- 著者
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酒井 聡樹
- 出版者
- 東北大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2004
これまでの研究では、集団間で送粉者が異なることによって、花の香りが異なることが知られている。しかし、花の香りは以下の要因でも変化しうるのではないだろうか。1.昼夜:昼夜で送粉者が変化することがあるため。2.花齢:花齢が進むにつれて、訪花要求量(残存胚珠・花粉)が減少するため。本研究では、これらの昼夜・花齢によって花の香りが変化するのかどうかを量・質に着目して調査し、それが雌雄繁殖成功に与える影響を明らかにする。質のデータを付け加え3年分の結果を報告する。【実験方法】ヤマユリ(ユリ科・花寿命約7日)を用いて以下の調査を行った。1.香りの時間(昼夜・花齢)依存変化 2.送粉者の昼夜変化 3.繁殖成功(送粉者の違いの影響をみるため、昼/夜のみ袋がけ処理を行い、雌成功:種子成熟率・雄成功:花粉残存数を比較)【結果】1.昼に比べ夜の方が香りは強くなり、花齢が進むにつれて香りは弱くなる傾向にあった。時間によって組成比は様々に変化したが、最も類似度が高かったのは夜の香り.同士を比較したものだった。2.昼にはカラスアゲハ、夜にはエゾシモフリスズメが訪花していた。3.雌成功・雄成功共に、昼夜での違いはなかったが、雌成功は昼夜どちらかの送粉者のみで十分だったのに対し、雄成功は昼夜両方の送粉者に訪花される必要があった。ヤマユリの花の香りが夜に強くなるのは、暗闇によって減少する視覚効果を補うためであり、昼夜両方の送粉者を呼ぶという戦略をとっているのは、主に雄繁殖成功を高めるためではないかと考えられる。