著者
重石 英生 杉山 勝
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.149-159, 2017 (Released:2017-08-08)
参考文献数
88

Human Papillomavirus(HPV)の感染は子宮頸癌の最大の危険因子であり,頭頸部領域では中咽頭癌の発症や治療の予後に関係している.一方,口腔へのHPV感染と口腔癌との因果関係についてはいまだ不明な点が多い.そこで本稿では,最新の疫学研究や基礎的研究の結果をもとに,口腔のHPV感染の危険因子や,口腔癌におけるHPV陽性率および HPV陽性口腔癌の分子生物学的特徴について検討した.その結果,口腔癌におけるHPV DNAの陽性率は4.0 〜32.0%で,高リスク型HPVの中では,HPV16が高い陽性率を示した.上皮異形成症や口腔扁平上皮癌では,正常口腔上皮と比較してHPV16陽性率が高く,HPV16が口腔癌の発生において何らかの役割を担う可能性がある.また,口腔癌では,E6, E7 mRNAの陽性率は数%であり,HPV DNA陽性率と比較しても低いため,HPV関連口腔癌(口腔のHPV感染が原因で生じる口腔癌)において,E6, E7の安定高発現を介さない悪性形質の獲得機構の存在が示唆される.HPV16陽性口腔癌患者は陰性口腔癌患者と比較して,予後が良好であるとの報告があるが,HPV関連口腔癌の予後についてはいまだ明らかになっていない.口腔内の衛生状態とHPV感染には関連性があり,口腔ケアや禁煙対策は,口腔へのHPV感染を予防するうえで重要であると考えられる.今後,HPV関連口腔癌の予防を科学的根拠に基づいて行うためには,HPV DNA陽性口腔癌におけるHPVの存在意義と役割を明確にする必要があり,口腔HPV感染の基礎的,臨床的研究の推進が強く望まれる.