- 著者
-
野内 勇
- 出版者
- Japan Society for Atmospheric Environment
- 雑誌
- 大気汚染学会誌 (ISSN:03867064)
- 巻号頁・発行日
- vol.25, no.5, pp.295-312, 1990-09-10 (Released:2011-11-08)
- 参考文献数
- 148
- 被引用文献数
-
13
酸性雨は今や世界的な環境問題であり, 酸性雨の陸上生態系への影響に関する多くの研究が報告されている。本稿は酸性雨による農作物および森林樹木への影響をまとめたものであり, 特に, 酸性雨による葉障害, 植物の生長低下や農作物の収量減少, 障害発現メカニズムおよび酸性雨が原因と言われている森林衰退を中心とした。人工酸性雨の実験によると, 葉面に現れる可視葉被害発生は, ほとんどの農作物ではpH3.5以下であり, いくつかの感受性の樹木ではpH 3.0以下であった。また, ほとんどの人工酸性雨実験で, 農作物の生長・収量減少と樹木苗木の生長減少は, pH 3.0以上のpHの酸性溶液では生じなかった。それ故, 現在の大気環境レベル (pH4.0~5.0) の酸性雨では, 農作物の生長や収量および樹木苗木の短期の生長には影響はないであろう。しかし, 自然の森林における樹木では, 酸性雨は土壌を酸性化し, 毒性の強いアルミニウムの溶解性の増加, 葉成分および土壌養分の酸性溶脱の増加, 菌根菌の活性阻害など様々な影響を受けている。そのため, 酸性雨は森林衰退に寄与する環境要因の一つであるかもしれない。森林衰退の原因に関しては,(1) 土壌酸性化-アルミニウム毒性説,(2) オゾン説,(3) マグネシウム欠乏説,(4) 窒素過剰説,(5) 複合ストレス説の五つの主要な仮説がある。酸性雨にはこの5仮説のうち4つに関連する。ヨーロッパや北米での森林衰退の原因は明らかではないが, 研究者の多くは寒害, かんばつ, アルミニウム毒性, 昆虫害, オゾン, 酸性雨, 酸性の雲水などが複合して森林衰退を導いているものと推定している。