- 著者
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郭 莉莉
- 出版者
- 北海道大学大学院文学研究科
- 雑誌
- 北海道大学大学院文学研究科研究論集 (ISSN:13470132)
- 巻号頁・発行日
- no.12, pp.391-412, 2012
現在,アメリカとフランスを除く先進諸国は,軒並み低出生率を示している。日本でも「少子化対策」が時代のキーワードになって久しい。ひのえうまの1966年の合計特殊出生率1.58を下回り,1989年に1.57が記録され,「1.57ショック」と騒がれた1990年以降,日本政府によるさまざまな少子化対策はほとんど毎年行われてきたものの,効果が薄く,合計特出生率は1.30台の低い水準で推移してきた。次世代人口が縮小すると,公共財である年金,医療保険,介護保険などが危うくなる。一方,中国では,1979年から30年余り続けられてきた「一人っ子政策」により,現在でも出生率の低下が激しく,子ども数が急減した結果,子ども1人が両親2人と祖父母4人を扶養する負担を背負っている「421問題」が浮上した。併行して家族構造が空洞化しつつあり,大都市では高齢化も急速に進んできて,それに伴う介護問題が深刻になってきた。このように,「少子化する高齢社会」(金子,2006)の動向は,世界の先進国と中進国を問わず大きな社会問題になっている。近年,日本では少子化を克服した先進国フランスの実情が広く知られるようになったために,その改善方法に学ぶ気運が高まっている。国民負担率と出産文化の違いに代表されるように,少子化に悩んでいる日本と克服したフランスでは制度や国民性なども相違はもちろんあるが,フランスにおける育児家族への支援の優良事例を検討することは,日本で少子化対策を新たに創造するうえで参考になると思われる。支援学の観点からすれば,子育て支援には金子が提唱した自助,互助,共助,公助,商助の5類型がある(金子,2002)。本稿では,日中両国の少子化の現状,原因,影響などを考察したうえで,子育て環境として,家族からの支援(自助)と行政からの支援(公助)に焦点を当てて,論じてみる。日本と中国は東アジアに所属し,欧米と比べ婚外子率の低さに代表されるように,婚姻・家族をめぐる文化や生活習慣,共有するといわれる儒教的価値観などの面において,多くの共通点があるように思われる。日本の「少子化する高齢社会」の現象は,中国にとっても近未来に生じる可能性が高い。少子化対策に関して,20年余りの試行錯誤を重ねてきた日本の経験に鑑み,欧米諸国と比較するという国際化の前に,まず東アジアに日本の経験を正確に伝えるという国際化を図ることが先決であろう。