性化するだけでなく,ターゲット語と関連する複数の語義も活性化し,ターゲット語の処理に促進効果や干渉効果をもたらすことが明らかになっている。これらの効果は,日本語学習者でも見られることが予想される。日本語学習者の語彙処理過程で異言語間の相互作用が生じる場合は,どのような特徴をもった単語で観察されるのであろうか。また,相互作用はどのような条件で生じるのであろうか。本稿では,この問題に焦点を当て,先行研究を概観しながら議論を展開する。そして,日本語をはじめとした言語の学習における情報処理のメカニズムに迫る。
著者
邱 學瑾
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.412-420, 2002-12-30 (Released:2013-02-19)
参考文献数
24
被引用文献数
3

本研究は意味判断課題を用いて, 同音異義語と形態類似性の干渉の有無から日本語母語話者と日本語学習者の漢字熟語の処理経路を検討した。その結果, 日本語母語話者では, 同音異義語の干渉は形態類似性のある条件にのみ生じたので, 漢字熟語の意味アクセスにおける形態情報及び音韻情報の重要性が示されている。一方, 日本語学習者では, 韓国人日本語学習者は形態類似性による干渉のみ示され, 形態情報に依存する意味アクセスの可能性が大きいと示唆されている。他方, 非漢字圏日本語学習者は同音異義語及び形態類似性の干渉が生じたことが明らかになり, 音韻処理を媒介して意味アクセスすることが示されている。これらの結果は, 日本語学習者は漢字既有知識の有無によって漢字熟語の処理経路が異なる可能性を示すものである。