著者
後山 尚久 野坂 桜 池田 篤 植木 實
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.34-43, 2005

子供の主治医の小児科医より診療依頼を受け, 心身医学的治療を行った中高年女性を経験した.3名の患者の子供は全員が疾患を有していたため, 小児科医師が子供の治療経過の中で母親の心身医療の受診の必要性を認めた.第1例目は, 子供が摂食障害の発症により母親への依存行動が出現し, 気分障害となった.子どもはその後強迫性障害を発症したが, 薬物療法に加え, 現状を"ありのまま"に受け入れることと, 子供の立場や考え方を"わが身に引き当てて"子供の目線で母親(自分)の行動を客観的に観察することにより, 行動の歪みを認知でき, 子供に対し自然な接し方ができるようになった.第2例目は, 子供が過換気症候群を契機に不登校となった.家族の誰にも自分の苦しみを表明できないうちに, 気分障害を発症した.周囲に苦しみを分け与えたこと, 子供の不登校を"ありのまま"に受け入れ, 世の中のすべては"諸行無常"であるという仏教的概念を心理療法の中心として薬物療法に加えて実施したところ, 徐々に考え方が楽になり, 6カ月後には不登校には変化がないものの, 自覚的には健康感が回復した.第3例目は, 配偶者との結婚直後から20年間に及ぶDV, 精神発達遅滞の子供の10年間に亘る介護, 「世間体が悪い」との理由による両親からの一方的な絶縁の申し出などにより月経前不快症候群(PMDD)を発症した.本例も薬物療法を行いながら"諸行無常"という仏教的概念を中心とした心理療法を行ったところ, 月経3周期目には自覚的な精神, 身体症状が著明に改善した.治療として, いずれも仏教的思想, 概念, 教義を加味した心理療法を行い, それぞれが「さとり」に近い心理状況を得たことが治療効果を促進したと思われた.