著者
郭 莉莉
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.213-230, 2011-12-26

近年,少子化への関心が高まっている。各種メディアでも度々特集が組まれ,各政党のマニフェストには少子化対策が多く盛り込まれてきた。このような少子化動向への対応の高まりは,日本国内のみで起きていることではない。西欧などの多くの先進国も同じような問題を抱えており,さまざまな政策が取られている。このように,少子化動向は世界の先進国と中進国を問わず,問題になってきた。 とりわけ,日本では,少子化がますます進み,人口減少に歯止めがかからない。これまで政府主導による「新旧エンゼルプラン」「少子化対策プラスワン」など,各種の少子化対策が積み上げられてきたが,社会全体の少子化傾向は止まらない。本稿では,日本の少子化の現状,原因,影響を考察して,日本における少子化対策の問題点究明を試みる。少子化の進行は将来の日本の社会経済にさまざまな深刻な影響を与えると懸念されるが,反面で日本社会のあり方に深く関わっており,社会への警鐘を鳴らしていると受け止められるからである。 少子化を克服した先進国フランスは,近年少子化に悩んでいる日本でもその実情が広く知られるようになった。フランスにおける対応のうち優良事例を検討することは,日本で少子化対策を進めるうえでも,一定の意義がある。
著者
郭 莉莉
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大紀要 (ISSN:03854566)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.89-105, 2005-06-30

張潮の『幽夢影』は明代晩期,及び清代に盛んに作られた「清言小品」という形式の作品の一つである。「小品」は明代と清代を代表する古典文学形式であり,「小品文」とも呼ばれ,「詩」,「詞」,「曲」などの韻を踏む文体と相対して,韻を踏まない「散文」である。このような明代・清代の「小品」という文学の中に,さらに「清言」という独特の文学形式が存在する。「清言」の厳密な定義は存在せず,当時自らの「小品」の作品を特に「清言」(もしくはそれに類似する呼び方)と呼んだ作家も厳密な基準は持ち合わせていなかったものと思われるが,一般的には短くそして警句のようなものを「清言」としていた。内容は,清雅と思われる文人の趣味,書,画などを含む芸術品の鑑賞や,無欲であり,清高と思われる老荘思想,仏教思想に基づいた人生に関する格言などがある。明代や清代の「清言」作品の中で,日本で最も広く知られているものは『菜根譚』であり,版本の違う日本語注訳を入手することは容易である。それに比べ,思想内容や文学形式の面から見てもそれに価値相当する他の「清言」作品の注訳は少ない。本稿は当時また近代の中国では知名度の高い張潮の『幽夢影』から二十五条を選び,日本語の注訳を付ける。
著者
郭 莉莉
出版者
千葉商科大学
雑誌
千葉商大紀要 (ISSN:03854566)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.43-57, 2007-09

人々を警(いまし)めるための格言が収録された『小窓幽記』は,陳継儒(1558〜1639)によって編纂され,出版当時,文人ならびに一般の人々に歓迎され好評を博した。『小窓幽記』は格言を綴る形式を用いた,晩明の「清言」作品である。「清言」という形式の著作は南北朝の『世説新語』から始まり,唐代と宋代には禅憎,儒者の語録作品が数多く存在する。明代の末期になると,性霊の表現を追求する文学風潮の影響で,独特かつ文学価値の高い「清言」作品が続出した。『小窓幽記』の他に,陳継儒の「清言」作品には『岩棲幽事』,『安得長者言』,『太平清話』,『狂夫之言』などがあり,同じ「清言」の作者に大きな影響を与えた。明代や清代の「清言」作品の中で一番広く知られているものは『菜根譚』であり,版本の違う日本語訳注を入手することは容易である。それに比べ,思想内容や文学形式の面から見てもそれに価値相当する『小窓幽記』の解釈は少ない。本稿は「素」「豪」「奇」の部から30条を選び,訳注を付ける。
著者
郭 莉莉
出版者
北海道大学大学院文学研究科
雑誌
北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
no.12, pp.391-412, 2012

現在,アメリカとフランスを除く先進諸国は,軒並み低出生率を示している。日本でも「少子化対策」が時代のキーワードになって久しい。ひのえうまの1966年の合計特殊出生率1.58を下回り,1989年に1.57が記録され,「1.57ショック」と騒がれた1990年以降,日本政府によるさまざまな少子化対策はほとんど毎年行われてきたものの,効果が薄く,合計特出生率は1.30台の低い水準で推移してきた。次世代人口が縮小すると,公共財である年金,医療保険,介護保険などが危うくなる。一方,中国では,1979年から30年余り続けられてきた「一人っ子政策」により,現在でも出生率の低下が激しく,子ども数が急減した結果,子ども1人が両親2人と祖父母4人を扶養する負担を背負っている「421問題」が浮上した。併行して家族構造が空洞化しつつあり,大都市では高齢化も急速に進んできて,それに伴う介護問題が深刻になってきた。このように,「少子化する高齢社会」(金子,2006)の動向は,世界の先進国と中進国を問わず大きな社会問題になっている。近年,日本では少子化を克服した先進国フランスの実情が広く知られるようになったために,その改善方法に学ぶ気運が高まっている。国民負担率と出産文化の違いに代表されるように,少子化に悩んでいる日本と克服したフランスでは制度や国民性なども相違はもちろんあるが,フランスにおける育児家族への支援の優良事例を検討することは,日本で少子化対策を新たに創造するうえで参考になると思われる。支援学の観点からすれば,子育て支援には金子が提唱した自助,互助,共助,公助,商助の5類型がある(金子,2002)。本稿では,日中両国の少子化の現状,原因,影響などを考察したうえで,子育て環境として,家族からの支援(自助)と行政からの支援(公助)に焦点を当てて,論じてみる。日本と中国は東アジアに所属し,欧米と比べ婚外子率の低さに代表されるように,婚姻・家族をめぐる文化や生活習慣,共有するといわれる儒教的価値観などの面において,多くの共通点があるように思われる。日本の「少子化する高齢社会」の現象は,中国にとっても近未来に生じる可能性が高い。少子化対策に関して,20年余りの試行錯誤を重ねてきた日本の経験に鑑み,欧米諸国と比較するという国際化の前に,まず東アジアに日本の経験を正確に伝えるという国際化を図ることが先決であろう。