著者
後山 尚久 池田 篤 植木 實
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学 (ISSN:13452894)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.177-184, 2003
被引用文献数
2

元来の神経質素質と心気的傾向に医師の不用意な言葉を強化子として形成された頑固な骨盤内疼痛(身体表現性疼痛障害)の診療を経験した.患者は36歳の事務員.仕事に没頭し,男女交際を避けていた生活において36歳で男性との性的初体験の際の「ささいな」骨盤内違和感から,しだいに下腹部の堪え難い疼痛となり,慢性的な全身倦怠感,肩こり,不安感を認め,生活(仕事,家庭内の日常的内容)に支障をきたした.相手の男性への心担い言葉に対するアンビバレンス感情の中で,行動の抑制ができなくなり,骨盤内疼痛への執拗なとらわれ,日常の行動に疼痛顕示行為がみられた.薬物療法への消極的な姿勢のため,治療6ヵ月過ぎから通常の心理療法に加えて森田療法的アプローチ,オペラント条件づけなどを積極的に行ったところ,奏効し,前向きの人生を描くことができるようになり,治療1年で治癒した.本症例は,元来の性格に,異性の問題,職場への固執などがストレス要因としてからみ,些細な身体違和感から疼痛症状が固定化した身体表現性疼痛障害に分類される慢性骨盤内疼痛(chronic Del vieoain: CPP)である.医師の一言が強化子となっていることが判明したため,行動論的カウンセリングを行った.またヒポコンドリー性判断が容易になされる性格であったので,森田療法的アプローチも行い、運良く奏効,前向きの人生に向けて再出発できた.
著者
後山 尚久 野坂 桜 池田 篤 植木 實
出版者
一般社団法人 日本女性心身医学会
雑誌
女性心身医学
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.34-43, 2005

子供の主治医の小児科医より診療依頼を受け, 心身医学的治療を行った中高年女性を経験した.3名の患者の子供は全員が疾患を有していたため, 小児科医師が子供の治療経過の中で母親の心身医療の受診の必要性を認めた.第1例目は, 子供が摂食障害の発症により母親への依存行動が出現し, 気分障害となった.子どもはその後強迫性障害を発症したが, 薬物療法に加え, 現状を"ありのまま"に受け入れることと, 子供の立場や考え方を"わが身に引き当てて"子供の目線で母親(自分)の行動を客観的に観察することにより, 行動の歪みを認知でき, 子供に対し自然な接し方ができるようになった.第2例目は, 子供が過換気症候群を契機に不登校となった.家族の誰にも自分の苦しみを表明できないうちに, 気分障害を発症した.周囲に苦しみを分け与えたこと, 子供の不登校を"ありのまま"に受け入れ, 世の中のすべては"諸行無常"であるという仏教的概念を心理療法の中心として薬物療法に加えて実施したところ, 徐々に考え方が楽になり, 6カ月後には不登校には変化がないものの, 自覚的には健康感が回復した.第3例目は, 配偶者との結婚直後から20年間に及ぶDV, 精神発達遅滞の子供の10年間に亘る介護, 「世間体が悪い」との理由による両親からの一方的な絶縁の申し出などにより月経前不快症候群(PMDD)を発症した.本例も薬物療法を行いながら"諸行無常"という仏教的概念を中心とした心理療法を行ったところ, 月経3周期目には自覚的な精神, 身体症状が著明に改善した.治療として, いずれも仏教的思想, 概念, 教義を加味した心理療法を行い, それぞれが「さとり」に近い心理状況を得たことが治療効果を促進したと思われた.
著者
熊谷 広治 明瀬 大輔 平井 隆次 植木 實 林 嘉彦
出版者
近畿産科婦人科学会
雑誌
産婦人科の進歩 (ISSN:03708446)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.178-183, 2003 (Released:2003-06-24)
参考文献数
14

2001年に厚生労働省の研究班が行った全国9モデル県での調査によると,性感染症のうちもっとも無症候化しつつ拡散しているのは性器クラミジア感染症であり,男性より女性の罹患率が高い.われわれは,2001年6月から2002年5月までの1年間に公立甲賀病院産婦人科において,甲賀郡・蒲生郡に在住する480例の後腟円蓋部から子宮頸管分泌物を採取し,polymerase chain reaction(PCR)法によりクラミジア・トラコマチスのDNAを検出した.クラミジア抗原陽性率は, 15~19歳群で17.8%と最高値を示し,おおむね年齢が若い群ほど高値を示した.居住地域別の陽性率は,各町のそれぞれで0.0~13.9%の値を示した.陽性者の主訴は,帯下感,下腹部痛,不正性器出血,挙児希望,無症状がそれぞれ, 23.3%,43.3%,6.7%,3.3%,23.3%を占めていた.滋賀県に在住する10~30歳代の女性に対して,症状の有無にかかわらず,積極的にクラミジア検査を行うべきである. 〔産婦の進歩55(2):178-183, 2003(平成15年5月)〕